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例)研究発表 生命科学科
[2011/10/28]
大脳皮質一次視覚野の機能構築に関する新説 岡本剛准教授
 
大脳皮質一次視覚野の機能構築に関する新説:視野局所を見るための構造とより広い状景を見るための構造が分離配置していることを計算で予測

概 要
 医学研究院・先端医療医学部門の岡本剛准教授らの研究グループは、脳活動のイメージングデータを用いたコンピュータ・シミュレーションを行い、物体の形を知覚する際に大脳皮質一次視覚野(V1)で行われている画像細部の線分や縞模様の傾き検出に関する新しい構造の存在を予測しました。このシミュレーションにより、V1では周囲の画像の複雑さ(コンテクスト)に応じて検出特性を変える神経細胞と、コンテクストに関係なく一定の検出特性を保つ神経細胞が、ある規則に基づいて分離配置している可能性を世界で初めて示しました。本成果は、コンテクストによって傾き検出特性を変える神経細胞の機能構造を理解するための基盤となり、実験研究による検証や理論研究によるさらなる予測を喚起し、V1の機能の理解を促進するものと期待されます。また、この機能と構造を応用することで、画像処理技術の新しい進展に寄与すると期待されます。
 この研究は大阪大学の藤田一郎教授ら、東京大学の合原一幸教授らと共同で行われたものであり、関連する論文が、2011年10月12日にNature Publishing Groupの総合科学雑誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。掲載論文はオープンアクセスのため、下記URLからどなたでも無料で閲覧することができます。
http://www.nature.com/srep/2011/111012/srep00114/full/srep00114.html
http://www.nature.com/srep/2011/111012/srep00114/pdf/srep00114.pdf

■背 景
 
 
 私たちが何かを見る時、網膜に映った画像は電気信号に変換され、後頭葉の一次視覚野(V1)(注1)に入力されます。V1の各神経細胞は受容野(注2)を持ち、画像のごく一部の領域内にある線分や縞模様の傾き(方位)を検出し、その情報をより上位の視覚野の神経細胞に送ります。どの方位を検出するかは神経細胞毎に決まっており、(方位選択性)、検出する方位によって特別な分布を示します(図1)。最近の実験研究により、これらの神経細胞の中には、画像の一部を切り出して線分や縞模様の方位を検出しているだけではなく、切り出した画像とその周囲にある画像との関係性(コンテクスト(注3))によって方位検出のしかたを変える神経細胞があることがわかってきました。その機構や分布については、定性的な仮説が過去にいくつか提案されたに過ぎず、方位選択性地図とどのような関係にあるのか定量的な分析を行った研究はありませんでした。

■内 容
 本研究グループは、まず、オプティカル・イメージング(光学計測法)という計測技術を用いてサルのV1の広域な神経活動を計測し、方位選択性に基づく機能地図(図1)を作成しました。次に、この地図を用いて、各神経細胞が自分と近い神経細胞から受け取る入力と、自分から遠く離れた神経細胞から受け取る入力の違いを詳しく見積もりました。その結果を使ってコンピュータ・シミュレーションを行い、次のことを示しました。
1. 神経細胞の方位選択性は、ピンウィール構造(注4)(図2上)の中心に近づくにつれて感度が弱まるが、検出特性は変わらない(図2中)
2. 神経細胞の方位選択性は、ピンウィール構造の中心から離れた場所ではコンテクストによって特性が変わるが、ピンウィール構造の中心では特性は変わらない(図2下)
この結果から「ピンウィール構造の中心では異なる方位を統合し、ピンウィール周辺では同じ方位を統合している」という従来の仮説(DasとGirbert, Nature, 1999)とは異なる、「ピンウィール中心では局所的な方位のみを検出し、ピンウィール周辺では方位の差を検出している」という新しい仮説を提案しました。

■効 果
 実験と理論を組み合わせたコンピュータ・シミュレーションで新たな予測を行った本研究の成果は、コンテクストによって方位検出特性を変える神経細胞の機能構造を理解するための基盤となり、実験研究による検証や理論研究によるさらなる予測を喚起して、V1の機能構築に関する理解を促進するものと期待されます。

■今後の展開
 今後は、本研究が予測した機能構造が、視覚情報処理においてどういう役割を果たしているのかを計算論的手法で明らかにしていきます。また、他の検出特性を持つV1神経細胞や、上位視覚野の神経細胞などに本研究の手法を展開し、物体の形を知覚する脳内情報処理の解明を進めていきます。

■論 文
Tsuyoshi Okamoto, Koji Ikezoe, Hiroshi Tamura, Masataka Watanabe, Kazuyuki Aihara & Ichiro Fujita: Predicted contextual modulation varies with distance from pinwheel centers in the orientation preference map. Scientific Reports 1, 114; DOI:10.1038/srep00114 (2011).

【用語解説】
 

(注1)一次視覚野(V1)
V1は、大脳で最初に視覚情報処理を行う領野です。ここを起点として、形を知覚するための経路、動きや位置を知覚するための経路にわかれて、視覚情報処理が進みます。

(注2)受容野
わたしたちの目は両眼で視角180度以上にも及ぶ広い視野を持っていますが、V1の神経細胞の視野(受容野)はとても小さく、サルやヒトの場合、視角1度にも及びません。V1の神経細胞はこのように空間的に限局した小さな覗き窓から世界を見ており、その外側は直接見ることができません。

 
(注3)コンテクスト(文脈)
V1神経細胞は受容野内の画像しか見ることができませんが、周囲の細胞と結合して情報交換を行っているため、間接的に受容野外の画像を見ることができます。画像の受容野内外における関係性(傾きが同じなのか異なるのか)のことをコンテクストと言います。ここでは、受容野内の方位は、その神経細胞が一番強く反応する方位に固定しています。漢字や英単語の読み方が、組み込まれている文によって変わるように、対象物の見え方も視野の状況によって変わることがあります。神経細胞がコンテクストによって反応を変えることがこの知覚現象の原因になっていると考えられています。

(注4)ピンウィール構造
V1方位選択性細胞の並び方にみられる構造です。0度から180度までの方位選択性細胞がある点を中心に順序よくぐるりと並んでいるのが特徴です。中心点は図1に白点で示してあります。その構造がまるで風車の羽根のように見えることから、「ピンウィール(風車や回転花火という意味の英語)構造」と呼ばれています。

【お問い合わせ】大学院医学研究院 准教授 岡本 剛
 電話/FAX:092-642-6740
 Mail:okamoto(a)digital.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に読み替え


※ この研究内容については、平成23年10月20日付日経産業新聞に掲載されました。
タイトル:「目視の情報、脳内で再構築 認識担う神経細胞」

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