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例)研究発表 生命科学科
[2011/09/07]
麻疹ウイルスがマウスで効率良く増殖するための画期的なシステムの構築に成功
麻疹ウイルスがマウスで効率良く増殖するための画期的なシステムの構築に成功
—ウイルス感染症の病態解明、抗ウイルス薬開発への応用に期待−
概 要
九州大学大学院医学研究院ウイルス学分野 柳雄介教授のグループは、センダイウイルスのCタンパク質を利用して、ヒトのウイルスである麻疹ウイルスがマウス培養細胞で効率よく増殖するシステムの構築に成功しました。この成果は麻疹ウイルス感染症の病態解明につながるだけでなく、他のウイルスの感染モデルへの応用が期待されます。本研究は、9月7日(日本時間)、米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci. USA.)速報版で公開されました。


■背 景
麻疹(はしか)は、発熱・発疹を主症状とする急性ウイルス感染症で、ごく稀に感染数年後に難治性の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を引き起こすことが知られています。有効なワクチンがあるにもかかわらず、途上国を中心として毎年二千万人の患者と十数万人の死者を出す主要なウイルス感染症です。2000年に、柳教授らのグループは、麻疹ウイルスが免疫細胞の表面に発現するヒトSLAMと呼ばれる分子を受容体として細胞に感染することを発見しました。また2007年に、麻疹の動物モデルとして、マウスのSLAM分子をヒトのSLAM分子に置換したSLAMノックインマウスを作製しました。しかし、麻疹ウイルスがマウスで効率良く増殖するには、さらにマウスの免疫応答を抑える必要があることがわかりました。
私たちの身体にウイルスが感染すると、インターフェロンやサイトカインと呼ばれる炎症物質が放出され、ウイルスを排除しようとします。多くのウイルス感染症ではこのような免疫応答が病態に関わっていることが知られています。そこで、柳教授らは麻疹の病態解明のため、マウスを完全に免疫不全状態にせずに麻疹ウイルスが効率良く増殖できるシステムの構築に取りかかりました。


■内 容
センダイウイルスはマウスで効率よく増殖し、マウスに致死的な肺炎を引き起こします。そのセンダイウイルスがコードする(配列として暗号化する)Cタンパク質はマウスの免疫応答、特にインターフェロンを抑制することが知られています。柳教授のグループは、麻疹ウイルスが感染したマウスの培養細胞でのみ、センダイウイルスCタンパク質(SeV C)が発現する実験系を確立しました。
これはCreと呼ばれる酵素がloxPという特異的なDNA配列を認識してDNAを組換えるという性質を利用したものであり、①Creを発現する麻疹ウイルスと、②センダイウイルスCタンパク質をコードする遺伝子の上流にloxP配列を有するマウス培養細胞を遺伝子改変技術で作製することで実現しました(下図参照)。このことによって、麻疹ウイルス感染細胞で特異的に、ウイルス抵抗性を抑制することが可能となりました。
ウイルス感染実験では、センダイウイルスCタンパク質が発現することで麻疹ウイルスの増殖が約100倍上昇することが明らかになりました。一方、麻疹ウイルスに感染していない細胞はセンダイウイルスCタンパク質を発現しないため、正常な免疫応答を示すと考えられます。


■効果と今後の展開
麻疹ウイルスのように、ヒトのみを自然宿主とするウイルスは、ヒトの免疫応答に対抗することはできますが、マウスのような本来の宿主でない動物の免疫応答には必ずしも対抗できません。このことがマウスを使った動物実験を進める上での障害となってきました。ウイルス感染症の病態解明、また抗ウイルス薬の開発のために、感染マウスモデルが必要不可欠であることは言うまでもありません。本研究の成果は麻疹ウイルス以外にも、C型肝炎など他の重要なヒトウイルス感染症のマウスモデルへの応用が期待されます。柳教授のグループは今回確立したシステムをもとにした遺伝子改変マウスの作製に取りかかっており、より詳細な麻疹の病態解析を進めていく予定です。


【参考】

図 Cre-loxPを利用したセンダイウイルスCタンパク質(SeV C)発現システム

左:ウイルス非感染細胞では、SeV Cが発現しないように、2つのloxP配列間で転写がストッ プするようにしておく。この細胞は、
  正常な免疫応答をするのでウイルスに抵抗性である。
右:Creを発現する麻疹ウイルスが感染すると、Creの働きによりloxP間の配列が切り取られ、下流のSeV Cが発現する。
  そのため、免疫応答が抑えられ、ウイルスはより良く増殖するようになる。


論文
Iwasaki M. and Yanagi Y.
Expression of the Sendai (murine parainfluenza) virus C protein alleviates restriction of measles
virus growth in mouse cells
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2011
【お問い合わせ】
九州大学大学院医学研究院・ウイルス学分野 教授 柳 雄介
電話:092-642-6138
FAX:092-642-6140
Mail:yyanagi(a)virology.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に読み替え
ウィルス学分野のホームページ


この記事は本学のウエブサイトへプレスリリース(http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2011/2011-09-07.pdf)から転載しました。

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