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例)研究発表 生命科学科
[2011/09/12]
加齢黄斑変性の発症に関わる遺伝子を発見
概 要
 九州大学大学院医学研究院眼科学の石橋達朗教授のグループは、加齢黄斑変性の発症に関わる一塩基多型(SNP *1)が腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー10A(TNFRSF10A)遺伝子*2のプロモータ領域にあることを明らかにしました。この発見は、加齢黄斑変性の新規診断法および治療薬の開発につながる可能性があります。これは、理化学研究所ゲノム医科学研究センター多型解析技術開発チームの久保充明チームリーダー、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授との研究成果です。本研究成果は、2011年9月11日 (日本時間9月12日) に米国科学雑誌「Nature Genetics」のオンライン速報版で公開されました。
■背 景
加齢黄斑変性(AMD: Age-related macular degeneration)は、黄斑に異常が起こり、視力が低下する疾患です。欧米では成人の失明原因の第1位であり、日本でも第4位となっています。黄斑とは、光を感じる網膜の中心にあり、視力に最も重要な部位です。AMDはアジア人に多い滲出性と、欧米人に多い萎縮性に大別されます。滲出性AMDでは、加齢による老廃物の蓄積により脈絡膜に発生した新生血管が網膜色素上皮の下、または網膜と網膜色素上皮との間に侵入し、視力が著しく低下します。過去のゲノムワイド関連解析*3では、欧米人におけるAMDに関連する遺伝子が報告されていますが、病型の異なるアジア人での報告はありませんでした。
■内 容
 研究グループは、日本人滲出性AMD患者827人および対照者3,323人を対象に、ヒトゲノム全体に分布する約46万個の一塩基多型(SNP)について高速大量タイピングシステム※4を用いて調べました。 その結果、滲出性AMD発症に強い関連を示すSNPがTNFRSF10A遺伝子に存在することを発見しました(図1)。さらに、別の滲出性AMD患者709人および対照者15,571人を用いて、この遺伝子多型と滲出性AMD発症との関連を調べました。この追試研究においても、両者の間に強い関連があることを確認しました(図2)。詳細な解析の結果、TNFRSF10A遺伝子の転写量を調節する位置(プロモーター領域)に存在する多型が、滲出性AMDの発症に関連していることを世界で初めて明らかにしました。今回発見したTNFRSF10A遺伝子のSNPがもたらすAMD発症リスクの大きさは、オッズ比※5で1.37、つまりこの遺伝子多型を持つ人は持たない人に比べて滲出性AMDを発症する可能性が約1.4倍に高まることが分かりました。
TNFRSF10A遺伝子はTNFレセプターファミリーの1つで、TRAILレセプター1(TRAILR1)蛋白をコードする遺伝子です。TRAILR1は、網膜色素上皮を含む多くの組織に発現しています。このレセプターにリガンドであるTRAILが結合すると、アポトーシスや炎症性サイトカインの産生を誘導すると考えられています。滲出性AMDの発症においては、網膜色素上皮と脈絡膜間の炎症や視細胞および網膜色素上皮細胞のアポトーシスが重要な役割を担っていると考えられており、今回発見されたSNPによりTRAILR1の発現量が変化し、滲出性AMDのなりやすさに影響を与えていると推測されます。

■効 果
 今回の研究成果により、TNFRSF10A遺伝子のSNPを調べることでAMD発症リスク及び発症初期における診断が可能になります。すなわち、この塩基がチミン(T)であれば滲出性AMDに罹り易く、グアニン(G)であれば罹りにくいと言えます。これにより、AMDの予防及び早期治療を行うことが可能になります。

■今後の展開
 今回の研究により、TNFRSF10A遺伝子の個人差が、日本人の滲出性AMDのなりやすさに関連することが明らかとなりました。滲出性AMD発症に関与する新たな遺伝子を同定できたことで、これまで明らかになっていなかった発症メカニズムの解明に役立つことが期待されます。また、TNFRSF10A遺伝子多型を調べることで個々人における滲出性AMDの発症しやすさを予測できるようになることが期待されます。

【用語解説】

※1 一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)、遺伝子多型
ヒトゲノムは約30億塩基対から構成されるが、個々人を比較するとその塩基配列には違いがあり、集団内での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。遺伝子多型のうち、最も多いのが1つの塩基が他の塩基に変わる一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)である。遺伝子多型は遺伝的な個人差を知る手がかりとなるが、その違いにより病気のかかりやすさや医薬品への反応にも違いが生じる。
※2 TNFRSF10A遺伝子
 TNFレセプタースーパーファミリーの1つ。リガンドであるTNFSF10A(別名DR4,TRAIL)と結合すると、カスパーゼを介したアポトーシスの誘導経路やNF-κBを介し炎症性サイトカインの産生を誘導すると報告されている。
※3 ゲノムワイド関連解析
 遺伝子多型を用いて疾患の感受性遺伝子を見つける方法の1つ。ヒトゲノム全体を網羅する数十万か所のSNPを用いて、疾患を持つ群と持たない群との間で遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に評価することで、その疾患に関連する領域・遺伝子を同定する手法。
※4 高速大量タイピングシステム
 各SNPの遺伝子型の決定を、高速かつ大量に行うシステム。理研ゲノム医科学研究センターでは、イルミナ社のインフィニウム法と理研が独自に開発したマルチプレックスPCRを併用したインベーダー法の2つのタイピングシステムを用いている。
※5 オッズ比
 リスクの大きさの指標。基準とするものに対して、発症するリスクが何倍に上がるかを表す。

【お問い合わせ】
大学院医学研究院眼科学 教授 石橋達朗
電話:092-642-5645
FAX:092-642-5663
Mail:ishi(a)eye.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に読み替え

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この記事は本学のウエブサイトへプレスリリース(http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2011/2011-09-12.pdf)から転載しました。

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