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例)研究発表 生命科学科
[2012/05/16]
細胞が筋肉となるメカニズムを解明~遺伝子マーキング(目印)機構の存在の発見~
細胞が筋肉となるメカニズムを解明
~遺伝子マーキング(目印)機構の存在の発見~

概 要
 九州大学医学研究院の大川恭行准教授、原田哲仁研究員らは、ゲノム上の骨格筋形成にかかわる遺伝子群は、細胞が筋肉形成される以前にH3.3と呼ばれるタンパク質で予めマーキングされており、このマーキングが形成されることで、細胞が筋肉組織を形成する能力を獲得することを明らかとしました。また、マーキングの形成は、Chd2・MyoDの二つのタンパク質が行っていることを突き止めました。この研究により、遺伝子のマーキングをモニタリングすることで、細胞が将来どの組織になるのか予測が可能となり、再生医療分野への応用が期待できます。本成果は、5月16日にEMBO Journalにオンライン版に掲載されました。


 ■背 景
 
 人間の体は、脳、筋肉、肝臓といった様々な組織で成り立っており、これら組織は60兆個もの多様な細胞で形成されています。これら多様な細胞は、幹細胞と呼ばれる一つの細胞から、体が形成されていく過程で、異なる機能を得ることで組織としての機能を獲得していきます。この細胞ごとの機能の違いは、細胞で使われる遺伝子の違いにあります。全ての細胞に同数存在する遺伝子から、特定のグループが選ばれることで特定の細胞が形成されます(図1)。そして、それら細胞が集まることで臓器が形作られていきます。このような様々な臓器を形作り変化する能力は、分化能と呼ばれます。一方で、この分化能は遺伝情報が収納されている核内に何らかのマーキング(エピジェネティックメモリー)として存在することが示唆されていましたが、明らかになっていませんでした。本研究では、特に筋肉形成(骨格筋分化)を例として、どのように筋肉形成時に骨格筋遺伝子が選ばれるかを解析しました。


■内 容
 
 大川恭行准教授らは、これまでヒストン(*1)とよばれるDNAが巻き付く足場となっているタンパク質に注目して解析を行ってきました。その結果、特定の組織に変化する能力を持った細胞は、予めH3.3と呼ばれる特殊なヒストン(ヒストンバリアント(*2))を目印として、特定の細胞に変化するために必要な遺伝子を標識することを明らかにしました。さらに、この選択の機構が、MyoD(*3)と呼ばれるタンパク質が骨格筋遺伝子に結合し、Chd2(*4)タンパク質がH3.3を遺伝子座に組み込むことでマーキングしていることも発見しました(図2)。一方で、マーキング機構を失った細胞では、骨格筋の形成がなされなかったことから、骨格筋形成を事前に予測できる細胞内のメカニズムを明らかにした世界初の知見と言えます。


■効 果

 本研究で明らかになった遺伝子のマーキング機構は、骨格筋のみならず多くの組織形成でも同様の現象があると考えらます。今後盛んになる再生医療では、いかにして移植前の細胞が人体で機能するかを予測することが、機能性や安全評価の点からも極めて重要であり、本研究は再生医療の実用化にとって極めて有効な指標を生み出したことになります。


■今後の展開

 今回明らかとなったヒストンバリアントによるマーキングについて、現在、血液、神経、脂肪といった様々な組織についても同様の解析を進めています。こうした指標を体系的に整えることで、今後の再生医療の実用化の加速に貢献が期待され、今後の研究の進展が注目されます。


【用語解説】

(*1)ヒストン

真核生物の染色体(クロマチン)を構成する塩基性タンパク質の一群。非常に長いDNAを核内に収納する役割を主に担っています。ヒストンはH1, H2A, H2B, H3, H4の5種類が存在します。このうち、H2A、H2B、H3、H4の4種は、コアヒストンと呼ばれ、それぞれ二分子が集まりヒストン八量体(ヒストンオクタマー)を形成します。一つのヒストンオクタマーが、約146bpのDNAを左巻きに約1.65回巻き付けた構造をヌクレオソームと呼び、クロマチン構造の最小単位です。


(*2)ヒストンバリアント
これまで、ヒストンは原核生物から真核生物まで1種類ずつしか存在しないと考えられていましたが、最近、ヒストンH2A、H2B、H3を構成するアミノ酸がわずかに異なるヒストンタンパク質の存在が明らかとなり、ヒストンバリアントと呼びます。ヒストンタンパク質とDNAの相互作用は遺伝子の活性を制御するうえで重要です。遺伝子発現の最初の段階である転写が活性な遺伝子座の染色体では、ヌクレオソームが緩んだり、ヒストンが解離したりしていることが知られています。ヒストンH3のヒストンバリアントであるヒストンH3.3は、この遺伝子の転写が盛んなヌクレオソームに多く存在していることが知られています。


(*3)MyoD
単一遺伝子を線維芽細胞に導入することで筋肉形成を誘導することから、筋肉のマスター遺伝子と呼ばれます。現在のリプログラミングやiPS細胞の開発の最も基礎となった発見でもあります。


(*4)Chd2
クロマチン構造を制御する分子群のひとつとして同定され、その構造からクロモドメインと呼ばれるヒストンに結合する部分を持っていることから名づけられました。

【お問い合わせ】大学院医学研究院准教授 大川 恭行
 電話:092-642-6216 FAX:092-642-6099
 Mail:yohkawa(a)epigenetics.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に読み替え


※九州大学プレスリリースから転載 

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