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例)研究発表 生命科学科
[2014/04/16]
性差生物学講座 解糖系遺伝子群の新たな制御機構
解糖系遺伝子群の発現を統轄する新たな制御機構の解明

概 要
 九州大学大学院医学研究院の諸橋憲一郎主幹教授、馬場崇助教を中心とする研究グループは、細胞内エネルギー産生を担う解糖系を構築する遺伝子群が一つの転写因子Ad4BP/SF-1 (Nr5a1)(※1) により統括的に制御されていることを明らかにしました。糖代謝は細胞内エネルギー産生を制御する最も重要な代謝経路であることから、本研究成果は多様な生命現象や疾患の理解に新たな視点を提供します。本研究成果は、2014年4月14日(月)10:00(英国時間)に、国際学術誌Nature姉妹誌のオンラインジャーナル “Nature Communications” に掲載されました。
本研究は、九州大学生体防御医学研究所の佐藤哲也助教、須山幹太教授、台湾中央研究院分子生物学研究所のChia-Yih Wang研究員、Bon-Chu Chung教授、大阪大学大学院生命機能研究科の木村宏准教授、小川英知招聘准教授、九州大学医学研究院臨床検査医学分野の八木美佳子研究員、康東天教授、広島大学大学院総合科学研究科の石原康宏助教、山崎岳教授、熊本大学発生医学研究所の日野信次郎助教、中尾光善教授、九州大学大学院医学研究院エピジェネティクス分野の大川恭行准教授との共同研究によりなされました。

■背 景
 ヒトを含むほぼ全ての生物は糖(グルコース)を代謝することにより、生命活動に必要なエネルギーを作り出しています。この代謝系は解糖系と呼ばれ、9段階の連続した酵素反応によりグルコースはピルビン酸に転換されます(次ページの図、右側)。この代謝反応を触媒する酵素タンパク質の活性が、栄養状態などのシグナルにより制御されていることが知られています。しかし、解糖系を構築する遺伝子群の発現制御機構についてはよく分かっていませんでした。
副腎皮質や生殖腺(精巣と卵巣)はステロイドホルモン(※2)を合成する組織です。Ad4BP/SF-1 (Nr5a1) はこれらの組織で発現し、ステロイドホルモン合成に必要な全ての遺伝子を制御する転写因子として知られてきました。また、Ad4BP/SF-1遺伝子を破壊すると上記の組織が消失することも知られていました。しかしながら、このたった一つの遺伝子の破壊がなぜこれらの組織の消失を招くかについては不明でした。

■内 容
 九州大学大学院医学研究院の諸橋憲一郎主幹教授、馬場崇助教を中心とする研究グループは、副腎皮質の細胞において、解糖系を構築する全ての遺伝子群がAd4BP/SF-1によって制御されていることを、次世代シークエンサーを用いた全ゲノムを対象とする実験によって、初めて明らかにしました。このように、解糖系とステロイドホルモン産生系が同一の転写因子によって統括的に制御されるという結果(次ページの図)は、この二つの代謝系の密接な関係を想起させるものでした。そして予想どおりに、解糖系によって作られる生体材料 (アセチルCoA, ATP, NADPH) がステロイドホルモン産生に不可欠であることが明らかとなりました。また、細胞が増殖するにあたっては多量のエネルギーや生体物質を必要とします。Ad4BP/SF-1遺伝子を破壊したマウスから副腎皮質と生殖腺が消失する原因は、エネルギーや生体物質の不足に起因する細胞増殖の低下(停止)であると理解することが可能です。

■効 果
 従来、解糖系の活性は、その反応を触媒する酵素タンパク質の活性によって調節されていると考えられてきました。本研究では、解糖系の活性が遺伝子レベルでも制御されていること、そして解糖系を構築する一群の遺伝子を一斉に調節するためにAd4BP/SF-1がこれらほぼ全ての遺伝子の発現を調節していることを示しました。解糖系は様々な生命現象や疾患と密接に関連します。例えば、ガン細胞では解糖系の活性が異常に亢進していることが知られています。興味深いことに、副腎皮質腫瘍ではAd4BP/SF-1遺伝子数が増幅されており、またその悪性度がAd4BP/SF-1の発現量と相関するとの報告があります。本研究の成果を考慮すれば、Ad4BP/SF-1の発現上昇によって解糖系遺伝子群の発現が上昇し、その結果として副腎皮質腫瘍における解糖系の異常な亢進がもたらされた可能性が考えられます。これまでにAd4BP/SF-1の発現異常とガンとの関係が指摘されているのは副腎皮質においてのみですが、同様の関係が精巣や卵巣のある種の腫瘍にも当てはまると推測することが可能です。
このように、本研究により得られた成果は、細胞内エネルギー産生の根幹となる代謝系や種々の疾患の理解に向けて新たな視点を提供します。

■今後の展開
 グルコースは私たちの体を構成する全ての細胞で代謝されます。一方、Ad4BP/SF-1は副腎皮質や生殖腺のステロイドホルモン産生細胞のみで働いています。それでは、他の細胞では解糖系遺伝子群の発現はどのように制御されているのでしょうか。Ad4BP/SF-1とよく似た構造や働きをする転写因子がいくつか知られています。これらの転写因子が他の細胞においてAd4BP/SF-1と同じように解糖系遺伝子群の制御を行っている可能性があります。今回、研究グループは、Ad4BP/SF-1が副腎皮質や生殖腺でエネルギー産生を制御することを明らかにしましたが、このような制御が普遍的な制御系であることを示したいと考えています。
グルコース代謝の活性は栄養環境などからのシグナルにより調節されます。Ad4BP/SF-1もこのようなシグナルによって制御されるのか。また、制御されるとしたらどのようなメカニズムで解糖系遺伝子群の発現制御を行うのか。これらのメカニズムを分子レベルで解明していくことが、様々な生命現象や疾患の根源的な理解に繋がると考えています。
 

【図の説明】
ステロイドホルモン(アルドステロンやコルチゾールなど)の合成には、原材料および補酵素として、アセチルCoA(図中、右下)、ATP(オレンジ色で表示)、NADPH(オレンジ色で表示)が必要です。ATPおよびNADPHはグルコースの代謝過程で産生されます。また、解糖系の最終産物であるピルビン酸はアセチルCoAに転換されます。このようにAd4BP/SF-1は、アセチルCoA、ATP、NADPHの産生系(解糖系)と消費系(ステロイドホルモン産生合成系)を同時に制御していることが分かりました。このような仕組みにより、効率的なステロイドホルモン産生が可能になっていると考えられます。

【用語解説】

(※1)Ad4BP/SF-1:

  遺伝子の調節領域に結合し、その発現を調節する転写因子の一つ。ステロイドホルモンを産生する細胞に発現し、ステロイドホルモン合成に必要な遺伝子の発現を制御する。この遺伝子を破壊したマウスを作成したところ、副腎皮質や生殖腺(精巣と卵巣)が消失したことから、これらの組織形成に必須の遺伝子と考えられている。

(※2)ステロイドホルモン:

  副腎皮質では体液中のグルコースとイオン量を調節する糖質コルチコイドと電解質コルチコイドが、精巣と卵巣からはそれぞれ男性ホルモンと女性ホルモンが合成される。これらのホルモンは全てコレステロールより合成され、ステロイドホルモンと呼ばれる。

  【お問い合わせ】
大学院医学研究院 主幹教授 諸橋 憲一郎(もろはし けんいちろう)
電話:092-642-6180
FAX:092-642-6181
Mail:moro(a)cell.med.kyushu-u.ac.jp 
※(a)を@に置換えてメール送信してください。

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