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例)研究発表 生命科学科
[2019/06/28]
原始卵胞卵の維持機構に物理的圧力が関わることを解明(永松剛助教・林克彦教授)

原始卵胞卵の維持機構に物理的圧力が関わることを解明
~卵子の寿命制御への応用が期待される画期的な成果~


  九州大学大学院医学研究院の永松剛助教、林克彦教授らの研究グループは、生命の永続性を担う卵母細胞の維持機構として物理的圧力がかかわることを明らかにしました。
  卵子形成過程において卵母細胞は出生直後に数が決まっており、限られた数の原始卵胞卵という状態で保持されています。この原始卵胞卵を周期的に活性化して排卵に至ります。しかしながら、これまで原始卵胞の維持と活性化を制御するメカニズムについては不明な点が多くありました。本研究では、原始卵胞卵の維持には細胞外基質による外的環境が重要であるという知見を基盤として、原始卵胞卵の維持には物理的な圧力が重要であることを明らかにしました。実験的に圧力を付加できる装置を用いて培養を行ったところ、加圧下培養により原始卵胞卵の静止状態が維持されることが分かりました。これと同時に、非常に興味深いことに、原始卵胞卵はその核を回転させていることに気が付きました。そしてこの核の回転を止めると原始卵胞卵の活性化が促進されることが明らかとなりました。さらに、物理的圧力と核回転との関係を調べたところ、原始卵胞卵は卵巣皮質において加圧条件下のもとその核を回転させることで休止期を維持するという新しいメカニズムを明らかにすることができました。この成果は生殖期間の制御の可能性を示しており、将来的な不妊治療への応用が期待できます。
  本研究成果は2019年6月26日(水)14時(米国東部夏時間)に国際学術雑誌「Science Advances」に掲載されました。なお、本研究は文部科学省科研費18H05545の支援を受けました。
 
図1:本研究成果の概略図
原始卵胞卵は物理的圧力下で核を回転させ、転写因子FOXO3の核外移行を抑制することで、その静止期を保っている。

    研究者からひとこと:
たくさんの人々の協力のもと行った一連の実験結果を論文として発表することができ、うれしく思っています。今後も何か新しいことが見つけられるように努力していきたいと思います。
林克彦 教授   永松剛 助教  

 【背景】
  生殖細胞は次世代に遺伝情報を繋ぐ唯一の細胞系譜であり、その発生過程で様々な性質、形態の変化を伴います。特に卵子は個体の発生を遂行する機能を担う重要な細胞です。哺乳類の卵子は出生直後に原始卵胞として維持されるものを生涯にわたって使い続けます。すなわち卵母細胞の数は出生時に決まっており、その後増えることはありません。したがって原始卵胞の維持、活性化は生殖期間の決定と直結する重要な機構です。実際にヒトにおける原始卵胞の枯渇は早期閉経を引き起こし、社会的な問題となっている不妊の大きな要因となります。原始卵胞は卵巣内の皮質側に位置し、周囲を一層の扁平な顆粒膜細胞という卵母細胞を支持する細胞に囲まれた状態で維持されています。活性化に伴い扁平な顆粒膜細胞は立方状へと形態変化し、その位置も次第に髄質側へと移動します。この際に原始卵胞の維持に必須の転写因子であるFOXO3aが核内から核外へと移行することが知られており、顆粒膜細胞の形態とFOXO3aの局在が原始卵胞と活性化した一次卵胞とを分ける指標となっています。これらのことから原始卵胞の維持には卵母細胞と顆粒膜細胞との相互作用および卵巣皮質の環境要素が重要であると考えられてきました。しかしながらその詳細は不明のままでした。

【内容】
  研究グループは原始卵胞形成の過程をストレスファイバーという細胞内の形態を保ち張力を与えている繊維であるF-actinと細胞外基質のFibronectinの免疫染色によって解析しました。胎生期の卵巣では卵母細胞はクラスターを形成しています。この時期にはF-actinの染色性は微弱で、Fibronectinも隣接する中腎に比べると顕著に少ないことが分かりました。一方で、出生直後の卵巣では卵母細胞の周囲を顆粒膜細胞が囲んだ卵胞構造が確認され、その周囲をF-actinおよびFibronectinが囲んでいることが明らかとなりました(図2)。これらのことは原始卵胞形成過程においてストレスファイバーおよび細胞外基質が大きく変化することを示唆しています。さらに、出生後の卵巣においてF-actinの染色をおこなったところ皮質の最外層部分でピークとなるシグナルが検出されることが分かりました。このピークはタンパク質分解酵素液(CTK : collagenase, trypsin, KSR)で卵巣を処理することにより消失するため細胞間および細胞外基質による局所的な特徴(微小環境)と考えることができます。次にこの微小環境と原始卵胞の維持、活性化との関係について調べるため、CTK処理を行った卵巣をFOXO3aの免疫染色で解析しました。FOXO3aは原始卵胞の維持に必須の因子であり、核内に存在します。そして、原始卵胞から1次卵胞への活性化に伴い細胞質へと局在を変化させることが知られています。免疫染色の結果、CTK処理によってFOXO3aの核外移行が促進されることが明らかとなりました。このことはCTK処理によって原始卵胞の活性化が促進されることを示唆するものであります。そこで、CTK処理をした卵巣の培養を行い、卵胞の成熟過程の解析を行いました。その結果CTK処理を行うと原始卵胞の活性化が促進され成長した卵子の数が増加することが明らかになりました。これらのことから細胞間および細胞外基質による卵巣内皮質の微小環境が原始卵胞の維持、活性化に直接かかわることが明らかとなりました。
  さらに、ストレスファイバーであるF-actinの変化から卵巣内皮質では物理的な圧力が周囲に比べて強くかかっているのではないかと推測しました。そして、生体外で人為的に圧力を作用させることによって逆に原始卵胞の活性化を抑制できることを見出しました。
  一方で、CTK処理前後における卵母細胞の形態を解析するために継時的な顕微鏡観察による動画解析を行ったところ、予期せぬことに通常状態の卵母細胞では核が回転していることが明らかとなりました。さらにCTK処理によってこの核の回転は停止します。しかしながらCTK処理を物理的圧力付加下において行うと核回転は維持されることから原始卵胞内の卵母細胞の核回転は圧力によるものであることが示唆されます(図3)。また、この卵母細胞の核回転運動はダイニンとよばれるモーターたんぱく質の阻害剤(Ciliobrevin D : CD)を作用させることにより停止させることができるため、ダイニン依存的な運動と考えることができます。そこで、核の回転運動と原始卵胞の維持、活性化との関係を調べるために卵巣にCDを作用させ、FOXO3aの局在を解析しました。その結果CD処理によってFOXO3aの核外移行が促進されることが明らかとなりました。さらに培養実験の結果からCD処理によって原始卵胞の活性化が促進され成長した卵胞の数が増加することが明らかとなりました。このような原始卵胞活性化の結果はCTK処理の際と同様のものであり、卵巣内の微小環境による圧力付加、細胞核回転、原始卵胞の維持といった一連のカスケードを示唆するものであります。そして、生体内における卵巣皮質の環境を模した加圧培養によって生体外で原始卵胞卵を誘導することに世界で初めて成功しました。

【効果・今後の展開】
  本研究の成果で、原始卵胞卵の活性化の制御に圧力が関わることが明らかになりました。さらに、加圧培養によってこれまで生体外では誘導できなかった原始卵胞卵の誘導に成功しました。今後は減圧による原始卵胞の活性化制御や、生体外での原始卵胞の維持といった将来的な生殖補助医療への応用へとつなげていきたいと思っています。また、細胞核の回転は50年以上前から知られているものの、その生物学的意義はほとんど分かっておりません。核の回転がもたらす生命現象という未知の領域に挑戦していきたいと思っています。
 ※E12.5は胎生12.5日齢を示し、P3.5は出生後3.5日齢を示している

【論文情報】
論文名:
 
Mechanical stress accompanied with nuclear rotation is involved in the dormant state of mouse oocytes

著者名:
 
Go Nagamatsu*, So Shimamoto, Nobuhiko Hamazaki, Yohei Nishimura, Katsuhiko Hayashi*(*共責任著者)

ジャーナル名: Science Advances

【お問い合わせ】
大学院医学研究院 助教 永松 剛
電話:092-642-4845 FAX:092-642-4846
Mail: gonaghosi★hgs.med.kyushu-u.ac.jp
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