
平成15年5月16日付けで、九州大学胸部疾患研究施設の教授を拝命いたしました。この場を借て、就任のご挨拶と医局のご紹介をすると同時に、今後の運営方針を申し上げます。
胸部疾患研究施設は、九州大学大学院医学研究院(旧医学部)の附属施設で、呼吸器疾患の病態解明・治療研究と教育を主たる業務としています。九州大学病院における診療部門は呼吸器科で、現在病床数41床です。主として肺癌・間質性肺炎・気管支喘息・COPD・呼吸器感染症の診療を行っています。
この胸部疾患研究施設は昭和27年(1952年)に、九州大学医学部附属結核研究施設として生の松原に開設されました。本施設は、当時国民衛生に深刻な打撃を与えていた結核の研究を主たる目的としていました。その後、じん肺、慢性閉塞性肺疾患、肺癌、非結核性呼吸器感染の増加に伴う疾病構造の変化を見据えて昭和35年には胸部疾患研究施設と改称されました。昭和48年(1973年)に現在の福岡市東区の医学部地区に移転し、現在に至っています。現在では、分子生物学、免疫学、遺伝子工学などの最先端の科学技術を駆使し、肺癌、間質性肺疾患、喘息やCOPDなどの難治性の呼吸器疾患の病態解析と治療法の開発を精力的に行っています。
WHOの報告によると、高齢化社会と共に21世紀は、呼吸器疾患が人類にとりもっとも重要な問題になると予測されています。教室としては、呼吸器疾患の病態解明と新規治療の開発をメインテーマに掲げたいと考えています。対象とする疾患は、肺癌・間質性肺炎・気管支喘息・COPD・難治性呼吸器感染症です。特に、新規治療法の解明という点では、遺伝子治療、細胞療法、再生医療の積極的な展開を目指し、研究のための研究ではなく、臨床応用を目標とした研究を進めたいと考えています。
具体的な研究テーマとしては、肺癌の遺伝子治療と細胞療法の臨床応用があります。いわゆるトランスレーショナルリサーチの一環として、癌細胞の中だけで特異的に細胞傷害を引き起こウィルスの作成や、癌細胞側からの攻撃に負けないスーパー樹状細胞の作成を試みており、基礎的検討では一定の成果を挙げています。これからは臨床応用を視野に入れた研究を展開する予定です。難治性疾患である特発性間質性肺線維症においては、病的なアポトーシスの進行が病態にきわめて重要であるという知見を得ており、治療を考える上ではアポトーシスの抑制が重要であると考えています。基礎的研究から、肺組織に生じるアポトーシスを抑制する手法として、抗体療法や遺伝子治療がきわめて有望であるとの知見を得ており、これについても将来の臨床応用を目指します。気管支喘息については、吸入ステロイドの普及により治療成績は大きく改善しましたが、難治性喘息の病態解明と治療法確立は今後の問題点です。さらに、今後急激な増加が懸念されるCOPDについては、今のところ有効な治療法はないのが現状です。そこで、教室では肺線維症やCOPDについての再生医療の可能性について研究を開始します。また、肺炎は我が国の死因の第4位であり、大きな国民衛生上の課題です。抗生剤・抗菌剤の進歩にもかかわらずけっして減少しない呼吸器感染症をどのように管理し、予防や治療法を確立するかということも重要なテーマです。今年から呼吸器感染症研究室を立ち上げ、これまでとは異なった視点から感染症対策を検討して行く予定です。
一方、診療に関しては、良質で患者さんに優しい医療、将来の医療に貢献するエビデンス構築を目指しています。先に紹介した基礎研究だけでなく、数々の臨床試験や多施設研究も積極的に展開しています。現在、呼吸器疾患の急増にもかかわらず、福岡周辺では呼吸器内科医の不足が深刻な問題となっています。教室では、カリキュラムの中で内科認定医の取得に始まり、呼吸器専門医から呼吸器指導医資格取得まで責任を持った指導体制と研修システムを保証します。努力無しですべての資格を取得できるわけではありませんが、きちんとしたモチベーションを持って入局した医師は指導医取得までのルートを確実に歩む機会が与えられます。もちろん、これに加えて学位の取得も是非目指していただきます。
呼吸器病は直接生死に関わる疾患領域です。内科的診療手技に加えて、気管支鏡、胸腔ドレナージ、人工呼吸器の操作など体得すべき専門的技術も少なくありません。また、死と直接向き合う機会もしばしばです。答のない疑問にぶつかることも、現代医療の限界に悩むことも、二者択一の苦渋を味わうこともあります。共に悩み、励み、成長する機会を持つことができれば幸いです。呼吸器内科学の臨床と研究に共に励む目指す若い力を募集しています。
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