今日の生命倫理学では、医学研究を扱う「研究倫理」より、臓器移植など診療行為を扱う「医療倫理」のほうが注目されがちである。しかし、生命倫理学は、戦時下の残虐な人体実験への反省により築かれた「研究倫理」をその起源としている。
一般の診療所や病院と異なり、研究が第一義となる大学においては、「医療倫理」のみならず「研究倫理」の確立が特に重要である。米国では、国家研究法の制定以来、研究倫理が法制度として確立されてきたが、我が国においては、多くの問題が未解決のまま今日まで放置されている。治験だけは法規制されたため治験の質は確かに向上したが、治験以外の臨床研究ではインフォームド・コンセントの取得すら保証されていないのが現状である。実際、非倫理的な臨床研究は今なお多い。
このような「無法状態」が放置され続けると、医学研究全体の衰退を招きかねない。全ての臨床研究を包括する法規制が是非とも必要である。それを実現するための具体的提案を目的として、医学研究の生命倫理学的側面に関する研究を進めている。
笹栗 俊之 (2004) 研究倫理教育の徹底を ―薬理学教育に求められるもの― 日本薬理学雑誌 124, 182-186
笹栗 俊之 (2005) 「臨床研究法」の制定に向けて 日本医事新報 4234, 22-25
笹栗 俊之(訳)(2007) 人を対象とする研究:歴史的側面 生命倫理百科事典 (生命倫理百科事典翻訳刊行委員会編), pp. 914-923, 丸善
笹栗 俊之(訳)(2007) 研究方法論 I. 概念上の問題 生命倫理百科事典 (生命倫理百科事典翻訳刊行委員会編), pp. 961-969, 丸善
笹栗 俊之 (2007) 私の視点「臨床試験:系統立てすべてに法規制を」 朝日新聞 8月29日
笹栗 俊之、柴田 智美(2008) 診療と研究の境:臨床試験の倫理 生命の倫理2:優生学の時代を越えて (山崎 喜代子 編), pp. 297-328, 九州大学出版会
笹栗 俊之(2009) 臨床試験審査委員会(IRB) 創薬育薬医療スタッフのための臨床試験テキストブック (小林 真一、山田 浩、井部 俊子 編), pp. 153-157, メディカル・パブリケーションズ