TOP > 研究情報 > 詳細

研究情報

キーワード検索
例)研究発表 生命科学科
[2016/02/29]
ミトコンドリアの分裂がアポトーシス(細胞の自殺)開始を制御する仕組みを解明(分子生命科学系部門 大寺秀典助教)
ミトコンドリアの分裂がアポトーシス(細胞の自殺)開始を制御する仕組みを解明

概 要
  九州大学大学院医学研究院の大寺秀典助教らは、理学研究院久下理教授らとの共同研究により、ミトコンドリアの分裂が抗癌剤などにより誘導されるアポトーシス(*1)の際に、ミトコンドリア内部のクリステ構造(*2)の大規模な変化を引き起こし、アポトーシス開始の鍵となるチトクロムC(*3)の放出を制御することを明らかにしました。本研究成果は、アポトーシス異常を原因とする神経変性疾患、癌などに新たな治療戦略を提供しうる重要なものです。
本研究成果は、2016年2月29日(電子版2月22日)米国科学誌「Journal of Cell Biology」に掲載されました。




■背 景
  ミトコンドリアは外膜と内膜の脂質2重膜によって囲まれた細胞内小器官であり、酸素呼吸によって活動する全ての生物のエネルギーを供給しています。ミトコンドリアの内膜は内部にさらに陥入してクリステと呼ばれる特徴的な袋状構造をしています(図)。普段、ミトコンドリアはクリステのなかにアポトーシス開始の合図となるチトクロムCを隔離しています。抗癌剤などによってアポトーシスを誘導するとクリステの袋が大きく開きチトクロムCが外膜に開いた孔(ポア)を通ってミトコンドリア外へと放出されアポトーシスが開始します。これまでアポトーシスの際、ミトコンドリアが分裂して細かく断片化することは知られていましたがその生理的意義と仕組みはほとんど知られていませんでした。



■内 容
  ミトコンドリアの分裂は、受容体を介してDrp1と呼ばれるタンパク質が分裂面にリクルートされることによって実行されます。これまでにDrp1の受容体としてMffとMiD49/51と呼ばれるミトコンドリア膜タンパク質が知られています(図)。大寺助教らは、ミトコンドリア分裂に関わる因子を欠損させた細胞を作製してアポトーシス応答性を詳細に解析しました。その結果、MiD49/51遺伝子欠損細胞では、通常、抗癌剤処理によってアポトーシスを誘導させると誘導されるはずのクリステの大規模な構造変化が引き起こされないことを見つけました。一方、Mff欠損細胞では正常細胞と同じようにクリステの大規模な構造変化が誘導されていました。クリステはOPA1(*4)と呼ばれる内膜タンパク質の複合体によって構造が維持されています。アポトーシス誘導によりこの複合体が解離することによって、クリステの大規模な構造変化が引き起こされると考えられています。ところが、MiD49/51欠損細胞においてもOPA1複合体の解離が正常に起こっていました。つまり、MiD49/51を介したDrp1依存的なミトコンドリアの分裂こそがアポトーシス開始の鍵となるクリステ構造変化の最後の関門となっていることを突き止めました。


■効果・今後の展開
  アポトーシスは神経変性疾患、癌、虚血性疾患、ウイルス感染など様々な疾患の原因となるため治療法開発のための基礎研究が盛んに行われてきました。これまでは、アポトーシス制御因子として知られるBcl-2ファミリータンパク質(*5)を主なターゲットとして治療法の開発が行われてきました。本研究成果によって、新たにミトコンドリア分裂を人為的に制御することによりアポトーシス疾患を治療できる可能性が見込まれます。今後、ミトコンドリア分裂を活性化あるいは阻害する化合物を探索することによってこれまでにない抗癌剤などの開発が期待されます。


DNA損傷、抗癌剤刺激など
(図の説明)
  ミトコンドリアはDrp1によって分裂するが、Drp1のリクルートに関わる膜受容体としてMffとMiD49/51(構造的に類似しており相互補完的な機能を持つ)が存在する。アポトーシス刺激に応じてミトコンドリアは分裂するが、MiD49/51を介した分裂によりクリステ構造変化が引き起こされる。この際、クリステが膨張して内部のチトクロムCが膜間領域に開放された後、外膜孔を通して細胞質へと放出されアポトーシスが開始する。健常時には、クリステは根元でOPA1複合体により固く閉じられており、アポトーシス刺激に応じて複合体が解離すると同時にクリステの閉鎖構造が開放されると考えられている。本研究では、MiD49/51を介してDrp1依存的にミトコンドリアが分裂することがアポトーシス開始の引き金となるクリステ構造変化の律速となることを明らかにした。

【論文】 
著者:Hidenori Otera, Non Miyata, Osamu Kuge, Katsuyoshi Mihara
論文タイトル:Drp1-dependent mitochondrial fission via MiD49/51 is essential for apoptotic cristae remodeling.
雑誌名:Journal of Cell Biology. 2016 Feb 29. Vol. 212(5)


【用語解説】

(*1)アポトーシス

    細胞があらかじめ遺伝子で決められたメカニズムで自動的に死ぬ現象。生体には不必要な細胞や有害な細胞をアポトーシスにより除去するメカニズムが存在しています。本現象は、発生や再生過程で生じた不必要となった細胞の排除、ウイルスに感染した細胞や癌細胞の排除にも極めて重要とされています。


(*2)クリステ

    ミトコンドリアの内膜には呼吸鎖複合体と呼ばれるエネルギー産生に必要なタンパク質群が含まれています。エネルギー消費の多い心筋、骨格筋、神経細胞などでは内膜の表面積を大きくしてエネルギー産生効率を増加させるために内膜を内部に陥入させたクリステと呼ばれる袋状の構造が非常に発達しています。


(*3)チトクロムC

      通常、チトクロムCはクリステ内部に隔離されておりエネルギー産生のための構成因子として働きます。DNA損傷や抗癌剤によりアポトーシス刺激を受けるとクリステ内部からチトクロムCが放出され細胞質のシステインプロテアーゼであるカスパーゼ9を活性化します。その後、下流のカスパーゼ経路が順次活性化されてアポトーシスが進行します。従って、チトクロムCの放出がアポトーシス開始の合図となります。


(*4)OPA1

    内膜に存在するGTP加水分解酵素でミトコンドリア内膜の融合に働きます。さらにもう一つの機能として、内膜の陥入部位で複合体を形成してクリステの袋状構造を固く閉じることによりアポトーシス開始因子であるチトクロムCが外部に漏れださないようにする役目も担っています。

 

(*5)Bcl-2ファミリータンパク質

    ミトコンドリア外膜の孔(ポア)の開閉を調節することによりチトクロムCの放出を制御しています。このため、アポトーシスを制御する中心的因子群と考えられています。Bcl-2ファミリータンパク質にはアポトーシス促進性(Bax、Bak)のものと、アポトーシス抑制性(Bcl-2、Bcl-XL)などその他にも多数の因子が知られています。Bcl-2やBcl-XLは多くの癌細胞で過剰発現しており、癌の進行や抗癌剤にたいする抵抗性獲得などの原因となることが報告されています。従って、Bcl-2タンパク質は抗癌剤開発の標的として盛んに研究されています。

 


      【お問い合わせ】  
      大学院医学研究院・分子生命科学系部門
      助教 大寺 秀典 (おおてら ひでのり)
      電話:092-642-6183
      FAX:092-642-6183
      Mail:hoter(a)cell.med.kyushu-u.ac.jp      
  
    ※(a)を@に置換えてメール送信してください。
      

ページの先頭へ戻る