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例)研究発表 生命科学科
[2008/11/14]
◇やあ やあ やあ 稲田 明理さん(次世代研究スーパースター養成プログラムの特任准教授)
 
  ―糖尿病モデルマウスの開発に成功

 高校生のころは科学者になろうと思っていた。母校は夏目漱石が赴任し小説「坊ちゃん」の舞台となった四国・松山東高(明教舘、1828年創設。旧制松山中学)。正岡子規・高浜虚子・大江健三郎なども学んだ。伝統的にほとんどの生徒は関東、関西方面に進学先を選ぶ。自らも京都を志望していたが、一転して九大へ。当時は、バイオテクノロジーが脚光を浴び始めていた。トマトとポテトを細胞融合させたハイブリット野菜「ポマト」がマスコミの話題になった。地上には真っ赤なトマト、地下にはポテトが収穫できる―という夢のような興奮は、稲田さんをとりこにしてしまった。「それならツバキの花をきれいなクリーム色に咲かせてみよう」と、九大農学部を選択した。
 ところがポマトと同じように期待と現実とのギャップ、片や興味を捨てきれない医学への道。悩み抜いて卒業後は、いろんな学部卒者が受験できる京都大大学院の人間・環境学研究科に進学した。「学部の卒業論文と、専門外の大学院の受験勉強を両立させたこの時期は、続く修士課程2年間を含めて一番苦しかった」と振り返る。それもそのはず、修士課程ではいきなり糖尿病の分子生物学的研究に専念することに。さらに教授の薦めで博士課程は医学研究科へ転進して4年間、さらに学術振興会特別研究員(ポスドク)で1年間研究を重ねた。
 努力は報われてこの時期に、人の代わりになる糖尿病モデルマウス(ICERマウス)の開発に成功し、アメリカの学会で発表した。従来のモデルマウスでは、糖尿病以外の副次的病状が出るなどの欠陥がある。開発したマウスは糖尿病性腎症の研究に最適とされ、三大糖尿病モデルマウスとして国際学術雑誌(脚注)でも紹介された。現在特許申請中だ。学会発表を聞きに来ていたWeir教授夫妻の薦めで、翌年からはハーバード大学ジョスリン糖尿病センターの特別博士研究員に。
 ここでも画期的な成果を挙げることになる。血糖値が高くなると膵臓のランゲルハンス島という部分にあるβ細胞からインスリンが分泌されて調節する。だがβ細胞の起源はまだ分かっていない。稲田さんは、動物実験で「膵液を運ぶ膵管の上皮細胞にある幹細胞からβ細胞が分化して出来る」ということを見出した。これは同じハーバード大の著名な別の研究グループが主張する「β細胞はβ細胞からしかできない」という通説を覆すものとなった。
 子供のころから観察好きで植物、犬、石、何でも興味があった。自宅近くの畑から取ってきたイモリを27匹も飼った。「歯を磨いてあげようと口を開いたら歯がなくてびっくりした」。父親(愛媛大名誉教授)が客員教授として米国ミネソタ州立大学に赴任したため、中学2年生の1年間をミネアポリスで家族と一緒に過ごした。長い夏休みを利用して25州を旅行した。広大な大自然、シカゴの博物館で見た人体の輪切り、胎児の成長標本などは衝撃だった。そんな体験が自然に科学者へいざなったのだろうか。さらにハーバードでの体験が、その道を一層強固なものにした。
 ハーバード大で5年間の研究後、若手研究者を支援する九大の「次世代研究スーパースター養成プログラム」(SSP)に応募し、2007年から医学研究院のメンバーとして活躍中。アメリカでの研究成果である「膵管上皮細胞から分化されるβ細胞」は、今のところまだ限られた数しか見つかっていない。「β細胞に分化する幹細胞を早く分離・同定して、β細胞を増やす治療など再生医療へ繋げたい。糖尿病合併腎症を防ぐことで、透析患者の減少や医療費の抑制にもなる」そう自分に言い聞かせながら、研究に没頭する若き科学者である。
〈脚注〉Breyer MD, Qi Z, Tchekneva E.:Diabetic nephropathy: leveraging mouse genetics.
Curr .Opin .Nephrol .Hypertens. 15: 227-232(2006). 
Breyer博士は「これらのモデルマウスを使うことによって糖尿病性腎症の病態を調べることに新しい発見(道筋)をもたらし、さらにヒトでの研究を補い糖尿病性腎症をもたらす遺伝子を調べることに役に立つ」と言っておられ、とても名誉なことです。(稲田さん談)
〈参考記事〉「科学の未来は女性が拓く~輝く人生を目指して~」(九大高等研究機構研究戦略企画室発行、2007)2ページ。
〈写真〉「マウス、かわいいです」と稲田さん。

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