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例)研究発表 生命科学科
[2011/10/20]
九州大学医学部現役学生の翻訳による教科書が出版されました
 平成23年8月に「生化学実践問題-基礎と臨床をつなぐ420題-」が出版されました。
 この問題集の翻訳にあたっては、医学科6年生の6名が「九州大学医学部生化学ワーキンググループ」として下訳の翻訳を行いました。訳者一覧に6名全員の名前が記されており、在学中の学生の名が記された本が出版されるのは異例のことです。今回は監修をされた医化学分野 横溝岳彦教授と生化学ワーキンググループの前園明寛さん、山村聡さん、高森信吉さん、藤本侑里さん、佐藤暢晃さん、原田純さんにお話を伺いました。

 この翻訳作業に携わられた動機を教えてください

 
 5年生の春に横溝先生からこの翻訳のお話を頂き、作業量から6名くらいが必要とのことでしたので、同期のアクティブでしかも優秀な5人に声を掛けました。みんな面白そうなことには積極的に参加する人でしたので、ふたつ返事で参加してくれました。
 参加の動機はそれぞれですが、4年生までの臨床の授業を終え、体系的に生化学を学び直したいと思った人もいれば、翻訳作業のみに興味があった人もいます。また普段から韓国やドイツの短期留学プログラムに参加するなど、フットワークよく活動することが習慣で、この翻訳作業にも参加したメンバーもいます。(前園さん談)

 この問題集の特徴はどのような点でしょうか

 この問題集は、まず症例に隠れている疾患名を導きだしてから、それに関連した生化学の問題を解く問題集です。単一的な暗記を試すのではなく、短絡的な記憶では解けないようになっています。生化学の知識だけではなく、臨床の背景や疾患の知識も併せ持っていないと解けません。日本の書籍では、問題集はおろか生化学の参考書でもそのようなものはないと思います。ひとつの設問を解くために、文献を検索したり、生化学の教科書を読み返したりと、かなりハードルは高いですが、やる気があれば一問からかなり多くのことを学べると思います。

 翻訳作業の工程を教えてください。

 翻訳作業は全体で21章ありますので、一人3-4章を担当しました。まず1章をみんなで集まって訳し、後々の構成作業が軽くなるよう、日本語の「~だ。」「~です。」等の言葉の統一を図りました。それから、各自、自分の希望する章を選択し、それぞれが翻訳作業にはいりました。
 5年の春に訳をはじめ、6月には横溝先生に下訳をお渡しし、それから南江堂さんの方で言葉の統一などの校正をして頂き、冬に一度目の校正があり、6年の春に最終校正を行い、8月に出版となりました。

 翻訳作業にあたり大変だった点をお聞かせください

 1章20問なので、すぐ終わると思ったのですが見当違いでした。
翻訳という作業は、ただ単語を日本語に直していく作業ではなく、原文の設問や解答が伝えようとする意味をかみ砕いて理解し、日本人が受け取りやすい日本語でアウトプットしていく作業、いわゆる意訳を行っていくのですが、自分が本当に設問の問いと答えを理解していないと、この意訳ができないのです。この問題集の特徴でもある短絡的記憶では解けない問題だったので、より深く理解するために、疾患の背景や生化学の復習が必要となり、調べものや勉強の時間も含め、当初思っていた時間より多くの時間がかかりました。
 僕たちが行った下訳に対し、横溝先生が校正を行ってくださったのですが、今となっては、横溝先生がおひとりで翻訳された方がスムーズにいっていたのではないかと思っています。回りくどい言い回しで訳してしまったところなどもありましたので。
校正の作業は本当に大変だと思います。人によっては返ってきた下訳が真赤に校正されていた人もいます(笑)。

 この経験をとおしてプラスになった点をお聞かせください

前園さん:
 一言ではいえませんが、英語の勉強にもなったし、臨床につなげて生化学を復習できたのは大きかったです。臨床実習中も「あっ、ここどうだったかな」と前より興味がすごく湧いてきます。せっかく勉強した生化学を、臨床につなげられないままでいくのはすごくもったいないと思います。なかなか生化学は、一度勉強した後に体系的に学ぶことはありませんから。医学を深く理解する上でよかったなと思います。

山村さん:
 翻訳にあたって、実際にこの問題を解く必要があり、生化学をあらためて復習して、臨床とリンクさせるという思考過程を踏むことができてよかったです。さらにそれから翻訳し日本語でアウトプットする作業は、ある意味、人に教えるという作業に似ており、僕らは解く過程と教える過程の合せ技で生化学と臨床とのつながりをいっそう頭に定着させることができたと思います。

 
 
 
 
高森さん:
 2年生の時は、生化学は目に見えない抽象的な内容と思い、イメージがわかず最も苦手な科目でした。
 前園君からこの翻訳の話をもらった時に、もともと英語に興味があったので翻訳作業には参加したいと思いましたが、内容が生化学ということで、一瞬ためらいました(笑)。翻訳作業にすごく興味がありましたので参加させて頂きましたが。
 翻訳を始めてすぐに生化学を理解しないと進められないことに気付きましたので、生化学の復習を始めました。翻訳作業が進むにつれ、気付いていなかった生化学の面白さに気づくことができたので良かったです。
 また、英語には無生物主語や、非制限用法など英語特有の言い回しがありますし、それをそのまま日本語にすると、おかしな訳になってしまいます。また翻訳するにあたって英単語の意味も知っておかないといけません。そういったことを考えることができ、英語の勉強にもなりました。

藤本さん:
 私の感想はみんなと違うのですが、実際に出版された本を見たときの感動です。
 当初は、「英語と生化学の勉強になればいいかな」っていう気持ちで参加したのですが、自分が翻訳に携わった本が実際に出版される経験というものはなかなかできない経験だと思います。出版の連絡をうけて、横溝先生が本の中に掲載してくださった自分の名前を見て、とてもうれしかったです。自分が生きた証がひとつ残せた気分です。感動しました。

佐藤さん:
 生化学に対して興味を持てたことが良かったと思います。
 1-2年生で細胞生物学や生化学を習ったのですが、正直なところ勉強するのは大変でした。3-4年生で臨床の講義を受け、疾患を理解する上で生化学の大切さがわかりました。今回の翻訳の話を伺い、もう一度生化学を勉強できるせっかくの機会だと思い参加しましたが、翻訳作業を通して、病態のメカニズムを解明し、治療にもつながっていく生化学の重要さが改めてわかりました。

原田さん:
 英語を読みこなしたので、論文を読むのが早くなりました。もともと癌や遺伝子に興味があり、その章を担当したのですが、いろいろ調べたりしたのですごく単語力が身につき、以前より苦もなくわりとすらすらと論文が読めるようになっていました。まぁ分野は限られるのかもしれませんが(笑)

 最後に発起人で、監修、校正を行われました横溝教授からお願いいたします。

 僕がこれをみんなに持ちかけたのには、いくつかの目的がありました。一つ目には、多分今頃、生化学の大切さに気づいているだろうけど、きっかけがないと学ばないだろうから、そのきっかけになればと思ったこと。二つ目には学生の時に達成感を持たせてあげたかったことです。僕は学生の名前を書籍に載せることを出版の絶対条件にして出版社と交渉しました。僕も大学生のときに翻訳の下訳を行いましたが、その時は僕の名前は本には載らなかった。その時は悔しくはなかったけれど、自分の名前が載っていたらどんなに嬉しかったかとは思いました。
 また、学生時代にもう少し責任感をもって社会と触れ合わせたかった、という思いがありました。翻訳を始める前「これは社会的な責任がついてまわる翻訳だから生半可な気持ちでは出来ないよ。」とみんなには強く言いました。彼らはこれから社会にでて、患者の命に責任を持ち、その家族の方とも向かい合っていかなければなりません。そろそろ「社会的責任」というものを感じていい頃です。彼らは、部活、授業のレポート、アルバイトなど忙しい中、「責任感をもって」この翻訳作業に取り組んだと思います。締め切り間近には土日を返上し、徹夜をして下訳を仕上げたことと思います。
 最後に狙ったのは、他大学も含めた医学生の刺激です。在学生がこうした教科書や問題集の翻訳をしたことはほとんど前例がないと思います。教科書に学生の名前を掲載することで、九大の現役学生が翻訳して出版したということを日本中に知らせることができたと思います。大学生活の中で、学生はどうしても受動的になりがちです。能動的に動けば、これだけのことができるということを示せたと思います。
 翻訳作業を通してほぼ僕の期待とおりの効果が上がったと思っています。ただ、藤本さんが言った、「感動」ということは期待以上の効果だったようですね。皆さんお疲れ様でした。
 上段左から:前園明寛さん、山村聡さん、佐藤暢晃さん、原田純さん
 下段左から:藤本侑里さん、横溝岳彦教授、高森信吉さん

生化学実践問題 基礎と臨床をつなぐ420題
出版社: 南江堂; http://www.nankodo.co.jp/wasyo/main/top.asp

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