Kyushu Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University
(九州大学大学院 医学研究院附属 胸部疾患研究施設)
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肺癌研究室紹介
1)九大病院がんセンターの活動
今年はがん対策基本推進計画の施行から5年が経過し10年計画のちょうど半分まで来ましたので方針の見直しが行われました。その結果、今後5年間に新たに取り組むべき重点項目が設定されました。@放射線療法、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成、Aがんと診断された時からの緩和ケアの推進、Bがん登録の促進、C働く世代や小児へのがん対策の充実、が重点項目として上げられています。当院でもこれらの重点項目に添った活動方針の見直しを行っており、今年はがん登録システムとこれまでに蓄積されたデータを基にQI(Quolity Indicator)と呼ばれる診療の質を評価するための指標作りに力を入れることになりそうです。教育活動としては医療従事者に対して緩和ケア研修会、コメディカルスタッフがん医療研修会、がん看護に関わる看護師の育成研修会、院内がん登録研修会、九大病院がんセミナーを、患者さん向けの勉強会としてクローバー会を定期的に開催しています。診療についてはがん種ごとの腫瘍部会が組織されており、肺癌をはじめとする胸部由来の腫瘍(乳癌は除く)については気管支・肺・縦隔・胸膜部会を毎月開催して治療内容の検証を行っています。さらに院内がん治療レジメンの審査委員会が設立され、院内におけるがん治療レジメンの審査が始まりました。がんセンターの下部組織として外来化学療法、がん相談支援、緩和ケア、院内がん登録の各部門があり、外来化学療法部門については私が責任者を兼務しています。外来化学療法の利用者数は平成22年度までは右肩上がりに増加が続いておりましたが、平成23年度は年間利用者数が約7800例でほぼ頭打ち状態となっています。一方、臨床各科からの化学療法の依頼はさらに増え続けており、一部の患者については当外来化学療法室の利用に制限を設けざるを得ない状況です。根本的な解決策としては外来化学療法室の増床、増員しかなく、現在病院側と交渉をすすめているところです。外来化学療法室では診療各科より提出される新規登録レジメンの予備審査も行っており、肺がんだけでなく幅広く多種多様な悪性疾患に対する知識を身につけることができます。臨床腫瘍医を目指したい先生は外来化学療法室で診療されることをおすすめします。

2)患者教育・社会活動
毎週木曜19時より1時間ほど当院呼吸器科に入院されている患者さんおよびそのご家族を対象に勉強会を開いており、肺癌についての検査や治療についての一般的な説明や資料の配布を行っています。内容については当科ホームページ上でも公開しておりますので、もし参加をご希望の方がおられましたらご連絡ください。

3)研究各論
  1. 肺がんの発がんと増殖について
    伊地知先生は細胞周期のG2-Mチェックポイントを制御するCHFRの研究を行っています。同遺伝子の強制発現によるがん細胞の生物学的特性の変化について研究をすすめていますが研究期間も残りが短くなってきましたのでそろそろ結果を出していただきたいところです。王先生は肺がん細胞株におけるニコチン受容体の機能解析を行っており、ニコチン刺激による抗がん剤耐性メカニズムの一端を明らかにしました。現在論文をリバイスしているところです。岡村先生は原田先生の指導のもとTrkB分子(Tropomysin-related kinase B)の発現と臨床背景や予後との関連に関する論文がLung Cancerに採択されました。現在は大坪先生の教室と共同でPICTの発現と肺がんの予後についての解析をすすめています。生医研で研究を行うことになった大坪先生、米嶋先生はそれぞれ異なるアプローチで発がんメカニズムに迫ろうとしています。大坪先生は器官サイズを制御しがん抑制的に働いているHippo pathwayに着目して、同経路の一部であるMats分子のKOマウスを作成しました。現在は同マウスを使ってその機能解析を行っています。米嶋先生は酸化ストレスによって生じた遺伝子の傷を修復する酵素をKOし、その細胞やマウスを使って発癌過程の解明をすすめています。
  2. 分子標的治療について
    原田先生は米国での仕事をさらに発展させるべく研究を開始されました。EGFRと蛍光蛋白であるYFPを融合させることで、TKIの効果が視覚的にわかるシステムを開発しています。現在は古山先生が同システムを使って実際にTKIで加療を行っている患者さんの血清の抗腫瘍活性を調べています。また、大田先生は抗体とDNAプライマーを融合させた分子による新たなPCR法を用いてEGFRの二量体形成を検出するためシステムを構築中です。藤井先生はDNAのメチル化に着目してEGFR-TKIへの耐性メカニズムに取り組んでいます。李先生はBevacizumabの血管新生阻害効果だけでなく、EGFR-TKIとの併用による薬剤の組織移行について研究を行っています。今年度は次世代がんプロジェクトという大型の予算を使えるようになり、上記のとおり当研究室の人員とリソースをEGFR研究へ集中させることになりました。原田先生にはプロジェクト全体の動きを統括し是非画期的な成果を上げていただきたいと思います。
  3. 新規治療の開発
    樹状細胞療法や腫瘍ワクチン療法については先端分子・細胞療法科(谷教授)との共同研究として井上(博之)先生を中心に研究を続けています。従来より取り組んでいるGVAX療法やセンダイウィルスベクターをもちいた腫瘍ワクチンの開発に加えて、最近では誘導樹状細胞(iDC: induced dendritic cell)によるワクチン研究も行っています。またiPS細胞を使った研究やCancer stem cell研究、腫瘍融解ウィルス研究など極めて興味深いテーマにもチャレンジしており文科省や厚労省から大型の研究費を獲得しています。今年度はCancer ResやBloodといった一流英文誌に次々と論文が採択され長年の努力が実りつつあります。来年度もこの勢いを持続させて論文を量産していただきたいと思います。今年から新たに基礎研究を開始された久保先生はエピジェネティクスをテーマにしており、穴井先生はゼブラフィッシュを使った研究に取り組んでいます。これらの研究が将来どのような形でがんの診断や治療に結びつくのか今は想像もつきません。しかし、がんという病気は一筋縄ではいかない極めてやっかいな病気ですからできるだけ多様な視点からこの病気を理解することが重要です。若い先生方には最先端の研究にチャレンジし、難治がんの一つである肺がん診療の将来に希望を与えていただきたいと願っています。
4)診療
  1. LOGIKでの活動
    進行期肺がんの予後を改善できるのは化学療法以外になく、治療におけるエビデンスを構築するためには臨床試験をすすめることが必要です。当施設を核とする全九州的な肺癌臨床研究機構LOGIK(Lung Oncology Group In Kyushu, Japan)の活動も7年目に入りました。グループ内に放射線治療委員会や病理委員会を組織し、これらの委員会の主導による放射線治療の試験や病理組織に関する観察研究も実際に始まっています。また、発熱性好中球減少に対する抗生剤の試験などの支持療法にも対象を広げて実施しています。同門の多くの先生方にLOGIK会員になっていただき、肺がん臨床試験の推進にご協力いただければ幸いです。
  2. 個別化ペプチドワクチン療法
    国からの委託事業の一つに腫瘍性疾患に対するペプチドワクチンを用いた臨床研究が選ばれ、肺がんを対象にした個別化ワクチン療法の開発は久留米大学の支援を受けながら当院を中心に仙台厚生病院、弘前大学病院、宮城県立がんセンターを加えた5施設共同で臨床試験を行うこととなりました。現在、全体で約60%の症例が集積されており完遂に向けて登録をすすめています。患者さんの免疫療法への関心は高く、免疫療法の一つであるワクチン療法の効果について成果を出したいと考えています。
  3. 新規薬剤の治験
    企業の主導による新規薬剤の治験についても積極的に参加しています。しかしながら、試験によっては当院一施設だけでは症例のリクルートがすすまないこともあります。そこで、今年度より当科関連施設の先生方が集まる研究会等の機会を利用し、現在九大で実施している企業主導の治験に関する情報を提供するようにしています。企業との間で秘密保持契約を結んでおりますので全ての情報を公開することはできませんが、許容される範囲で情報提供を行います。それぞれの医療機関での治療戦略の一環として当院での治験を多くの患者さんに利用していただければ幸いです。
肺がん治療の変遷
今年の同門会誌は60周年記念号ですので、肺がん治療の変遷と肺がん研究室のかかわりを簡単に振り返ってみたいと思います。肺がん研究室は当科の研究室の中では最も歴史の浅い研究室かと思います。そのスタートがいつかということになると中西先生が佐賀大学から九大に復帰されてからということになるでしょうか。私自身は大学院時代は分子生命科学の大村教授の下でステロイドホルモン生合成にかかわるチトクロームP450遺伝子の発現制御について研究しておりましたから癌研究とは無縁でした。大学院3年目の時に原 信之先生が当科の教授に就任され、私が大学院4年目に入ったころにお電話をいただきました。原先生からは教室に戻って中西先生と協力して肺がん研究を進めて欲しいということでした。ちょうど学位論文ができて区切りがついたところだったので、大学院の期間はまだ残っていましたが大村先生の了解を得て1994年6月1日に教室に戻りました。比較的自由に研究させていただいたので、大学院時代に身につけた遺伝子工学の手法を利用して肺がんの遺伝子治療研究をすすめることになりました。臨床に関しては大学院で3年間のブランクがあったため、逆にその前後での呼吸器診療の変わりようがはっきりとわかりました。特に実際の診療で実感できたのは吸入ステロイドとニューキノロンの効果ですが、肺がん診療ではセロトニン拮抗剤の登場により化学療法を受けている患者さんが吐かなくなったことが印象的でした。今の若い先生にはプリンペランとデカドロンしかなかった時代のことなど想像できないと思いますが、あまりに吐き気がひどいため人道的?な医師からシスプラチンベースの化学療法が白い目で見られていたことを思うと隔世の感がありました。1990年代の後半は第3世代と呼ばれる新規抗がん剤が次々に出てきたころで、さまざまな治療レジメンの効果や毒性を評価する臨床試験が行われるようになりました。九州でも当科を中心に関連病院でKTOGという臨床試験グループを組織して活動を行っていましたが、当時事務局業務は全て医局で行っていたため試験の運営は面倒なことが多かったです。2000年には本邦では初めて非小細胞肺がんを対象にした全国規模の臨床試験であるFACS研究が開始され、この研究の成果は現在でも非小細胞肺がん治療におけるレファレンスデータとして使われています。小細胞肺がんについてはなかなか治療成績が改善しませんが、当時は末梢血幹細胞移植を併用した超大量化学療法を臨床試験として実施していました。病室に無菌ベッドを搬入し感染に注意しながら実施していましたが、夏場は暑くて大変だったことを思い出します。その後、遺伝子治療研究を展開するために原先生、中西先生の了解を得て2000年から2年間米国に留学させていただきました。帰国してからの大きな出来事としては分子標的薬の登場かと思います。イレッサはまさに肺がん診療において分子標的薬の幕開けを告げる薬でありました。当時、10年後には肺がん治療薬の90%は分子標的薬が占めるという予測だったのですが、今のところまだ細胞障害性抗がん剤も肺がん治療には不可欠の薬剤です。しかし、分子標的薬の開発はますます進み、既に主要な薬剤ですらその一般名を覚えられないほど種類が増えてきました。近い将来、分子標的薬が細胞障害性薬剤を駆逐してしまう日が来そうな気配がします。九大病院では内科病棟が旧東病棟に別れを告げて新病院へ移り、電子カルテも導入されて機能的に診療が行われるようになりました。2004年に開設された外来化学療法室も年々利用者数が増え、抗がん剤治療は外来で行うものという考えが広く認められつつあります。臨床試験については2004年秋にKTOGを解消して九州がんセンターを中心とするグループと共同でLOGIK(Lung Oncology Group in Kyushyu, Japan)を結成しました。同時期に臨床試験をサポートするCReS九州という組織が立ち上がっていましたので、LOGIKは試験にかかわる事務作業をCReSに委託し、医局の負担がかなり軽減されることになりました。LOGIKの結成から今年で丸8年が経過しましたが、この間多くの臨床試験を実施し多少なりとも肺がん診療に貢献できたのではないかと思います。今後も魅力ある試験を立案し肺がん治療成績の改善に取り組んでいきたいと考えています。関連病院の先生方にはご協力をお願いする次第です。

最後に
私が医師になったころ肺がん患者さんの予後は6‐8ヶ月ほどしかありませんでした。この20年間の肺がん治療の進歩により生存期間は2倍に延長しましたが、まだまだ満足できる成績ではありません。この難しい病気に基礎、臨床の両面からチャレンジする意欲ある先生方の参加を肺がん研究室は歓迎いたします。
肺癌研究室責任者 高山浩一