特別講演 第23回九州電子顕微鏡技術研究会抄録


精子の先体反応を巡って
星 元紀
放送大学 教授

要旨:
1947年祖国アメリカへの里帰りを果たしたJean M. Clark Dan(団 仁子)は、位相差顕微鏡の市販第一号機を手に日本へ戻った。彼女は、この顕微鏡によって、ヒトデやウニの受精過程を東京大学三崎臨海実験所で 観察し、1950年には先体反応に関する最初の論文を発表した。彼女はさらに、東京工業大学において金属表面の観察に使われていた日立製作所の電子顕微鏡 4号機による観察へと進み、1951年には最初の電子顕微鏡像を手にし、1952年には先体反応の概略を明らかにした。彼女の発見は、古く1927年G. Popaが記載した現象の再発見ともいえるが、その生物学的な意味を明らかにしたという意味で、先体反応の発見と呼ぶに相応しい快挙である。その結果、細 胞としての精子が再認識され、精子細胞学の幕開けとなった。
ここでは、Danによる先体反応発見にまつわるエピソードを紹介するとともに、先体反応誘起機構に関する現在の知見を、われわれの得た成果を中心に紹介し たい。



微視的構造の観察に基づいた骨の機能的適応現象に関する研究
藏田 耕作
九州大学大学院工学研究院機械工学部門・准教授

要旨:
 我々の体の中には約206個の骨がある.この骨は,体を支え,筋肉に付着点を与え,さらに脳や内臓などの臓器を保護する重要な組織である.静的に体幹を 支持している骨は,まるで高層建築物や橋梁の柱と同じようなものに思えるかもしれないが,実は毎日ダイナミックな作り替え,すなわち代謝を行っている動的 な組織である.さらに驚くべきことに,我々の周囲の環境変化に適応するように,この骨代謝はコントロールされている.「運動をすると骨が強くなる」とか 「寝たきりで骨粗鬆症になった」とか言われるのは,骨が力学的環境の変化を感じ取り,代謝を行った結果である.環境に適応して構造や強度を変え,骨折が発 生するとその場所を修復する骨は,エンジニアにとって模倣すべき最良のインテリジェントマテリアル(知的材料)であると言える.本講演では,我々が取り組 んでいる骨の機能的な適応現象に関する話題を提供し,骨に加わる力と骨形態の変化の関係,骨に生じる疲労亀裂と骨細胞の応答,微小振動による骨の増強法な どに関する研究を紹介する.また,これらの研究に欠かせないX線マイクロCTやpQCTによる骨形態計測,種々の顕微鏡による骨組織の観察について触れ る.