- [2017/01/20]
細胞の外側に柱状の構造体を発見、その形成機構を解明(系統解剖学分野 佐藤有紀講師) -
細胞の外側に柱状の構造体を発見、その形成機構を解明
細胞の外の環境がどのように構築されるのかについて、細胞外基質が足場を作っているということ以外多くは知られていませんでした。九州大学大学院医学研究院の佐藤有紀講師(戦略的創造研究推進事業さきがけ研究員(兼任))は、共焦点レーザー顕微鏡を用いた高精細イメージング解析から、細胞外基質のひとつであるフィブロネクチン(※1)が、血管の近傍の組織間隙に長く太い「柱」のような構造を形成することを発見しました。これまでの知見では、細胞外基質は細胞のごく近傍数µmの範囲内に蓄積するものと思われていましたが、フィブロネクチン柱は細胞から50µmも離れた場所にまで達することがわかり、この構造を作り出すメカニズムの解明に成功しました。
フィブロネクチンは力学的要因によって重合を促進されることが知られています。我々は血管が脈動することで生まれる伸縮ストレスがフィブロネクチンの「柱」を形成させる力学因子であると予想し、血管形成阻害、心拍停止、局所的血栓誘導など様々な角度から実験を行い、血管の脈動がフィブロネクチン柱の形成維持に必須であることを明らかにしました。さらに本研究から、フィブロネクチンが近傍の細胞の糸状仮足とインテグリン受容体を介して相互作用し、細胞移動や分化に関わることがわかりました。本成果は、血管周囲のメカニカルストレス受容機構の解明に発展することが期待されます。
本研究は、2017年1月17日 (火)正午(英国時間)に英国科学誌「Development」のオンライン版で掲載されました。
(参考図)細胞の外側に形成されたフィブロネクチンの柱(緑色)。この構造は、細胞の糸状仮足との相互作用と血管の脈動に起因する空間伸縮ストレスによって形成され、2つの離れた組織同士をブリッジする役割を担っている。
研究者からひとこと:
フィブロネクチンの「柱」は高等脊椎動物胚の太い血管の近傍に特異的に形成されます。柱構造の発見自体も初めてのことですが、血管が力学的ストレスの発生源ではないか?この仮説を思い付いた時が最もエキサイトした瞬間でした。その後、この仮説の証明のために脈動の要因となる血流をどう操作するかが実験で最も苦慮した点です。
【お問い合わせ】 大学院医学研究院 講師 佐藤 有紀 電話:092-642-4857 FAX:092-642-6923
Mail:satoyuki(at)anat1.med.kyushu-u.ac.jp
※(at)は@に置きかえてメールをご送信ください
■背 景フィブロネクチンは、細胞の周囲に蓄積して「足場」を形成する細胞外基質(※2)のひとつです。培養細胞を用いた研究から、フィブロネクチンは細胞の直下に存在し、細胞の形態変化や移動に重要な役割を果たすことが知られていました(図1上段)。しかしながら、実際の生体内の細胞は三次元的に配置されています。そのような三次元空間内において細胞の足場となるフィブロネクチンがどのように蓄積されるのか、その詳細は不明でした。本研究は発生中の胚を詳細に観察することによって、この課題に挑みました。■内 容
先行研究から、フィブロネクチンは重合によって長く太くなることがわかっていました。何らかの力学的作用がフィブロネクチンの構造を変化させ、重合が起こることが示唆されていましたが、その「力」の発生源は不明でした。我々はフィブロネクチン柱が血管の近傍にのみ形成されることに着目し、血管の脈動で繰り返し起こる伸縮刺激が「力」として働くという仮説を立てました。胚内の血流を操作する実験を行うことで、この仮説を証明しました。本研究から、フィブロネクチン柱は、糸状仮足との相互作用と血管の伸縮刺激との2つの異なるしくみが両立することによって形成されることがわかりました。■今後の展開本研究から、細胞の外にも特徴的な構造物があること、さらにその制御には血管の脈動に派生する「力」が関わることがわかりました。本研究によって、メカニカルストレス(※4)の観点から組織形態形成のしくみを理解する道が拓けました。動脈硬化現象が周辺の細胞環境に及ぼす影響等の解明に繋がることが期待されます。
■用語説明(※1) フィブロネクチン:細胞外基質を構成するタンパク質の一種。
細胞膜上の受容体と結合することにより、細胞—基質間の接着を担う。(※2) 細胞外基質:細胞から分泌され、細胞の外側に蓄積するタンパク質群。細胞接着・移動や組織の形態維持に関わる。 (※3) 糸状仮足:細胞から伸長する細長い突起。細胞内アクチン細胞骨格が伸長し束になることで仮足の構造を作る。 (※4) メカニカルストレス:細胞に対して作用する機械的な力。血流によるずり応力、組織内の張力、運動による負荷などがストレス源として知られている。 ■論文情報
[ 一覧へ戻る ]