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例)研究発表 生命科学科
[2021/02/05]
「ミトコンドリア翻訳機能がリソソーム活性を制御する新機構を発見 」(検査技術科学分野 内海健教授)

 

 
ミトコンドリア翻訳機能がリソソーム活性を制御する新機構を発見
 

  
  九州大学大学院医学研究院保健学部門検査技術科学分野の八木美佳子助教(筆頭著者)、内海健教授(責任著者)、同院臨床検査医学分野の康東天教授らの研究グループは老化に伴うミトコンドリア翻訳(*1)障害がリソソーム機能の酸性化低下を引き起こしオートファジーに関与する新たな分子メカニズムの解明に成功しました。
  八木助教らは、これまでミトコンドリア翻訳調節因子 p32(*2)の臓器特異的ノックアウトマウス(*3)を作成し、白質脳症、拡張型心筋症に関与することを見出してきました。しかし、ミトコンドリア翻訳機能とオートファジー経路(*4)との関係、特にリソソーム活性(*5)については明らかではありませんでした。本研究では、ミトコンドリア翻訳阻害が低酸素誘導因子HIF1α(*6)の発現を促進し、NAD(*7)合成酵素の Nmnat3 遺伝子発現(*8)を抑制することで NAD 量が低下することを見出しました。さらに、リソソーム外膜上には解糖系酵素であるGAPDH/PGK(*9)が存在し NAD による局所的な ATP 産生を担うユニークな機構を明らかにしました。このことにより、リソソームの機能を低下させ、ひいてはオートファジー低下を引き起こし、病態に関与することを見出しました。ミトコンドリア-リソソーム機能で新たに判明した分子メカニズムから NAD はリソソーム機能に必要不可欠であるため、細胞内 NAD 量を増加できればミトコンドリアを介した老化関連疾患への治療法が期待されます。
  本研究成果は、2021 年 2 月 2 日(火)午後 8 時(日本時間)に、欧州分子生物学機関誌『EMBO Journal』 オンライン版に掲載されました。
 
研究者からひとこと:
ミトコンドリア機能は老化に伴い低下し、神経変性疾患、拡張型心筋症を発症しますがその詳細な機構は明らかではありませんでした。今回の研究では、ミトコンドリアがNAD 合成系を介してリソソーム機能、オートファジー経路を制御する新たな分子機構を明らかにすることができました。この発見は、老化に伴う疾患の根本的な治療戦略に結び付くことが期待されます。
 
(参考図)
卵老化に伴うミトコンドリア翻訳異常は HIF1a-Nmnat3-NAD 量低下を引き起こすこと、さらに、リソソーム膜上では解糖系酵素により NAD から局所的 ATP 産生に関与しリソソーム機能の恒常性に寄与する新規分子機構について明らかにした。  
  
 

   
【お問い合わせ】  九州大学 大学院医学研究院 保健学部門 検査技術科学分野 教授 内海 健
  TEL:092-642-5750 E-mail:uchiumi(a)med.kyushu-u.ac.jp
        ※(a)を@に置きかえてメールをご送信ください。


【用語の解説】
(*1)ミトコンドリア翻訳:
ミトコンドリアには独自の DNA が存在し、ミトコンドリア内で転写翻訳機構を有している。
(*2)ミトコンドリア翻訳調節因子 p32:
p32はミトコンドリアマトリックスに局在しミトコンドリアの mRNAとリボソームに会合することでミトコンドリア翻訳機構を調節している。
(*3)臓器特異的 p32 ノックアウトマスス:
脳や心臓などノックアウトしたい臓器のみ p32 タンパク質を欠損させているマウス。Cre-loxP システムを用いている。神経特異的 p32 ノックアウトマウスは白質脳症を呈して 8 週で死亡。心筋特異的 p32 ノックアウトマウスは拡張型心筋症を呈して 12 か月で死亡。
(*4)オートファジー:
細胞内の不要物をオートファゴソーム膜で囲み、リソソームと結合することで分解する経路。
(*5)リソソーム:
細胞内小器官の 1 つで膜に覆われており、内部は酸性を示し細胞内不要物を取り込み分解する。
(*6)HIF1α:
低酸素になると誘導される転写因子。解糖系、鉄代謝に関与する遺伝子の転写を亢進させると考えられている。本研究ではミトコンドリア翻訳異常が HIF1a の安定化を誘導して、Nmnat3 の遺伝子発現を抑制する新規機序を明らかにした。
(*7)NAD:
NAD(Nicotinamide adenine dinucleotide)はすべての真核生物で用いられる電子伝達体であり、様々な脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型及び還元型の 2 つの状態を取り得る。老化と共に減少することが知られている。 (*8)Nmnat3:
Nicotinamide を利用する NAD 合成系 (salvage 経路)に関与する酵素のひとつである。Nmnat3 はミトコ ンドリアに局在すると考えられてきたが、本研究により心筋では一部細胞質に存在し NAD 合成系に関与することを見出した。
(*9)GAPDH/PGK:
解糖系酵素の複合体。GAPDH 酵素反応は NAD を使用し、PGK 酵素反応は ATP を産生する。リソソーム外膜上で GAPDH と PGK は複合体を形成することを見出した。複合体形成により NAD, 3PG, Pi を基質として最終的に ATP を産生することができる。
【論文情報】
タイトル:Mitochondrial translation deficiency impairs NAD-mediated lysosomal acidification
著 者 名:Mikako Yagi, Takahiro Toshima, Rie Amamoto, Yura Do, Haruka Hirai, Daiki Setoyama, Dongchon Kang and Takeshi Uchiumi
掲 載 誌:EMBO Journal D O I:10.15252/embj.2020106663
【研究助成金情報】
本研究は、日本学術振興会科学研究費 JP17H01550, JP15H04764, JP25253041, JP18K15421 の支援を受けました。

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