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例)研究発表 生命科学科
[2011/03/03]
アルツハイマー病の新規治療薬:アポモルフィン—アルツハイマー病モデルマウスで明確な効果を証明—
 九州大学大学院医学研究院神経内科学分野 大八木 保政 准教授と医学系学府博士課程 姫野 恵理の研究グループは、海外でパーキンソン病患者に使用されているアポモルフィンが、アルツハイマー病モデルマウスの記憶障害を回復し、脳内アミロイドβ蛋白の分解促進と神経細胞を保護することを証明しました。これは、アルツハイマー病の根本的治療につながる可能性があります。また、今回の研究は、これまではよく知られていない神経細胞内に蓄積するアミロイドβ蛋白を標的としており、新たなアルツハイマー病の治療戦略を提唱しています。本研究は、平成23 年2 月下旬の米国神経学雑誌Annals of Neurology (アナルズ・オブ・ニューロロジー)オンライン版で発表されました。

■背 景
 我が国では現在200 万人以上の認知症患者が存在し、高齢化の進展とともに10 年後には倍増することが予想されます。アルツハイマー病(AD)は高齢者認知症の半数以上を占める最も多い原因疾患で、その治療法開発は喫緊の課題です。現在使われているコリンエステラーゼ阻害剤は、症状の進行を少し遅らせる効果はありますが、根本的な認知機能の改善には至っていません。そのため、世界中の製薬会社や研究機関が根本的AD 治療薬の研究開発にしのぎを削っています。最近の治療薬開発の主流は、AD脳の老人斑に蓄積するアミロイドβ蛋白(Aβ)を標的とし、その生成、凝集、蓄積を抑制する薬剤や免疫療法の研究が主流ですが、Aβ抗体治療やAβ生成抑制剤の海外の最近の臨床試験は一進一退の状況です。大八木准教授の研究グループは、AD における神経機能障害や神経細胞死について、早期より神経細胞内に蓄積するAβが重要なことを提唱してきました(Ohyagi et al, FASEB J, 2005)。この研究戦略に基づき細胞内Aβの分解を促進する薬剤を探索し、海外の抗パーキンソン病薬の一つであるアポモルフィン(APO)がそのような作用を有することを見出し、今回はAD モデルマウスに対して明確な有効性を証明しました。

■内 容
 米国カリフォルニア大学のLaFerla(ラフェルラ)教授らが開発した3xTg-AD マウス(APPKM670/671NL,PS1M146V, TAUP301L の3 種類の家族性AD 関連変異遺伝子を導入)のホモ接合マウスでは、約4 ヶ月齢より神経細胞内のAβ蓄積および記憶力低下が生じます。6 ヶ月齢の3xTg-AD マウスに対して、APO を5mg/kg 週1 回1 ヶ月間(計5 回)皮下注射しました。記憶機能は、モリス水迷路(MWM)試験で治療前と治療後に評価しました。MWM では、マウスを直径約1m のプールで泳がせて上陸できるゴール台の位置を記憶して、その24 時間後にゴール台なしで60 秒間泳がせた軌跡を解析するものです。各8 匹の非治療群とAPO 治療群で比較して、有意なゴール場所記憶の改善を認めました(図1)。明確な改善が見られたマウスの治療前後の遊泳軌跡を示します(図2)。治療後のMWM 終了後、脳組織の免疫染色およびウェスタンブロットで、AD 病理マーカーであるAβおよびリン酸化タウ蛋白(p-tau)の明らかな減少を確認しました(図3、図4)。さらに、人為的にAβを培養細胞に蓄積させてAβ分解速度を解析する実験系において、APO が細胞内Aβ分解を促進すること、および細胞内Aβ分解酵素のプロテアソームとインスリン分解酵素(IDE)の活性を上昇させることを見出しました。また、APO は酸化ストレスによる神経細胞死を明確に抑制しました。以上より、APO はAD 患者に対する治療薬として極めて有望であることを示しました。

■効果と今後の展開
 AD 治療薬としてのAPO は、九州大学から国際特許出願を行っております(PCT/JP2007/055354)。APOの利点は、すでに海外でパーキンソン病患者の皮下注射薬として使用されており、患者投与における安全性が確立されています。日本では未承認薬であるため、今後AD 患者に対する有効性を臨床研究として行っていく予定です。また、APO にはドパミン受容体刺激による吐気作用などがあるため、AD に対する治療効果の経路を明らかにして、より副作用が少なく効果の高い薬剤の開発を目指して、製薬企業との共同研究を進めていきたいと考えています。

■論文
Himeno E, Ohyagi Y, Ma L, Nakamura N, Miyoshi K, Sakae N, Motomura K, Soejima N, Yamasaki R, Hashimoto T, 
Tabira T, LaFerla FM, Kira J: Apomorphine treatment in Alzheimer mice 
promoting amyloid-β degradation. Annals of Neurology DOI: 10.1002/ana.22319




本学のウエブサイトへプレスリリース(http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2011/2011-02-24.pdf)から転載

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