わが国においても欧米諸国同様、生活習慣病の増加、および高齢化の比率が高まるのに伴って、近年心血管病の発症は、増加の一途をたどっている。高齢化社会と、近年の技術的発達により、急性期の死亡は減少し、その多くが慢性心不全へと移行しているのが主な理由と考えられ、そのために、慢性心不全のメカニズムの解明および治療法の開発が、必要不可欠とされてきた。心不全の病態形成には、レニンーアンギオテンシン、アルドステロン、そして交感神経作用の亢進など、神経液性因子が関与し、それらが増悪因子となって心肥大・心筋リモデリングが進行し、最終的には非代償的に心筋の破綻が生じることが明らかであるが、本研究室では、その心不全の病態形成過程において、酸化ストレスが極めて重要な役割を果たしていることを示してきた(下図)。
生体内は、常にダイナミックなレドックス反応がおこっており、多量の酸素によってATPを産生する臓器である心筋では特に顕著となる。細胞内において、重要なエネルギー産生の場である、ミトコンドリア電子伝達系は、電気的勾配を利用して、主たる活性酸素の産生源でもある。
これまでも、酸素濃度が著しく上昇した場合や、呼吸鎖が遮断された場合、病態では特に炎症や虚血再環流時には、ADPも低下した状態で再酸化され、電子の流れが制限されてリークしやすくなる。その結果、スーパーオキサイドがComplex IおよびComplex IIIより産生される。このミトコンドリア電子伝達系由来の活性酸素産生は、心不全においても重要な役割を果たしており、これらを制御することが、心筋リモデリングの制御につながること、さらにその制御にかかわる鍵は、ミトコンドリアDNAであることを、一連の研究を通して明らかにしており、今後は、その治療への応用を目指している。