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例)研究発表 生命科学科
[2006/05/29]
◇体の痛みは心身のケアで快復 ―― 慢性疼痛に見る「心身医学」の一例

 2005年夏、神戸で天皇・皇后両陛下がご臨席されて「第18回世界心身医学会議」が開かれた。その運営委員長を務めた大学院医学研究院の久保千春教授(心身医学)は、「ストレス社会にあって心身両面からの治療が必要な患者さんが増えている。先の世界会議で疼痛がひとつのテーマになった。アメリカでは『脳の10年』から『痛みの10年』」として2001年から国家的なプロジェクトが進められている」という。
 ある主婦は、左足全体と右足の後ろの痛みが10年間も続く。3年前からは右腹部、さらに右肩、背中、腰と激痛が走り全身が痛みに覆われた。近くの医師の検査や診断では、原因をつかめず「ストレスからでしょう」といわれた。痛みに堪えられず、九州大学病院心療内科に担架で運ばれた。原因不明で長期間痛む慢性疼痛と診断された。
 久保教授によると、痛みを感じるには二つの経路がある。一つは刺激を受けると神経によって脊髄前外側を経由して脳幹で外側系と内側系に分かれ、外側系が大脳に伝わって体性感覚野で痛みの識別を知覚する。もう1つの内側系は、大脳皮質の広い領域に投射して不快な痛み経験(情動的側面)として感じる。また脳幹部より脊髄後角に投射されている痛みの下行抑制系も存在する。うつ状態ではこの機能が低下して痛みが強く感じられる。 
 心理的ストレスは情動(うつ、不安など)に大きく関係し、痛みにも影響を及ぼす。心身医学ではこのストレスや情動をどう解決するかが大事な治療のポイントになる。直接的な痛みの除去だけでなく、多面的な療法を試みる。そのためには過去の病歴、日常生活、心理テスト、病気に対する家族や周囲の理解にいたるまで患者さんから情報を収集して、痛みの発症・持続・憎悪因子(原因)を掘り起こす。治療は薬物療法、心理療法、理学療法、ペインクリニックなどさまざまな療法を段階的に取り入れる。どのような治療を行うかは患者さんと話し合いながら進める。主婦の場合は、両親の介護による負担、父親の死、職場の上司の言動から受ける精神的なストレスといった情動の変化が、疼痛という症状を増悪させていた。4ヶ月ほど入院してチーム医療で完治できた。久保教授は「増加している糖尿病や肥満などの生活習慣病についても心身両面からの治療が重要だ」と指摘する。
 九大病院では、1963年に全国に先駆けて心療内科が開設された。現在も入院患者さんの3分の1は県外からである。

<参考論文>
1. Grabe H.J.et al:Somatoform Pain Disorder in the General Population .Psychother Psychosom 72(2):88-94,2003.
2. 久保千春ら:慢性疼痛.心身症診断・治療ガイドライン2002.協和企画.東京.P8-28,2002.

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