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例)研究発表 生命科学科
[2017/06/27]
「敗血症をより増悪させるミトコンドリア依存的なメカニズムを解明 」(臨床検査医学分野 康 東天 教授)
敗血症をより増悪させるミトコンドリア依存的なメカニズムを解明
― 敗血症治療薬の開発へ新たな道筋 ―
  

  九州大学大学院医学研究院臨床検査医学分野の康東天教授、後藤和人助教と佐々木勝彦氏(民間等共同研究員、株式会社LSIメディエンス)らの研究グループは、国立大学法人九州大学と株式会社LSIメディエンスの組織対応型連携の枠組みでの共同研究により、大腸菌の壁構成成分の一つであるリポ多糖(LPS)により免疫細胞から産生される炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン6の量がミトコンドリアの特定の機能により調節されていることを明らかにしました。さらに、マウスの敗血症モデルを用いて、独自に作成したp32部分欠損マウスにおいて生存率が低下することを見出しました。
  敗血症は世界で1800万人が罹患し、医療の進んだ先進国においても死亡率が30%程度と推定されるため、さらなる治療法の開発が必要とされています。これまでの研究において、敗血症予後は、ミトコンドリアの機能や血中のインターロイキン6の量に相関することが示されていました。研究グループは、ミトコンドリア機能を阻害する薬剤をスクリーニングして、ミトコンドリアタンパク質を合成する機能が大腸菌由来のLPSに対するインターロイキン6の産生に影響を与えていることを見出しました。さらにミトコンドリアタンパク質の合成を制御する分子の一つであるp32という遺伝子の部分欠失マウスを樹立しました。敗血症モデルではこのp32という遺伝子がインターロイキン6の量と予後に影響を与えていることを見出しました。さらに、線維芽細胞やマクロファージなど細胞を用いて、過剰に産生されるインターロイキン6はATF4という分子が核に移行することより起こるメカニズムを明らかにしました。以上の結果を踏まえると、ミトコンドリアの特定の機能を保護することやATF4という分子を阻害することが重症な敗血症の新たな治療のターゲットになると期待されます。

  本研究の成果は、Cell誌とLancet誌が共同でサポートする新規オープンアクセス誌EBioMedicineに2017年5月 11日(米国時間)公開されました。

  
(参考図)
  正常なミトコンドリア機能である場合には、細菌由来のリポ多糖に対して炎症性サイトカインであるインターロイキン6が適切に産生されて免疫応答を行う。
  しかしながら、特定のミトコンドリア機能が障害された場合には、ATF4 という分子が活性化しインターロイキン6が過剰に産生され、敗血症モデルのマウス個体の生存率が低下する。

研究者からひとこと:
世界中の多くの患者が敗血症により命を落としています。本研究をさらに前に推し進めて、その結果、新たな臨床検査法・創薬の開発などへとつなげて行きたいと思います。
  

  【お問い合わせ先】 大学院医学研究院 教授 康 東天、九州大学病院 助教 後藤和人 
      電話:092-642-5752 FAX:092-642-5772
  Mail: kang(at)cclm.med.kyushu-u.ac.jp   kgotou(at)cclm.med.kyushu-u.ac.jp
        ※(at)は@に置きかえてメールをご送信ください

  
敗血症をより増悪させるミトコンドリア依存的なメカニズムを解明
― 敗血症治療薬の開発へ新たな道筋 ―

 
  
【背景】
  敗血症は細菌などの血行性感染を発端として、細菌が産生する毒素が全身に広がり、組織障害や臓器障害を起こす重篤な病態です。特に大腸菌などのグラム陰性桿菌の細菌壁の構成成分の一つであるリポ多糖(LPS)(※1)は、敗血症性ショックを引き起こす一因となります。これまで新規の臨床検査法や強力な抗生剤の開発がなされてきましたが、LPSなどに伴う生体の過剰な免疫反応により起こる敗血症性ショックの加療は困難でありました。敗血症は世界で1800万人が罹患し、医療の進んだ先進国においても死亡率が30%程度と推定されているため、新規の治療法の開発が期待されています。
  これまでに多くの研究がなされ、筋肉などのミトコンドリア(※2)の機能が低下している敗血症の患者や血中のインターロイキン6(※3)の量が多い患者では敗血症の予後が悪いことが明らかにされています。しかしながら、どのようなミトコンドリア機能の障害が敗血症の予後に関連しているのか、また、ミトコンドリア機能が障害されると、どのようなメカニズムで敗血症が増悪するのか、という疑問については謎の部分が多く残されていました。
  
【研究内容と成果】
  研究グループは、まずマウスの線維芽細胞に様々なミトコンドリア機能を阻害する薬剤で処理した後に、大腸菌由来の LPSで刺激してインターロイキン6の量を測定しました。その結果、ミトコンドリアたんぱく質の合成阻害剤でもあるクロラムフェニコールやアクチノニンを投与した際にインターロイキン6が増加することを見出し、ミトコンドリアタンパク質の合成阻害とインターロイキン6の量の関係の解析に着手しました。次にミトコンドリアたんぱく質の合成を制御する分子の一つであるp32を発現できないように遺伝子操作したマウス線維芽細胞(p32欠損線維芽細胞)を樹立したところ、LPSの刺激によりインターフェロンや腫瘍壊死因子などのサイトカインは正常に産生できました。しかしながら、ミトコンドリアたんぱく質の合成阻害剤を用いた際に類似して、p32欠損線維芽細胞ではLPSを投与した後のインターロイキン6の量が10倍程度に増加しました(図1)。このことにより、ミトコンドリアタンパク質の合成阻害とインターロイキン6の量には相関性があることが示唆されました。
図1.
大腸菌由来のLPSで刺激すると、p32遺伝子欠損によりインターロイキン6のみが過剰に増加する。腫瘍壊死因子やインターフェロンの量はp32の遺伝子欠損の影響を受けない。
     
  次に、p32 遺伝子の欠損やミトコンドリア蛋白の合成阻害剤がどの分子を介して、インターロイキン6 の量を制御しているのかについて解析しました。LPS 刺激の下流で作動する既知の分子群は p32 欠損線維芽細胞では増加していませんでした。さらに解析を進めた結果、p32 欠損線維芽細胞では LPS で刺激すると ATF4(※4)という分子の発現が増加している上に、核へと移行することが明らかとなりました(図 2)。p32 欠損線維芽細胞やミトコンドリアタンパク質の合成阻害剤で処理した線維芽細胞で ATF4 遺伝子を低下させるとインターロイキン 6 の量が野生型線維芽細胞と同程度まで減少しました。これらの結果をまとめると、ミトコンドリア蛋白の合成を阻害すると、既存の炎症反応に加えて、ATF4 依存的にLPS に反応するインターロイキン 6 の量が増加することが明らかとなりました。
図 2.
大腸菌由来の LPS で刺激すると、p32 遺伝子欠損線維芽細胞は ATF4 が核に集積する。野生型線維芽細胞では ATF4 は核に移行しない。
  
  最後に動物個体内で、ミトコンドリアタンパク質の合成阻害が敗血症に影響を与えているかをマウスに LPS を投与する敗血症モデルを用いて解析しました。野生型マウスは LPS 投与により血中インターロイキン 6 の量は増加するものの、肝臓の組織に大きな影響を与えずに大半が生存していました。一方で、p32 遺伝子がマクロファージなどのみで欠失したマウス(p32 部分欠失マウス)で解析したところ、LPS 投与後にマウスの血中の肝酵素、インターロイキン 6 の量が増加し、最終的にマウスの生存率が低下していました(図 3)。この結果により、p32 遺伝子の欠損などミトコンドリアたんぱく質の合成障害が起きた際には、過剰にインターロイキン 6 が産生され、マウスが死にいたることが示唆されました。このことは、特定のミトコンドリア機能を保護することや ATF4 を選択的に阻害することが敗血症の新しい治療法となる可能性を示しています。

図 3.
A マウスの個体に LPS を投与して、血中インターロイキン 6 の量を測定した。p32 部分欠損マウスでは野生型マウスに比較して、インターロイキン 6 の量が増加していた。B.LPS を投与して、マウスの生存率を解析した。野生型マウスでは大半が生存しているのに対して、p32部分欠損マウスでは著しく生存率が低下した。
  
【今後の展開】
  近年、新規の臨床検査法や治療薬が多数開発されているにもかかわらず、敗血症に対して十分に有効な治療法が確立されていません。その原因の一つは、敗血症時に宿主の免疫機能を落とさずに、過剰な炎症反応のみを制御するということが困難であったことも一因であると考えられます。本研究では、敗血症の予後とミトコンドリアの機能の関係に着目して、宿主の抗細菌免疫に加えて、ミトコンドリア機能障害に伴い起こる過剰な炎症反応のメカニズムを解明しました。新薬として TLR4 アンタゴニストなどが開発されていますが、ミトコンドリアの機能を保護する薬剤や ATF4 の阻害剤なども今後の創薬ターゲットになりうると考えられます。
  
【本研究について】
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究 A(康東天)および日本学術振興会科学研究費助成事業若手研究 B(後藤和人)及び国立大学法人九州大学と株式会社LSIメディエンスの組織対応型連携事業の一環で設立された共同研究部門「先端臨床検査研究部門」の研究資金のもとで行われました。

■用語解説
(※1)Lipopolysaccharide(LPS):大腸菌などグラム陰性細菌の細胞外膜に存在するリポ多糖であり、マクロファージなど免疫細胞で認識されて多量の炎症性サイトカインを産生し、敗血症性ショックなどの原因となる。
  
(※2)ミトコンドリア:真核生物の細胞内に見られる必須の細胞小器官であり、生命活動に必要なエネルギーを酸素呼吸によって産生するのみならず、さまざまな物質の代謝に関わる。
  
(※3)インターロイキン 6(Interleukin-6):炎症性サイトカインの一種で、マクロファージや樹状細胞など免疫細胞・線維芽細胞・がん細胞などから産生され、関節リウマチ・敗血症など炎症性疾患の病態マーカーとして臨床に広く用いられている。
  
(※4)Activating Transcription Factor-4(ATF4):様々な生体のストレスにより活性化する分子。近年、肥満・慢性炎症などの増悪因子であることが示されている。
  
■ 論文名
“p32 is Required for Appropriate Interleukin-6 Production Upon LPS Stimulation and Protects Mice from Endotoxin Shock”
(p32 は LPS の刺激によるインターロイキン 6 の量を調節し、敗血症性ショックからマウスを守る )
雑誌名:EBioMedicine
 

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