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例)研究発表 生命科学科
[2013/07/30]
白血球が侵入病原菌に向かって走るための分子機構
白血球が侵入病原菌に向かって走るための分子機構

概 要
 私達の体内に病原性の細菌や真菌(カビの仲間)が侵入すると、白血球の一種である好中球は、真っ先に血管を出て侵入部位に駆けつけ病原菌を食べて殺菌します。九州大学大学院医学研究院の住本 英樹教授らの研究グループは、好中球が病原菌に向かって真直ぐに移動(遊走)するためには、mInsc(エムインスク)という細胞内のタンパク質が必要であることを世界に先駆けて見いだし、さらにmInscが働く分子メカニズムを明らかにしました。この研究は、病原菌から体を守るしくみを深く理解しそれを応用するための基礎となるものです。本成果は、2013年7月25日正午(米国東部時間)に『Developmental Cell』誌でオンライン版公開されます(本誌掲載は8月12日)。

■背 景
 血液中の白血球は、病原性の微生物が侵入すると、血管から出て組織内を移動し侵入部位に至り病原菌を排除しようとします。白血球の中間の1つである好中球は、白血球の中で最も多い細胞ですが(血液中の白血球のうち半分から3分の2は好中球)、細菌や真菌(カビの仲間)を殺菌する上で主役となる細胞です(一方、ウイルス感染に対してはリンパ球と呼ばれる白血球の仲間が必須の役割を果たします)。侵入部位に到達した好中球は、そこで病原菌を食べて殺菌を行います。血液中の好中球数が正常の10分の1以下になると私達は無菌室に入らないかぎり生きていけないことからも、その重要性は明らかです。病原菌が体内に侵入すると、菌に由来する化学物質あるいは生体が菌に反応して生成する化学物質を好中球が感知し、好中球はそれに向かって移動を始めます。このような化学物質を感知してその発生源に向かって細胞が遊走する過程をケモタキシス(走化性)といいますが、ケモタキシスが有効に行われるには、細胞の運動性が高まるとともに運動の方向を保つことが必要になります。運動性を高める分子メカニズムについてはすでに多くのことが分っていましたが、運動の方向を保つ仕組みについては殆んど分っていませんでした。

■内 容
 好中球が病原菌などの目標に向かって正しく(方向性を保って)移動するにはmInsc(エムインスク)という
 
細胞内タンパク質が必要であることを、研究グループは世界に先駆けて見いだしました。まず、mInscを持たない好中球を作出し、この好中球は病原菌に由来する走化性因子によって運動性は高まるものの、そこに向かって真直ぐに動き続けることができないこと(運動の方向を維持できないこと)を発見しました。すなわち、好中球が遊走する時に形成された前後軸(前後方向の細胞極性)を正しく維持するのに、mInscが必要なことを見いだしたわけです。また、好中球は細胞に形成された前後軸(前後方向の細胞極性)を正しく維持するのに、mInscが必要なことを見いだしたわけです。また、好中球は細胞膜にある受容体タンパク質(レセプター)を使って走化性因子を感知しますが、mInscが受容体タンパク質と細胞内の極性維持装置をつなぐ働きを持っていることも明らかにしました。前頁の図は、実際の好中球の顕微鏡写真ですが、刺激前すなわち休止時の好中球は丸い形をしています。マイクロピペットの先から出てくる走化性因子に反応して好中球は形を変え、前後軸ができます。すなわち、前が幅広く後は先細った形になります。この状態が、前後方向の細胞極性ができた状態です。mInscは、この遊走中の好中球の前部に集まって、前後方向の細胞極性を保つ役割を果たし、好中球が目的地に真直ぐに到達できるようにします。このように、好中球が病原菌に素早く到達し速やかに殺菌を行うために、mInscは重要な働きをしているわけです。

■効 果
 本研究成果は、病原菌から体を守るしくみを深く理解し、それを応用するための基礎となるものです。私達の体は、常に、病原性の細菌や真菌による感染の危機に直面しています。それを防いでいるのが白血球の1つである好中球です。病原菌が体内に侵入すると、好中球はいち早くそれを感知して血管から出て侵入部位に遊走し、そこで病原菌を食べて殺菌を行います。この時の遊走が的確に効率的に起こるためのしくみ(分子機構)が、今回の研究で明らかになりました。

■今後の展開
 今回明らかとなった好中球の遊走の分子機構は、将来は、実際の臨床の場において細菌感染症や真菌感染症に対する治療法の選択や新規な治療法の開発のための基礎となると期待されます。一方、他の細胞による遊走のメカニズムを解明するための研究への展開も期待できます。昔から、アメーバなどの単細胞生物が活発に動き回ることはよく知られていましたが、私達「多細胞生物」の体内には、好中球以外にも、組織内を移動(遊走)し場所を変えて活動する細胞が存在します。例えば、神経発生の過程では、ある種の神経細胞はしかるべき場所まで脳内を移動することが必要です。今回の研究は、好中球にとどまらず、他の重要な細胞が遊走するメカニズムを解明するためにも役立つと考えられます。


【お問い合わせ】
大学院医学研究院 教授 住本 英樹(すみもと ひでき)
            助教 鎌倉 幸子(かまくら さちこ)
電話:092-642-6096/FAX:092-642-6103
Mail:hsumi(a)med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に置換えてメール送信してください。
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