■医療関係者向け
■標準化に向けて       (文責:濱崎直孝)

臨床検査精度管理

 臨床検査測定の技術は驚異的な発展を遂げている。初期診療に必須の臨床検査項目の測定はほぼ完全に機械化・自動化されている。このような科学の進歩にもかかわらず、まだ解決できないでいるのが、臨床検査測定値が各病院共通に利用できないという問題である。病院を変わると検査をやり直さなければならないのは、医者や慢性の疾患を抱えている患者にとっては常識になっている。しかしながら、それでも現在は徐々に改良されつつあり、もう少しの努力である程度の地域内では、病院間での比較が可能になり、臨床検査の精度管理・標準化は整備されつつある。臨床検査測定値の標準化の目標は、診療に必須の基本的な臨床検査については全国どこの測定値でも数値を単純に比較できることであり、大局的に眺めると、あと一息のところまで来ている。

 
臨床検査の場合、その分析目的に合致した臨床検査の精度管理・標準化とは何であろうか? 
 一言でいえば、「患者あるいは健康人の病状あるいは健康状態を把握できる情報を分析し提供すること」である。この目的のためには、現実的にはどのように対処したら良いのか? 
 その答えは以下の6項目にまとめられると我々は考えている。

 

1.  現実の日常検査と精度管理検査との間に差がでないこと

2. 
日常の交流ができる地域内での施設間較差是正の努力をすること


3.  そのためには、現場でできる精度管理システムを創ること

4.  そのような精度管理システムを創ったら、そのシステムを現実に動かすこと


5.  分析精度の上限は、診断や治療法に影響を与えるか否かを基準として決定されること

6.  ともかく、動ける精度管理システムで動くこと。あるべき理想的なシステムには動かしながら近づける努力をすること

 
 福岡県では、1972年から県医師会による県内の精度管理調査が開始され、1988年には福岡県内の4大学(九州大学、久留米大学、産業医大、福岡大学)と飯塚病院(私立総合病院)検査部の技師が福岡県五病院会を発足させ、共通のプール血清を用いて5病院会間(分院を含めた6病院)での検査データを比較し調整する作業を開始し、さらに、1992年には福岡県臨床衛生検査技師会が月例サーベイを開始した。1995年には23の臨床化学検査項目に関して、県内の基準範囲をNCCLS(米国臨床検査標準委員会)の方式に則って決定した。
 このような作業の継続と結果、
福岡県では30数項目に限られてはいるが、県内の臨床検査は標準化され、共通の基準範囲が利用できる状況になっている。このような活動に、九州大学病院検査部は福岡県五病院会のメンバーとして参画している。
 このような福岡県五病院会の活動は下記の論文に纏めている。
 

 

. 中原陸子,飯田廣子,木下幸子,他:日常内部QCと連携させた地域精度管理体制の検討;第2報 福岡県5病院会による目標値および基準範囲設定の試み. 医学検査  45:1106−1110,1996.

. 福岡県医師会精度管理委員会:福岡県医師会臨床検査精度管理委員会中間報告,福岡県医報,125170-721997

. 福岡県医師会:臨床検査精度管理調査「検査値統一化マニュアル」平成11年3月,1999.

. 濱崎直孝,木下幸子:共有可能な基準範囲設定と病態識別値の付記. 医学のあゆみ184:659-663,1998.

. Kinoshita S, Toyofuku M, Iida H, et al. : Standardization of Laboratory Data and Establishment of Reference Intervals in Fukuoka Prefecture: A Japanese Perspective. Clin Chem Lab Med 39:256-262, 2001.

. 木下幸子,豊福美津子,飯田廣子,他:福岡県における臨床検査測定値標準化の現状. 臨床病理 49:48-49, 2001.

. 日本臨床化学会. クオリティマネジメント専門委員会:福岡県における臨床化学28項目の基準範囲と標準化―「臨床化学検査及び基準範囲の統一化プロジェクト」プロジェクト報告―. 臨床化学 30:171-184, 2001.

. 篠原克幸,村上公夫,坂本徳隆,他:精度保証用プール血清の作製と安定性評価. 医学検査 49:1336-1339, 2000.

9. 豊福美津子,中城トモ子,中原陸子 他:外来患者を用いた高齢者年齢別基準範囲の推定,臨床病理 47:165-169,1999.