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例)研究発表 生命科学科
[2015/03/03]
マールブルグウイルス・エボラウイルスの両方に結合する抗体とウイルス糖蛋白質GPの構造を世界で初めて解明 (ウイルス学分野 橋口隆生助教)
マールブルグウイルス・エボラウイルスの両方に結合する抗体と
ウイルス糖蛋白質GPの構造を世界で初めて解明
-抗体医薬や抗ウイルス薬、ワクチン開発につながる-

概 要
 九州大学大学院医学研究院ウイルス学分野の橋口隆生助教、柳雄介教授らの研究グループは、生体防御医学研究所(九大)の神田大輔教授、スクリプス研究所(米国)のErica Ollmann Saphire教授、ヴァンダービルト大学(米国)のJames E. Crowe, Jr.教授らとの国際共同研究で、マールブルグウイルス(※1)とエボラウイルス(※2)の両方に結合できるヒト抗体(※3)をマールブルグ出血熱の生存者由来B細胞(※4)から特定し、ウイルスが細胞に侵入する際に必須の役割をするGP蛋白質(※5)との複合体としての立体構造を解明することに成功しました。この成果は、抗体がウイルスの細胞侵入を阻害するメカニズムの解明だけでなく、抗体医薬や抗ウイルス薬、ワクチンの開発につながる重要な情報を提供します。
本研究成果は2015年2月26日(木)正午(米国東部時間)に、米国科学誌『Cell』に2報(論文)同時に掲載されました。




■背 景
 2014年以降、エボラ出血熱が西アフリカ3か国を中心に流行し、世界的に大きな注目と懸念を集めています。マールブルグウイルスは、エボラ出血熱の原因であるエボラウイルスとともにフィロウイルス科というグループに属し、ほぼ同様の重篤な症状と高い致死率を示す危険性の非常に高いウイルスです。
マールブルグウイルスは、1967年、ヨーロッパでフィロウイルスによる歴史上初のアウトブレイク(限定範囲での感染流行)を起こしました。その際の記録ではウガンダから輸入したアフリカミドリザルの腎臓細胞の培養に従事した研究者や治療にあたった医療関係者32人中7人が死亡したと報告されています。マールブルグ出血熱もエボラ同様に現在も散発的な流行が続いています。マールブルグウイルスもエボラウイルスも現時点では予防法や治療法が存在しないため、ウイルスの取り扱いは、高度な安全対策が施されたバイオセーフティーレベル4 (BSL4)(※6)実験室に限定されています。


■内 容
 マールブルグウイルスとエボラウイルスが人体内の細胞に侵入する(感染する)には、ウイルス表面にあるGP蛋白質が人の細胞上の受容体と結合することが必要となります。一方で、GP蛋白質は、体内の免疫応答で作られる抗体がウイルスを排除するために主に攻撃の標的とする分子でもあります。研究グループは今回、マールブルグ出血熱の感染生存者由来B細胞からスクリーニングによって抗体を複数選び出し、その中にマールブルグウイルスにもエボラウイルスにも結合する能力のある抗体(MR78と名付ける)が存在することを発見しました。
さらに、研究グループは、抗体と結合した状態のGP蛋白質を大量に精製したのち、結晶化し、X線を用いてその構造を原子レベルで明らかにすることに成功しました。X線による結晶構造解析(※7)の結果から、抗体MR78は、異なるウイルスであるエボラウイルスとマールブルグウイルスのGP蛋白質の、非常に類似したアミノ酸配列を立体的に認識して結合することがわかりました。マールブルグウイルスが抗体MR78と結合する領域は、受容体と結合する部位(感染に必須である部位)と一部重なっているため、抗体はマールブルグウイルスの感染を効果的に中和する事ができると考えられます。さらにX線小角散乱解析(※8)から、マールブルグウイルスにもエボラウイルスにも存在するムチン様ドメイン(※9)の配置が両者で異なることが、中和抗体を誘導する能力の違いに関係している可能性を示す結果を得ました。これにより、マールブルグウイルスとエボラウイルスの感染防御には、それぞれどの領域を標的にした抗体を作成することが効果的なのか、明らかになります。


■効果・今後の展開
 本研究成果で解明された、抗体と結合した状態のマールブルグウイルスのGP蛋白質の構造は国際機関のProtein Data Bank (PDB)に登録され、世界中の研究者が無料で自由に利用できるため、マールブルグ出血熱・エボラ出血熱の根絶に向けた研究が加速することが期待されます。
今回構造を解明したことにより、現在、予防法や治療法が存在しないマールブルグ出血熱・エボラ出血熱に対する抗体医薬やワクチン、抗ウイルス薬を迅速に開発するための構造情報が利用可能となりました。また、マールブルグウイルス・エボラウイルスを含むフィロウイルスの細胞侵入や抗体による中和のメカニズムの解明という、基礎医学の進展に寄与する情報を提供します。


■参考図

 

 
 

■発表論文2報
抗体とウイルスの構造について
Hashiguchi T, Fusco ML, Bornholdt ZA, Lee JE, Flyak AI, Matsuoka R, Kohda D, Yanagi Y, Hammel M, Crowe, JE Jr., and Saphire EO. “Structural basis for Marburg virus neutralization by a cross-reactive human antibody.” Cell. 2015 Feb 26;160(5):904-12. doi: 10.1016/j.cell.2015.01.041.

URL; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25723165


抗体の取得と性質について
Flyak AI, Ilinykh PA, Murin CD, Garron T, Shen X, Fusco ML, Hashiguchi T, Bornholdt ZA, Slaughter JC, Sapparapu G, Klages C, Ksiazek TG, Ward AB, Saphire EO, Bukreyev A, and Crowe JE Jr. “Mechanism of human antibody-mediated neutralization of Marburg virus” Cell. 2015 Feb 26;160(5):893-903. doi: 10.1016/j.cell.2015.01.031.

URL; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25723164


【用語解説】

(※1)マールブルグウイルス;

  1967年にドイツと旧ユーゴスラビアにおいて人類が記録上初めて出会ったフィロウイルス。エボラウイルスとほぼ同様の症状・致死率を示す。2004-2005年にはアンゴラで374人が感染し、88%の患者が亡くなっている。


(※2)エボラウイルス;

  2014年以降、西アフリカ3か国を中心に流行しているエボラ出血熱を引き起こすフィロウイルス科に属するウイルス。1976年にアフリカのコンゴとスーダンで初めて確認された。初期症状ではインフルエンザ様の症状を呈するが、やがて出血等を伴う重篤な症状を呈し、高い致死率を示す。


(※3)抗体;

  人の体内で免疫細胞のB細胞から作られる免疫蛋白質。ウイルスに感染すると主にウイルス表面にある糖蛋白質に対して結合能力がある蛋白質として産生され、感染防御を担う。


(※4)B細胞;

  免疫系の細胞の一種で、Bリンパ球とも呼ばれる。抗体を産生し、外来の病原体に対抗するための免疫応答の主要な機能の一つを担っている細胞。


(※5)GP蛋白質;

  マールブルグウイルスとエボラウイルスの表面に存在する唯一の糖蛋白質。ヒトの細胞表面に存在する受容体と結合し、細胞膜を貫通させてウイルスが侵入する際に必須の役割を果たす蛋白質。


(※6)バイオセーフティーレベル (BSL);

  世界保健機関(WHO)の実験室バイオセーフティ指針に基づき、微生物・病原体は4段階のリスク群で表現される。このリスク分類に対応した実験施設は、基本実験室(BSL1,2)、封じ込め実験室(BSL3)、高度封じ込め実験室(BSL4)のいずれかに分類される。


(※7)X線結晶構造解析;

  高純度に精製したタンパク質を一定の条件下で結晶化し、強力なX線を照射することで得られる回折像を解析して原子レベルで分子を可視化する方法。


(※8)X線小角散乱解析;

  高純度に精製したタンパク質を水溶液状態のまま、強力なX線を照射し、得られる回折像を解析して準原子レベルで分子を可視化する方法。X線結晶構造解析では見えない領域を低分解能で可視化できる。


(※9)ムチン様ドメイン;

  マールブルグウイルスとエボラウイルスの表面に存在するGP蛋白質中の、糖鎖に富む、構造をとっていないとされている領域。



■謝 辞
構造解析に使用した大規模放射光施設として、以下の施設・事業に支援をして頂きました。
高エネルギー加速器研究機構 Photon Factory(つくば、日本)
米国Advanced Light Source(Berkeley, CA, USA)
創薬等支援技術基盤プラットフォーム(東京、日本)


 

  【お問い合わせ】
  九州大学大学院医学研究院・ウイルス学分野
  助教 橋口 隆生 (はしぐち たかお)
  電話:092-642-6138
  Fax :092-642-6140
  Mail:takaoh(a)virology.med.kyushu-u.ac.jp
      ※(a)を@に置換えてメール送信してください。

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