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例)研究発表 生命科学科
[2017/05/29]
「オートファジーが膵癌を支える細胞の活性化に関与している事を発見」(臨床・腫瘍外科学分野 中村雅史教授)
オートファジーが膵癌を支える細胞の活性化に関与している事を発見
-全く新しい膵がん治療法の開発に期待-

 

  九州大学大学院医学研究院の中村雅史教授、九州大学病院の仲田興平助教、大学院3年生の遠藤翔らの研究グループは、膵がん細胞の転移、浸潤に影響を与えている膵星細胞の活性化にオートファジー(※1)が関与している事を発見し、膵星細胞のオートファジーを抑制することが、新たな膵がん治療法となる可能性を見出しました。

  膵がんは5年生存率が9.2%であり、他のがんと比較しても極めて予後が不良な疾患で(※2)、その予後の改善は社会的急務と言えます。がん組織の中には、がん細胞の他に線維芽細胞を中心とした“間質”と呼ばれる構造があり、この間質に存在する細胞が、がん細胞の転移、浸潤を促していると言われています(癌間質相互作用※3)。膵がんで癌間質相互作用の中心を担っている細胞が“膵星細胞”です。これまで本学の中村雅史教授、大内田研宙助教らは膵星細胞が膵がんの悪性化に重要であると考え、膵星細胞の活性化に関する研究を行ってきました。

  “オートファジー”は細胞が自己成分を分解するシステムの一つですが、老化や免疫、さらには、発がん、糖尿病、神経疾患など様々な疾患に関与していることが報告され、現在、世界中で大きな注目を集めています。今回、研究グループは、膵星細胞のオートファジーを抑制する事で膵星細胞から分泌されるIL-6;Inerleukin-6やコラーゲンの産生が抑制され、その結果、膵がん細胞の転移や、浸潤が抑制される事を明らかにしました(図1右図)。また、膵がん細胞と膵星細胞を移植したマウスにオートファジー抑制剤であるクロロキン;CQを投与したところ、がん細胞の肝転移や腹膜播種が抑制される事も確認しました(図1左図)。

  予後が不良な疾患と言われている膵がんですが、本研究結果は、膵星細胞および膵がん細胞のオートファジーを抑制することが膵がんに対する新たな治療法となる可能性を示唆しており、その結果、膵がんの予後が改善することが期待されます。

  本研究成果は、米国科学雑誌「Gastroenterology」の2017年5月号に掲載されました。用語解説は下記を参照

  
図1
研究者からひとこと:
膵がんの予後は他のがんに比べてまだまだ満足できると状況とは言えません。本研究結果が膵がん治療のブレイクスルーとなる事を期待し、今後さらに研究を進めて参りたいと思います。
 

【お問い合わせ先】 大学院医学研究院 教授 中村 雅史, 九州大学病院 助教 仲田 興平 
    電話:092-642-5440 FAX:092-642-5457
 
  Mail:mnaka(at)surg1.med.kyushu-u.ac.jp, knakata(at)surg1.med.kyushu-u.ac.jp
        ※(at)は@に置きかえてメールをご送信ください  

 


 
オートファジーが膵癌を支える細胞の活性化に関与している事を発見
-全く新しい膵がん治療法の開発に期待-

 
■研究の背景と経緯  
  膵がんの5年生存率は9.2%であり、胃がん74.5%の大腸がん76.3%と比べても非常に予後が不良であり(※2)、その予後の改善は社会的急務と考えられます。膵がんの予後が不良な理由として、早い段階から周りの組織に浸潤や転移をする事が挙げられています。そのため、膵がん患者さんでは発見時に手術適応とならない症例の割合や切除後の再発率が他のがん患者さんに比べて高いのが現状です。
  膵がん組織にはがん細胞の他に線維芽細胞と呼ばれる間質細胞が存在しています。この間質細胞が癌の浸潤や転移を促すサイトカインを分泌し(図2左図)、膵がん細胞の転移や浸潤を促すと考えられています。一方、間質細胞はコラーゲンなどの細胞外器質を産生し、その結果、血管の乏しい組織が増加し、抗癌剤ががん細胞に到達しにくくなり、抗癌剤耐性能を獲得します。膵がんにおいて、がん細胞の転移、浸潤に重要な役割を担っている間質細胞が<膵星細胞>と呼ばれる線維芽細胞です。膵星細胞はがん周囲の組織では活性化状態となり、がん細胞の転移、浸潤を促進します(図2右図)。そのため、膵星細胞の活性化を抑制する事が膵がんの予後改善に役立つと考えられてきましたが、膵星細胞の活性 化メカニズムに関しては謎のままでした。
 
 
 
■研究の内容
  研究グループは膵星細胞の活性化メカニズムとしてオートファジーに着目しました。膵星細胞に対してオートファジー関連遺伝子であるAtg7やAtg5遺伝子の発現を抑制したところ、膵星細胞の活性化が抑制され、さらに、膵星細胞から分泌されるIL-6;Inerleukin-6やコラーゲンの産生が抑制されました(図3上図)。膵がん細胞株の浸潤能は膵星細胞と共に培養することで亢進しますが、今回、Atg7を抑制した膵星細胞と共培養を行うと、Atg7を抑制していない膵星細胞との共培養した場合に比べて膵がん細胞の浸潤が抑制されました(図1右図)。また、膵星細胞と膵がん細胞株をマウスの膵に共移植をすると、肝転移や腹膜播種が見られますが、Atg7を抑制した膵星細胞を共移植すると、Atg7を抑制していない膵星細胞を共移植した場合に比べて膵がん細胞の肝転移や腹膜播種が抑制されました(図3下図)。
  これらの結果はオートファジー抑制剤であるクロロキン(CQ)を投与した場合にも同じ結果が確認され、クロロキンを投与したマウスではクロロキン非投与マウスに比べて肝転移や腹膜播種が抑制される事を確認しました(図1左図)。これらの結果は膵星細胞のオートファジーを抑制することにより、膵がんの浸潤、転移が抑制される可能性を示唆しており(図 4)、今後オートファジー抑制剤が新たな膵がん治療薬開発のかぎとなる可能性が考えられます。

 
■今後の展開とがん治療への期待  
  オートファジー抑制剤ががん細胞自身の転移、浸潤を抑制するとの報告はこれまでも知られていましたが、本研究の結果から膵癌間質に存在する膵星細胞のオートファジーを抑制することにより、膵がんの悪性度が抑制されることが示唆されました。既存の薬剤の中にもオートファジー抑制効果を認めるものもあり、これらの薬剤が膵がんの治療薬として新たな可能性が検討されると共に、新たなオートファジー抑制剤の開発が進むことにより新規膵がん治療薬が開発されることが期待されます。その結果、切除不能膵癌が切除可能な状況まで縮小したり、切除後の再発率が抑制される事により難治がんである膵がんの予後が改善することが期待されます。
 
図3
 
■用語解説
(※1)オートファジー 
細胞内の古くなったタンパクを分解する仕組み、がんを始めとする様々な疾患に関与していることが判明し世界中で注目を集めている研究テーマの一つ。
  
(※2)膵がんおよび他のがんにおける5年相対生存率
胃がん74.5%,大腸がん76.3%,肝がん36.2%,肺がん44.7%,乳がん(女性)93.6%,膵がん9.2%(全がん協HPより 2006-2008年診断症例)
  
(※3)癌間質相互作用 
がん組織にはがん細胞だけではなく、線維芽細胞やマクロファージなどで構成される<間質細胞>も存在する。<がん細胞>と<間質細胞>が相互に作用し、がん細胞の増殖が促進されたり抑制されたりする作用(図2)。

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