第11回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

電子顕微鏡連続切片再構築法による
脳局所回路シナプス結合の免疫細胞化学的形態解析

九州大学医学部解剖学第三講座   樋田 一徳

要旨: 従来より我々は、嗅覚の一次中枢である嗅球を脳局所回路のモデルとして、そのシナプス構成(Synaptic Organization)について電子顕微鏡連続切片再構築法を用いて解析を進めてきた。
 中枢神経系ニューロンの三次元構造は広範かつ複雑であり、そのシナプス構成を解析するには、光学顕微鏡による全体像と電子顕微鏡によるシナプス結合像を明確に対応させることが不可欠である。そのためにまず、嗅球各種ニューロン群を共焦点レーザー顕微鏡により形態的および化学的性質を免疫細胞化学的に明らかにし、それらをそのまま電子顕微鏡連続切片再構築法によりそのシナプス結合を詳細に解析した。更に包埋後免疫細胞化学法(金コロイド標識法)によりシナプス結合をする特定の神経要素について検討を加えた。
 こうして、電子顕微鏡連続切片再構築法を中心とした各種の形態的手法を組み合わせることにより、従来信じられてきた以上に複雑な局所回路の存在が明らかになりつつある。今回は、現在までの我々の解析結果を紹介したい。

1.はじめに
 今世紀初頭、スペインの神経学者ラモニ・カハールは、脳をはじめとする全ての神経系はニューロンという独立した神経細胞の相互の結合によって構成され機能していることを提唱した。このニューロン説はその後電子顕微鏡(電顕)と生理学的手法によって確認され、今日の遺伝子レベルから行動レベルまでの脳研究の基礎となっている。このニューロン間の結合は特にシナプスと呼ばれ、ここで各種物質による化学的・電気的な興奮や抑制あるいは修飾が起こり、ニューロン間の情報伝達の場として注目されている。そして、百数十億とも数百億ともいわれる無数のニューロンが複雑多様に、しかし選択的に相互にシナプス結合することにより脳神経回路網が形成され、ヒトをはじめとする各種動物の脳機能に寄与している。
 我々はこれまで嗅覚の一次中枢の嗅球をシナプス結合による脳の形態的・機能的構成(シナプス構成:Synaptic Organization)のモデルとして嗅球ニューロンの形態解析を進めてきた。その理由は、他の脳領域に比べ単純で明確な層構造でニューロン種が比較的少数であることから、単純な局所回路の存在が示唆される一方、近年の免疫細胞化学的研究で、極めて多種多様な神経活性物質および標識となる化学物質が嗅覚に存在することが判り、単純な神経回路によって多様な嗅覚情報処理がなされていることが示唆され、複雑な脳の神経回路網の基本的構造の解明に嗅球は魅力的なモデルの一つと考えられるからである。
 なおシナプスの同定は、現時点において電顕以外に確実な証明法はない。一方、電顕による解析は、その限られた観察領域のため、光顕で同定したニューロンの複雑な全体像のどの部分を解析しているのかを電顕観察下で知るのはしばしば困難となる。そこで我々は、免疫細胞化学法により化学的・形態的性質を光顕で同定した嗅球ニューロンを電顕連続切片再構築法によりそのシナプス結合を直接解析することを計画した。
 今回、我々がこれまで進めてきたラット嗅球ニューロンのシナプス結合について、特に共焦点レーザー顕微鏡と電顕連続切片再構築法を組み合わせた、現時点までの解析結果と、併せて脳局所回路解析における電子顕微鏡の有用性について紹介したい。

2.嗅球ニューロンのシナプス構成の定説
 これまでの定説では、匂い刺激を受けた嗅受容細胞(嗅球への入力)が嗅球・糸球体で投射ニューロン(嗅球からの出力:Mitral/Tufted Cell)にシナプス結合し、この投射ニューロンは高次中枢(二次中枢:嗅皮質)へ軸策を投射する。この間投射ニューロンは、嗅球・糸球体層で傍糸球体細胞に、また外網状層では顆粒細胞といった、共にGABA系介在ニューロンとの間で特徴的な樹状突起間の相反性シナプス(dendro-dendritic reciprocal synapse)を形成し、高次中枢へ投射する匂い情報の修飾が行なわれる(図1)。

3.外網状層ニューロンのシナプス結合:Parvalbumin含有ニューロン
 嗅球の各種ニューロンの形態は、主にゴルジ(鍍銀)法や色素注入法により明らかにされてきた。そしてそれぞれのニューロンの存在領域、細胞体の大きさ、主に樹状突起の形態といった光顕上の特徴を電顕観察下で類推して対応させ、各種ニューロンのシナプス結合が報告されてきた。しかし、ゴルジ法などでその存在は判ってもシナプス結合について明らかにされていないニューロンも数多い。
 前述のように嗅球・外網状層では、顆粒細胞(顆粒細胞層に細胞体が存在し特徴的な棘状突起:Gemuleを持つ樹状突起を外網状層に伸ばすGABA系介在ニューロン)が投射ニューロンとの間で特徴的な樹状突起間の相反性シナプスを形成する(図1)。しかし外網状層に細胞体と突起の局在する介在ニューロン群のシナプス結合についてはこれまで全く明らかにされていない。
 カルシウム蛋白の1つで、脳内GABA系ニューロンの機能的サブポピュレーションの化学的マーカーとして最近注目されているParvalbuminを含有するニューロン(PVニューロン)は、実はこの外網状層に局在し、同時にGABA免疫陽性を呈する介在ニューロンである(図2A、B)。その形態は実に多様性に富み、従来ゴルジ法等で報告されてきた、Multipolar cell、Short Axon Cell、Van Gehuten Cell、などの形態に対応するなど様々である(Kosaka K., et al., 1994)。ではこのように同じ化学的性質を持ちながら異なった形態のニューロン群のシナプス結合は、果たして形態により異なるのか?それとも同じシナプス結合をするのであろうか?
 この答えのために、また同領域にある顆粒細胞の突起と明確に識別するために、我々はまず、免疫染色したPVニューロンを顕微鏡カメラ描画装置にて詳細にスケッチして個々の形態を同定した後(図2C)、それぞれ異なる形態のPVニューロンを電顕用に連続再薄切し、その再構築像を光顕カメラ描画像と明確に対応させた上で、個々のニューロンのシナプス結合の定量解析を行なった。その結果、それぞれ特徴的な形態を示すPVニューロン(Multipolar Cell、Short Axon Cell、Van Gehuten Cell)はすべて同じ傾向のシナプス結合をすることが明らかとなった(図3)。すなわち、これまでこの領域(外網状層)において投射ニューロンと相反的シナプス結合をするのは顆粒細胞であると信じられてきたのが(上述)、それ以外のPVニューロンも投射ニューロンと相反的シナプス結合すること(図3C-F)、PVニューロンの投射ニューロンとのシナプス結合の割合は顆粒細胞を含むPVニューロン以外の神経要素と投射ニューロンとのシナプス結合の約1/10であることが明らかとなった(Toida K., et al., 1994, 1996)。
 PVニューロンは、他の脳領域、特に海馬等では、特徴的な生理学的特性(Fast Spiking)や構造的特徴(Gap Junction)を示すことが報告されており(Kawaguchi Y., et al., 1987)、PVニューロンの嗅球における特異的な役割の可能性も示唆される。
 
4.糸球体層ニューロンのシナプス結合
 近年の分子細胞生物学的解析では、特定の匂い物質に対して特定の嗅球・糸球体が反応することが判り、嗅覚情報処理における機能単位としての糸球体に関心が向けられている。上述のように、従来の定説では、嗅球・糸球体層の糸球体近傍介在ニューロン群(Periglomerular Cells: PGニューロン)は嗅受容細胞(嗅球への入力)からシナプスを受け、同時に投射ニューロン(嗅球からの出力)との間に相反的シナプス結合するGABA系ニューロンと信じられている(図1)。しかし最近我々は、糸球体近傍の介在ニューロン群には、GABAおよびカルシウム結合蛋白Calbindin、Calretininを各々含有する少なくとも3つのかなり独立した化学的サブポピュレーションが存在することを報告した(図6)(Kosaka K., et al., 1995)。従来の定説からすればPGニューロン郡にGABA系以外のニューロン群の存在することは驚くべきことである。同時に、共焦点レーザー顕微鏡による免疫多重染色標本の観察から、嗅受容細胞終末とこれら介在ニューロン群樹状突起との三次元的位置関係(近接の度合い)にかなりの多様性があることが明らかとなり(Kosaka K., et al., 1997)、PGニューロン群は従来信じられてきた以上に、化学的性質同様にシナプス結合の側面からも多様性に富むニューロンであることが推測される。
 そこで現在、我々がその存在を明らかにした、GABA系以外のPGニューロン群のシナプス結合に焦点を絞りその解析を行なっている。以下これまでに得られた解析結果を紹介する。

4.1. Calbindin含有ニューロンのシナプス結合
 カルシウム蛋白の1つCalbindinを含有するニューロン(CBニューロン)は、嗅球では傍糸球体(PC)介在ニューロンの一部に局在している(図7)。免疫多重染色法により、CBはGABAとはほとんど共存せず、GABAニューロンとは独立した化学的サブポピュレーションのPGニューロン群であり、また我々のDisector法(バイアスのかからない立体学的定量解析)による解析によってその数はGABAニューロン群のほぼ1/2であること(Kosaka K., et al., 1995)、更に共焦点レーザー顕微鏡による三次元定量解析によって、CBニューロンは、古典的には典型的なPGニューロンの形態を示し(図8)、また嗅受容細胞のマーカー(Olfactory Marker Protein)との近接度がGABAニューロン群に比べ低い(約1/30)ことが明らかにされている(図6)(Kosaka K., et al., 1997)。このことは、糸球体内でCBニューロンが嗅受容細胞(入力)と離れたところに存在・分布していることを示し、同時に両者のシナプス結合の頻度も低いことが推測される。
 CBニューロンのこのような所見は、これまでの定説(PGニューロンは嗅受容細胞からシナプスを受け、同時に投射ニューロンとの間に相反的シナプス結合をするGABA系ニューロン)に合致しないことが考えられる。この真偽を確かめるために我々は、共焦点レーザー顕微鏡で化学的・三次元形態的に同定したCBニューロンを、電顕連続切片再構築法にてそのシナプス結合を直接解析することを試みた。
 CBニューロンは、主に投射ニューロンから非対称性シナプスを受け、逆に対称性シナプスを送り、典型的な相反性シナプスを形成する(図9)。一方、多くの非定形型シナプス小胞を含む神経要素から対称性シナプスを受けていることが判った(図10)。この神経要素については、包埋前および金コロイド標識を用いた包埋後免疫二重染色法により、GABA免疫陽性であることが明らかとなった。また三次元再構築像から、CBニューロンは主に投射ニューロンの径の比較的大きい部分、すなわち樹状突起近位部分とシナプス結合していることも考えられる。一方、電顕連続切片再構築法およびランダムな切片観察によって、CBニューロンは嗅受容細胞とは(一例の例外を除いて)ほとんどシナプス結合しないことが明らかとなった(図9)(Toida K., et al., 1998)。これは共焦点レーザー顕微鏡による解析に合致している。
 このようなCBニューロン、すなわち投射ニューロン(出力)とは相反性シナプスを含むシナプス結合はするものの嗅受容細胞(入力)からはシナプスを受けず、GABAニューロンよりシナプスを受けるPGニューロンの存在は、PGニューロンのこれまでの定説(前述)にない新たな知見であり、光顕像と電顕像を確実に対応させた三次元形態解析によりはじめて解析可能となったものといえる。
 なお同時に解析したGABAニューロンは、嗅受容細胞と離れて存在するものから近接してシナプス結合を受けるものなど様々な切片象が観察された(Toida K., et al., 1998)。

4.2. Tyrosine Hydroxylase含有ニューロン
 ドーパミン合成酵素のTyrosine Hydroxylaseを含有するニューロン(THニューロン)もまた嗅球では糸球体層に局在している。その大部分はCBニューロンとは異なるPGニューロンの形態を示すが(図11)、ごく一部に大型の細胞も観察され投射ニューロンの亜型(External Tufted Cell)に相当すると考えられている。THニューロンの80%以上はGABA陽性であり(一方GABAニューロンの約半数がTH免疫陽性)、その数はCBニューロンよりやや多くまたGABAニューロンのほぼ60%ほどである。CBとの共存は見られずCBニューロンとは独立した化学的サブポピュレーションのPGニューロン群と考えられる(図6)(Kosaka K., et al., 1995)。また嗅受容細胞との近接度はGABAニューロンとほぼ同様でCBニューロンの約30倍である(Kosaka K., et al., 1997)。以上の事柄がこれまでの我々の共焦点レーザー顕微鏡による定量解析で明らかになっている。
 この様に前述のCBニューロンとは対照的な光顕上の化学的・形態的特徴をもつTHニューロンは、はたしてシナプス結合もCBニューロンとは対照的であるのか?を明らかにするため、現在解析を進めており、現時点までに得られた観察結果を紹介したい。
まず、THニューロンのシナプスの特徴として、THニューロンが受ける(シナプス後部位 Postsynaptic Siteとしての)シナプスの約80%は嗅受容細胞からの非対称性シナプスであり、残りは投射ニューロンからの非対称性シナプスとGABA免疫陽性ニューロンからの対称性シナプスであった。一方THニューロンが形成する(シナプス前部位 Presynaptic Siteとしての)シナプスはシナプス後部位の約15%と少数で、ほとんどが投射ニューロンとの比較的細い部位(樹状突起遠位部分)への対称性シナプスである。前述のPVおよびCBニューロンのような典型的な相反性シナプスの形成は今のところ観察されていない(図12)。
 このようにTHニューロンは、CBニューロンとは対照的に嗅受容細胞からシナプスを高頻度に受けること、そしてCBニューロンは投射ニューロンの近位部分にシナプス結合していることなど、シナプス結合の面からもTHニューロンとCBニューロンは対照的な性質を持つPGニューロンのサブポピュレーションであることが明らかとなった。
 さらに、THおよびCBニューロンといった対照的なニューロンが投射ニューロン樹状突起上で実際どのように分布しているかを確認するために、我々は、色素注入した投射ニューロン(FITC)、およびTH(Texas Red)、CB(Cy5)の免疫多重染色標本を連続切片構築法でそのシナプス結合の解析を進めた。あらかじめ解析・記録した共焦点レーザー顕微鏡(図11)をガイドに、色素注入投射ニューロンをまず再構築し(図12)、そこにTHニューロン要素(DAB発色)とのシナプス結合(図13)、CBニューロン要素(共焦点レーザー顕微鏡を対応させ同定)とのシナプス結合、そして嗅受容細胞終末(電顕・細胞学的に同定)からのシナプス結合を同定・記入した。すると、CBニューロンは色素注入投射ニューロン樹状突起の近位部分、嗅受容細胞終末とTHニューロン(少数)は遠位部分に主に分布していることがわかり、これら異種の神経要素からのシナプスは投射ニューロン上で特徴的に分布(Synaptic Segregation)していることが初めて判った(図11-13)。
 これまで観察したTHニューロンは、主要な部分を占めるGABA免疫陽性PGニューロンの糸球体内のシナプス結合についてであったが、それ以外にもGABA免疫陰性ニューロン、あるいは大型のTHニューロンについては未解析であり、また糸球体外の細胞層(糸球体層の傍糸球体領域)にもシナプス結合が多く見られ、これらについて現在解析を進めている。

5.まとめ
 以上これまでの我々の解析結果を、従来の嗅球シナプス構成の定説の中に記入し図にまとめてみた(図14)。単純な神経局所回路を持つと信じられてきた嗅球は、形態的、化学的そしてシナプス結合的に、想像以上に多様性に富むニューロンによって構成されていることが判った(Kosaka K., et al., 1998)。これは、従来のゴルジ法、色素注入法、電顕、免疫細胞化学といった一連の研究方法がそれぞれ独立した解析に留まり、個々の結果の関連性も推測の域を超えなかったことに起因すると考えられ、これらの研究法を統合的に用いた解析を行わない限り、嗅球のシナプス構成の従来の諸定説は全く不確実な所見に基づいていると考えざるを得ない。今日、分子レベルでの解析が進む一方、これら匂い分子がどのような経路で情報処理されるかという基本的機序について、これまでの不確実な所見に基づく定説で説明できるのか疑問である。
 本研究は、古典的な形態学的解説と電顕レベルの解析、そして化学的性質という別の情報を得ることのできる免疫細胞化学的解析との間にある大きなギャップを埋めようとするものである。化学的性質を明らかにしたニューロンを光顕レベルでの最高の解像度で三次元的構造解析が可能な共焦点レーザー顕微鏡像と、シナプス結合を証明しうる電顕像を直接対応できるのは、この電顕連続切片再構築法によるシナプスの定量的解析以外確実な方法はない。このような視点から、嗅球局所回路構成ニューロン群とそのシナプス結合を化学的性質と形態的特徴を明確に対応させた上で根本的に見直し、従来信じられてきたシナプス構成の諸定説を再検討して、嗅球局所回路ニューロンの三次元的シナプス構成の全体像の解明のために確かな形態学的基礎を築くことが、我々の研究の主な目的であり、現在解析を進めている。

 本研究は、九州大学医学部解剖学第三講座(大学院医学系研究科機能制御医学専攻神経形態学講座)・小坂俊夫教授、同講座・秋鹿祐輔講師、ならびに小坂克子講師との共同研究である。

<参考文献>
Kawaguchi, Y., Katsumura, H., Kosaka, T., Heizmann, C.W., Hama, K.;  Brain Research, 416: 367-374, 1987.
Kosaka, K., Heizmann, C.W., Kosaka, T.; Experimental Brain Research, 99: 191-204, 1994.
Kosaka, K., Aika, Y., Toida, K., et al.; Neuroscience Research, 23: 73-88, 1995.
Kosaka, K., Toida, K., Margolis, F.L., Kosaka, T.; Neuroscience, 76: 775-786 1997.
Kosaka, K., Toida, K., Aika, Y., Kosaka, T.; Neuroscience Research, 30: 101-110, 1998.
Toida, K., Kosaka, K., Heizmann, C.W., Kosaka, T.; Neuroscience, 72: 449-466, 1996.
Toida, K., Kosaka, K., Heizmann, C.W., Kosaka, T.; J. Comparative Neurology, 392: 179-198, 1998.