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例)研究発表 生命科学科
[2015/09/14]
糖尿病が胎児に先天性心疾患を引き起こす仕組みを解明(発生再生医学分野 目野主税教授)
糖尿病が胎児に先天性心疾患を引き起こす仕組みを解明 

概 要
  九州大学大学院医学研究院の目野主税教授、蜂須賀正紘医師らの研究グループは、マウスをモデル動物として妊娠前糖尿病が内臓錯位(※1)を伴う先天性心疾患を引き起こすメカニズムを解明しました。本研究成果により、妊娠初期における血糖値の一過的な逸脱でも先天異常が発生する可能性が示唆されました。
  本研究成果は、2015年9月8日(火)に米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』で公開されました。


■背 景
  これまでに心臓形態形成に関わる遺伝子やその機能については解明されてきましたが、ヒトの先天性心疾患は必ずしも遺伝子突然変異だけで説明できるものではなく、環境因子が深く関与しています。しかしながら、環境因子が心臓形成を撹乱する仕組みはほとんど明らかになっていません。ヒトの疫学研究から、環境因子の1つである妊娠前糖尿病が胎児・新生児に内臓錯位を伴う先天性心疾患の発症リスクを増大させることが知られていました。臓器の左右非対称性は、胚発生初期に形成される左右軸により確立されます。本研究では、マウス糖尿病モデル及び全胚培養(※2)によって、糖尿病が左右軸・心臓形成に及ぼす影響を解析しました。




■内 容
  左右軸情報は胚に一時的にできるノードという窪んだ構造で生み出され、その情報は左側側板中胚葉(※3)における遺伝子Nodal の発現に転換されます。胚左側のNodal は、前後軸に沿って帯状にその発現域を拡張すると共に左側側板中胚葉で遺伝子Pitx2 の発現を誘導します。この左側Nodal 拡張—Pitx2 誘導の仕組みによって、心臓を含む各種臓器の原基は左右軸情報を獲得し、左右非対称な形態形成を行います。
  ストレプトゾトシン(※4)によって作出した糖尿病雌マウスには、最初の左右非対称形態形成である心臓ルーピングや胚ターニングの左右性が逆転した胚が出現しました(図1)。これらの胚でPitx2 の発現を調べたところ、胚左側の発現が消失していました(図1)。Pitx2 発現消失は、左側臓器形態の右側化及び先天性心疾患につながります。
  左右軸異常に至るメカニズムを詳細に解析するため、グルコースを高濃度に添加した培養液で高血糖状態のマウス胚を培養下に発生させました(以下、高グルコース胚と呼びます)。高グルコース胚では、左側側板中胚葉におけるNodal 発現がなく、Pitx2 発現の消失につながることが明らかになりました(図1)。側板中胚葉のNodal 発現は、ノードで作られるNodalによって誘導されます。高グルコース胚ではノードのNodal活性が激減しており、これが左右軸形成異常に至る原因であることが分かりました。ノードNodal活性を担うNodal Gdf1 (※5)の発現は減弱し、この現象に一致して、これらの遺伝子発現を誘導するNotchシグナル(※6)も有意に抑制されていました。つまり、高グルコースは左右軸形成期のNotchシグナルを抑制し、これが妊娠前糖尿病における先天性心疾患を伴う内臓錯位発症の一因になっている可能性があります。
(文中では遺伝子を斜体、タンパクを標準スタイルで表記しています。)


■効果・今後の展開
  研究グループは、マウスにおいて糖尿病が左右軸・心臓形成に影響を及ぼす原因と発生段階を明らかにしました。本研究から、ヒトにおいても血糖値の逸脱が一過的であっても先天性心疾患が発生する可能性が示唆されます。また、妊娠前糖尿病では様々な種類の先天異常の発症リスクが高まることが知られていますが、その原因の多くは不明のままです。本研究の知見が、他の局面における高血糖の作用を解明する糸口となり、妊娠前糖尿病における先天異常の予防につながることが期待されます。

  図1:高血糖は左右軸を撹乱する。
(A, B) 正常マウス(A)、糖尿病マウス(B)由来の8.7日胚で
Pitx2 発現を検出しています(青紫色)。胚前方から撮った写真。点線は心臓ルーピングを示しており、Bでは左右が逆転しています。矢尻は左側側板中胚葉のPitx2 発現を示しており、Bでは同部位の発現が消失しています。
(C, D)全胚培養した対照胚(C)と高グルコース胚(D)で、8.2日相当における
Nodal 発現を検出しています(青紫色)。胚腹側から撮った写真。矢尻は左側側板中胚葉のNodal 発現を示しており、Dでは同部位の発現が消失しています。スケールバーは、200μm。



 
 
 
■発表論文について
Hyperglycemia impairs left-right axis formation and thereby disturbs heart morphogenesis in mouse embryos
Masahiro Hachisuga, Shinya Oki, Keiko Kitajima, Satomi Ikuta, Tomoyuki Sumi, Kiyoko Kato, Norio Wake, and Chikara Meno. 
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

 

 

【用語解説】


(※1)内臓錯位:臓器形態の左右非対称性の異常。


(※2)全胚培養:着床後の胚を培養下で一定期間発生させる実験方法。

(※3)側板中胚葉:初期胚に形成される中胚葉の一領域。将来の腸管壁や漿膜などを構成する。

(※4)ストレプトゾトシン:膵臓β細胞に損傷を与え動物を糖尿病状態にする有機化合物。
 

(※5)Gdf1 Nodal とヘテロ二量体を形成し、Nodal活性を亢進させる分泌因子。


(※6)
Notchシグナル:細胞内シグナル伝達の重要経路の1つであり、細胞膜上のNotch受容体が活性化されて生じる。


 

  【お問い合わせ】
  大学院医学研究院  
  教授 目野 主税(めの ちから)
  電話:092-642-6259
  FAX:092-642-6260
  Mail:meno(a)dev.med.kyushu-u.ac.jp
      ※(a)を@に置換えてメール送信してください。

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