第4回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

成長と老化に伴う結合織線維構築の変化

九州大学医学部病院皮膚科学教室  今山 修平

 皮膚は動物の姿・形を最終的に決定する組織である。例えば人形を作る場合、先ず割り箸で骨格を与え、その上に粘土で筋肉を置く。それらを包むように一様な厚さの綿を充て、その上から、細い糸を隙間なく丁寧に巻きつけて綿を押えつけ、人形の輪郭を整ることになろう。最後に表面に布か紙を張り付けて仕上げるが、綿が皮下脂肪、巻いた糸が真皮の結合組織、紙が表皮に相当する。細い糸を強く張りながら巻き付ければ引き締まった輪郭を出すことができるように、糸の巻き具合によって人形の最終的な容姿が決まる。すなわち、人を含めて動物の姿を最終的に整えるのが真皮結合組織の線維の配列であろうことが分る。
 ところで、皮膚では一定の緊張を保って内部諸臓器を閉じ込める反面で、ある範囲内で内部の動きに応じて柔軟に伸縮する必要があり、こうした性質は、巻き付けた糸そのものの性質の違い、すなわち、引っ張りに抵抗するのは膠原線維、伸縮は弾力線維の性質によると考えられてきた。事実、この二つの異った性質によって皮膚の性状がかなり説明されるので、これらの線維成分の変化や変性が皮膚老化(皺や弛み)の原因であろうと考えられたのは当然で、近年の分離精製技術の進歩や分子生物学の発展と相俟って、膠原線維と弾力線維は勿論、細胞間基質、線維芽細胞等が分離されて比較検討された。その結果、老齢の動物から分離した成分の何れもが若い組織のものと大して違わないこと、言い換えれば成人期間を通して個々の成分は余り変化しないことが明らかになった。
 若い人の肌が体にぴったりと馴染んで“張り”があり、一方で“弛み”や“皺”は老兆の代表であるにも拘わらず、これらの変化に見合う変化が検出されず、為にこれらの発症機序を上手に説明できないできたのは、以上に述べたように研究が先鋭化していて、広がりや面としての、容姿の観点からの皮膚理解が充分でないことにも原因があるように思われる。ここでは真皮結合組織の線維構築を立体的かつ経時的に観察することによって、成長と老化に伴って起こる皮膚現象を説明する。組織が主に線維によって構成される場合、個々の成分は勿論であるが、その線維の立体的な構築は組織全体の振舞いに重要な役割を果たす筈である。
 

《成長に伴う結合組織変化》

 生直後の結合組織では弾力線維は割合に規則正しく、網目状に配列されている。正確に言えば、個々の弾力線維はほぼ平行に真直ぐに走行するが、それが互い違いに重なっているため、一見網目を成すように見える。もう一方の線維である膠原線維は成熟組織に比較して疎らで、ラセン状、或いは波を打ったような細い束として一見不規則に配列されている。このように生下時に膠原線維の発達が悪いのは、子宮内にあった間は皮膚を含めて体全体が羊水によって周囲から支えられていたため、皮膚にかかる負荷が非常に軽かったことに由来すると思われる。
 生後、成長に伴って体積が増すにつれ、体を取り巻く結合組織の線維構築にはダイナミックな変化が起る。始めはコイル状であった膠原線維は、組織の伸展に伴って引き伸ばされ、それと同時に次第に太くなる。こうして成長が完了する頃には、張力の方向に略平行に並んだ、真直ぐの太い線維束になるが、皮膚の多くの領域では張力はおよそ直角の異なった2方向に働くことから、膠原線維束は一般に縦横の格子模様を呈することになる。こうして体周囲の結合組織は、生長を経ることにより初めて、必要な強度を持つようになり、これ以後(成長の完了した後)は膠原線維の格子模様が結合組織の骨格になり、組織は一定以上伸び難くなる。ところで成長が終わる時に丁度コイルが伸び切るということは、コイル状の時から長さが決まっているということで、すなわち、生下時には既に成長の到達点が決まっていることを暗示している。
 一方、弾力線維はゴムのように、引っ張られた分だけ伸び、網目を拡大させていくことによって成長に伴う体表の拡大に対応する。相似形を保って拡張する網目を提供することによって、組織内の空間の相対的な位置関係を保ったまま、結合組織の大きさを増大させることが可能になる。
 ところが成長が進んで膠原線維束が組織の大部分を占めるようになると、弾力線維の網目構築にも遂には影響が及ぶ。即ち、太く真直ぐになった膠原線維束によって、弾力線維は次第にあちらこちらへ押しやられ、元の、規則的であった網目の配列が乱され始める。一方で、押しやられて曲ったとはいえ、弾力線維には、真直ぐで短かった、以前の状態に戻ろうとする収縮力が強く働いているから、それに依るところの組織の収縮性は最も高い状態にある。
 言い換えると、動物の体を包む結合組織は、成長によって引き伸ばされ、それに応じて線維構築の三次元的な変化を遂げたものの、元の小さかった頃の状態に戻ろうとする力がなお強く働いているから、体をきつく包み込むことになり、パーンと張っている上にピッタリと体にフィットした肌として表現されるであろう。これが若い人の肌の特徴である。以上のように、成長期間にはダイナミックな線維の再構築が起きており、それを経過することによって初めて、皮膚の結合組織は生体にとつて理想的な支持組織として完成される。
 

《老化に伴う結合組織の変化》

1 :弛みの発生
 成長が完了した後には基本的に体の大きさは変化しないため結合組織線維の立体構築にも基本的な変化はない。今や組織の大部分を占める膠原線維束は、格子状の配列を維持し、一方の弾力線維は押し曲げられた姿勢をとり続けることになるが、この、押し曲げられた弾力線維は成人の長い期間を通して、徐々に曲ったままの状態で固定されるようになっていく。こうして老齢の組織では、弾力線維の網目は無秩序に湾曲した線維で構成されるようになる。
 周知のように、あらゆる成分は常に代謝されていて、陳旧部は除去され新しい成分で置き換えられる。この機構は生体を維持するための機序であろうと考えられるが、成長した後の弾力線維に対しては、一見逆説的であるが、この生体維持機構が線維構築を変形させる。
 生下時には規則正しく配列していた弾力線維が成長に伴って伸展され、遂には、膠原線維によって不規則に湾曲することは示した。このように変形したとはいえ、成長期間中の弾力線維は、元の、短く直線的な状態に戻ろうとする力が常に強く働いていて、この力により結合組織が収縮し身体に密着していた。ところが、成長に伴う変形の後に、代謝によって、弾力線維の旧い成分が取り除かれるということは、以前の分子配列の状態が失われることであり、従って線維が元の形に復元しようとする力を失うことである。こうして、弾力線維は以前の短かった状態に戻ろうとする力を失い、次第に緊張を失っていく。緊張を失った弾力線維は、益々膠原線維束によって曲げられていく。
 他方、新しく合成された分子は既存の分子配列に沿って沈着することが知られている。今や弾力線維は不規則に湾曲しているから、新たに合成された分子は、今の曲った状態の線維の配列に沿って沈着してゆき、結局、曲った状態を補強することになる。老人の弾力線維について崩壊と新生という相反する報告が混在するのは、事実、その両者が同時に進行しており、こうして弾力線維は成人の期間を通じて徐々に、しかし着実に以前の短かく真直ぐの状態への復元力を失い、逆に曲った状態で安定し、遂には曲がった状態から戻らなくなる。この状態は弾力線維が組織の中で波を打っているようなもので、組織の長さより弾力線維の方が長く、到底組織を収縮させることはできない。すなわち、皮膚を体に引き寄せる力を失うことになり、こうして皮膚は自らの重さで重力に引かれて内部臓器から離れて“弛む”ことになると思われる。

2 :皺の発生
 弾力線維が湾曲して安定し、そのために皮膚を体に密着できなくなると、代償性に新たな弾力線維の網が形成される。ところが、成長の終った後ではもはや機能的に弾力線維を配列することが出来ない。すなわち、新たに伸びて行く弾力線維は、既に組織の大部分を占領している膠原線維束にぶつかっては迂回し、又ぶつかっては迂回するという行程を繰り返すことになり、結局は曲がりくねった、あるいは塊状の不規則な弾力線維を作るだけのことになってしまう。成長の始めの頃に生体が持っていた、直線的で整然とした網目模様は膠原線維の発達していなかったからこそ可能であった訳で、それを成人になって再構築することはもはや不可能になっている。これと同じような、機能しない弾力線維の再構築は肺の閉塞性疾患、例えば慢性気管支喘息などでも観察される。こ うして作られた、新たな弾力線維の網目は、膠原線維束を何度も迂回していることから、結局は膠原線維束と絡み合うことになり、こうして異った二つの線維系(膠原線維と弾力線維)の独立が遂に損なわれてしまう。
 そもそも、膠原線維は皮膚を一定の長さに保ち、内側の諸臓器を閉じ込めて姿、形を整えるものであるから、内部臓器の動きに対しては格子模様が互いにズレあうことによって動きを吸収する。一方の弾力線維は、こうしたズレを安定した状態に復帰させるためのバネあるいいはゴムのような線維系で、この二つの線維系が独立して滑らかに動きあうことによって組織の柔軟性、あるいいはしなやかさが保証されていた。その二つが互いに絡み合い、そのために独立して機能できなくなると、内側の臓器の動きに対してズレ難く、また一度ズレると元に戻り難くなる。動きに伴って生じた結合組織内線維の空間的な歪みは、以前は皮膚の広い範囲に拡散されることにより吸収されていたが、ズレ難くなってしまった現在では、歪みが一定の大きさになる度に構築を破壊して吸収されることになり、“皺”として表現されることになると考えられる。
 

《生化学データと形態のギャップの説明》

 個々の線維成分の分析結果が成人の期間を通して殆ど変化しないのも今では容易に納得されよう。この期間には組織維持のための崩壊・新生がおよそ恒常状態で進行しているわけで、見かけの収支が略ゼロか僅かにマイナス位になると思われる。こうして、余り変化しないデータの陰で、三次元構築は徐々に、しかし着実に変化し、結果、組織全体の振舞いが変化していくことになる。
 逆に、生化学のデータが成長期間に著しく変化することは形態の変化に良く一致している。すなわち、線維の産生量が生後急速に上昇するのは、急速に太くなる膠原線維束の反映であり、また、この頃の膠原線維に可溶性成分が多く、線維同士を結ぶ結合が緩いのも、膠原線維束がコイルから直線へと変化するのには好都合であろうと思われる。
 我々が普段、老化と呼んでいる現象は、実は成長によってもたらされたダイナミックな線維構築の変化に自らが馴染んでゆく過程であるし、成長とは、皮膚が内部臓器を包む強靭な組織になってゆく過程であるという一連の流れとして理解される。