第10回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

脳腫瘍の形態
-神経細胞系腫瘍を中心にー

九州大学医学部脳研外科   西尾 俊嗣、森岡 隆人
 


要旨: 中枢神経には種々の腫瘍が発生するが、その中で神経細胞系腫瘍は比較的発生頻度の低い腫瘍である。しかし、最近の画像診断技術の進歩などにより何の症状もなく偶然に、あるいはてんかんなどの症状のみで発見される本腫瘍が増え、さらにグリオーマと類似した組織像を呈する腫瘍の中に神経細胞由来の腫瘍が含まれていることが指摘されるようになり、本腫瘍は従来考えられていたほど稀なもではないことが明らかになってきた。また、本腫瘍の起源、発生過程には不明な点が多い。ここでは以前はグリオーマと考えられていたが、電子顕微鏡所見によりそうではなく神経細胞系腫瘍であることが判明した腫瘍を中心に解説する。

1.中枢神経の神経細胞系腫瘍の分類
 一般に、腫瘍はそれがどのような正常細胞と形態学的に類似、あるいはどのような組織構築を模倣しているかにより分類されている。中枢神経に発生する神経細胞系腫瘍もこれを構築する細胞の形態学的特徴により分類されてきたが、本腫瘍の組織像はバラエティーに富み、その分類、命名法などに多少の混乱がある。
 従来用いられてきたgangliocytoma、ganglioglioma、ganglioneuroblastoma、neuroblastomaなどの分類は、neural crestの未分化な神経芽細胞(neuroblast)から末梢神経の神経節の成熟した神経節細胞(ganglion cell)に至るまでの各発生段階でみられる神経細胞と腫瘍細胞との形態学的対応を念頭に置いたものである。このような分類概念を用いる根拠としては、中枢神経のgangliocytomaやgangliogliomaを構成する腫瘍細胞は自律神経系の腫瘍でみられるものと微細構造上類似しており、大脳の正常神経細胞にはみられないほど多くのdense-core vesicleが存在すること、中枢神経に発生するneuroblastoma (central neuroblastoma) にも末梢神経に発生するneuroblastoma (peripheral neuroblastoma) と同様カテコールアミンを産生するもの、あるいはカテコールアミン合成経路の酵素を持つものが存在すること、メラニンを含むものが存在すること、末梢神経の神経細胞系腫瘍と同様の神経ペプチドが存在することなどが挙げられている。しかし、このような性質を示さない本腫瘍も多く、さらにgangliogliomaの中には中枢神経に特徴的であるGABA (γ-aminobutyric acid)のreceptorのall subunitなどが存在しているものや、腫瘍間質はastrocyteやoligodendrocyteであることなど中枢神経腫瘍としての性格を強く示すことも多い。また、中枢神経の成熟した神経細胞は大型の明るい核と明瞭な核小体、Nissl物質を持つganglion cellに類似したもの(ganglioid cell)のみではなく、球形、卵形、紡錘形、錐体形など多様な形態を示す(図1)。このような様々な神経細胞に類似する細胞で構成される神経細胞系腫瘍が中枢神経には発生するはずであり、また、neural crestにおけるように小型の円形の細胞が未熟な細胞であると単純に判断するのは小脳顆粒細胞のような神経細胞も存在するので正しくなく、neural crestでの神経細胞の発生、成熟過程を単純にそのまま中枢神経の神経細胞系腫瘍の分類に当てはまめことには無理があると考えられる。
 中枢神経に発生する神経細胞系腫瘍の命名法については多少の混乱があるが、神経細胞の形態学的な特徴により、我々は表1のように分類している。以下、この分類にそって各腫瘍の問題点につき解説する。

2.GangliocytomaとGangliogliomaについて

2.a. 腫瘍構成細胞が神経細胞であることの同定、指標となるもの
 Ganglioid cellが不規則に増殖し、その中に2個以上の核を持つ大きな細胞が存在しておれば、gangliocytomaやgangliogliomaなどの診断は容易である(図2)。しかし、astrocyteが神経細胞に類似したり、逆に腫瘍性の神経細胞がastrocyteやoligodendrocyteに類似することはよくある。また、ganglioid cellが腫瘍性のものか変形した既存の神経細胞であるのかの判定が困難なこともある。そこでHE染色に加えて色々な特殊染色が用いられてきた。さらに最近ではneuron specific enolaseや神経細胞に特異的なclass ・ b-tubulin、chromogranin、synaptophysinなどに対する免疫染色も行われている。電子顕微鏡による検討も神経細胞を同定するのには有用である。

2.b. 本腫瘍の増殖に関与する細胞
 Bromodeoxyuridine(BUdR)、Ki-67、proliferating cell nuclear antigen(PCNA)、DNA flow  cytometryなどを用いた細胞増殖能の検索で、gangliogliomaではグリア成分は増殖しているがganglioid cellには分裂能がなく、これは腫瘍性のグリア細胞に取り囲まれた"innocent bystander"であると主張する者がいる。しかし、ganglioid cellには多核のものが存在するし、その分裂能を観察した報告や、ganglioid cellにanaplastic changeがみられることもある。Gangliogliomaでは腫瘍の発育のstageによって、あるいはその程度に差はあるかもしれないが神経細胞成分、グリア成分ともに増殖に関与していると考えられる。

2.c 予後とそれに関連する因子
 大脳のgangliogliomaは腫瘍摘出術のみ(いわゆる"lesionectomy)で痙攣のコントロールを含めて良好な機能予後、長期生存が期待でき、術後の補助療法は通常必要としない。また、グリア成分の組織学的悪性度はグリオーマにおけるほど強い予後決定因子ではない。

3.小型神経細胞からなる腫瘍について
 腫瘍がganglioid cell以外、特に小型神経細胞から構成されている場合には光学顕微鏡のみでの診断は困難で、免疫組織学や電子顕微鏡などでの検討が必要となることがある。たとえば、脳室内に好発するneurocytomaは(図3)、HE染色ではoligodendrogliomaあるいはependymomaに類似し、実際そう診断されてきたが、その微細構造をみると小さな腫瘍細胞は神経細胞の特徴を示しており、神経細胞由来のものであることが判明した腫瘍である。

3.a. Neuroblastoma
 本腫瘍は脳実質内に境界明瞭な腫瘤を形成し、組織学的に小型類円形のクロマチンに富む核と狭い細胞質をもつ腫瘍細胞が密に増殖している。免疫組織学的にはsynaptophysin、neurofilament proteinなどの神経細胞のマーカーが陽性であり、電子顕微鏡ではsynapseやsynaptic vesicleなどがみられ神経細胞系腫瘍の特徴を示す。未分化で、核分裂像も多く増殖能は高い。
 小脳のneuroblastomaは大脳のものとは少々趣を異にする。幼少児の小脳正中部に好発し、組織学的には腫瘍細胞が線維組織により房状に分けられ、小型の核を持った一様な腫瘍細胞が列をなし索状に並び、その間にエオジン好性の繊細な線維が存在する部分がある。電子顕微鏡ではこの小形の腫瘍細胞は髄芽腫の腫瘍細胞とは異なり神経細胞への分化を示している。

3.b. Neurocytoma
 増殖能は低く、形態学的にもよく分化した神経細胞の特徴を示す小型の腫瘍細胞(small mature neural cell: neurocyte)で構成されている腫瘍である。現在まで報告されているものの多くは側脳室や第三脳室内などに発生したものであるが、脳室外、すなわち大脳半球、視床、橋や脊髄にも本腫瘍はみられる。我々がcerebral neurocytomaとして報告している腫瘍は、灰白質・白質を占拠し、肉眼的には境界鮮明で、組織学的には"oligodendrocyte"の瀰漫性増殖で特徴づけられ、その微細構造をみると小型の腫瘍細胞は短い突起内に多数の微細管、clear vesicleを持ち、細胞突起と腫瘍細胞間などにはsynapseがみられるなど神経細胞の特徴を示している(図5)。
 Neurocytomaを構成する細胞は小型で類円形であるが分化が進んでおり、顆粒細胞に類似する成熟した神経細胞である可能性がある。しかし、ganglioid cellのみを成熟した神経細胞と考えるのは、上述したようにいつも正しいわけではないが、neurocytomaを構成する腫瘍細胞はneuroblastomaの未熟な細胞からgangliocytomaの成熟したganglioid cellへの分化の途中の段階の細胞と考えている研究者もいる(図6)。

4.Ganglioid cellと小型神経細胞よりなる腫瘍
 上述した大きなganglioid cellと小型の神経細胞(neuroblast, neurocyte)から構成される腫瘍も存在する。

4.a. Ganglioneuroblastoma(神経節芽腫)
 特徴のない小型円形のneuroblastと大きな核を持つ成熟したganglioid cellからなる腫瘍である。一部の小型円形の腫瘍細胞が大型の成熟神経細胞に向かって分化しているneuroblastomaと考えられている。

4.b. Ganglioneurocytoma
 Gangliocytomaあるいはgangliogliomaと診断されている腫瘍を免疫組織学的にあるいは電子顕微鏡により観察すると、ganglioid cellのみでなくneurocytomaの腫瘍細胞に類似した成熟した小型神経細胞が存在することがある。上述したganglioneuroblastomaとは異なり、ganglioid cellと小型神経細胞はともに成熟しており、単一腫瘍内に2種類の異なった形態を示す成熟した腫瘍性神経細胞が存在していることが特徴である。

5.中枢神経の神経細胞系腫瘍の組織発生
 一般に腫瘍の発生を理解する場合、その腫瘍の発生母地となった組織を構成する細胞が生理的条件下で死滅と再生を繰り返しているものなのか、あるいは反応性に増殖しうるものであるのかどうかを考慮する必要がある。神経細胞は他の細胞とは異なり、一旦正常に発達を遂げ、成熟すれば死滅することはあっても分裂・増殖することはない。すなわち、成熟した神経細胞から直接腫瘍が発生することは考えにくく、通常の腫瘍発生とは別の発生過程を想定しなければならない。

5.a. 神経細胞系腫瘍を構成する細胞とその特徴
 神経細胞系腫瘍には、上述したように形態学的には2種類の成熟した腫瘍性神経細胞、すなわちganglioid cellとneurocyteよりなるものが存在し、また、免疫組織学的検討でも単一腫瘍内に2種類以上の神経ペプチドが存在することが明らかにされている。さらに、視床下部以外に原発した腫瘍のganglioid cellにも視床下部に多く存在する神経ペプチドが存在していたり、正常脳では脳幹の縫線核にしか存在しないserotoninが大脳半球のgangliogliomaでみられたとの報告もある。このように神経細胞系腫瘍、特にganglion cell tumorは通常の腫瘍とは異なり、polyclonalな性格を持っており、神経ペプチドの存在が示すように異所性に神経細胞が存在しており、これらの特徴は本腫瘍の過誤腫的性格の一端を示すものである。

5.b. 中枢神経の神経細胞系腫瘍の組織発生
 成熟した神経細胞はもはやcarcinogenesisのtargetではないが、未熟で分裂能を持つ細胞 neuroblast からであれば腫瘍は発生すると思われる。Neuroblastは胎生期に神経管の上皮細胞の分裂により産生され、外套層の最終位置に向かって移動し、成熟した神経細胞になったり、発生過程で死滅するものが多い。しかし、生後も分裂能を持ち続け残存するものがあることが知られている。例えば、脳室壁に沿って存在するsubependymal plateには成人期に至ってもある程度の分裂能を持ち、神経細胞にも分化しうる細胞が存在し、さらにここから様々な種類の腫瘍が発生する。神経細胞系腫瘍に関しても脳室壁と関連して発生することが多い。また、subependymal plate以外にもsecondary germinal layerが存在しており、また、神経組織のdysgenetic focusにもneuroblastが存在することが知られている。すなわち、中枢神経の神経細胞系腫瘍は脳室周囲などのsecondary germinal layer、あるいは神経組織のdysgenetic focusなどに存在するneuroblastがある時点で腫瘍化し、ときに分化の誤りを伴い、種々の成熟度をもって、すなわち腫瘍細胞が同時にいくつかの方向に向かって分化・成熟した結果、形成されるものが多いと考えられる。

6.おわりに
 神経細胞に由来する腫瘍は他の腫瘍とは臨床病理学的にのみではなく、その形成様式も異なる。本腫瘍の形態学的な拡がりと生物学的態度を解明することは、中枢神経腫瘍だけではなく、腫瘍の発生全般の理解にもつながるものと考えられる。

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【図の説明】
図1.正常の小脳.大きな核と豊かな胞体を持つ細胞も、小さな黒い核を持つ細胞もともに神経細胞である.
図2.小脳のganglioglioma.中央に大きな核と明瞭な核小体、リポフスチンを含む胞体を持つganglioid cellがみられる.
図3.脳室内のneurocytomaのMR像.
図4.図3の腫瘍の組織像.小型円形の腫瘍細胞から構成されている.電子顕微鏡でこれらの細胞は神経細胞の特徴を示すことが明らかにされている.
図5.小脳神経芽腫.この神経細胞系腫瘍も小型円形細胞からなる.
図6.Cerebral neurocytomaの微細構造.細胞突起内の微細管、dense-core vesicle、シナプスなどが特徴的である.


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