第5回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

マラリア研究とアメリカの電顕事情

九州大学解剖学第一講座   中村 桂一郎

 アメリカ合衆国では、NIHおよび軍関係の施設を中心に大小規模の大学・研究所で数多くの研究者が精力的にマラリア研究に携わっています。
 Plasmodium原虫により引き起こされるマラリアという感染症は、日本はもとよりアメリカを初めとする先進国では、極稀に旅行者マラリアや輸入マラリアとしての症例がみられるだけですが、地球規模でみると熱帯地方を中心に年間1?2億人の患者があり、毎年100万人以上の死亡が報告されています。マラリア感染治療の発達した現在、AIDSを除けば唯一未克服の感染症といっても過言ではないでしょう。
 現在のマラリア研究の最も重要な課題はワクチンの開発にあります。今日の医学生物学研究においては細胞生物学、分子生物学が隆盛を極めていますが、マラリア研究も例に洩れず、マラリア原虫の培養、また原虫に由来する抗原分子の検索、そしてDNA、RNAの遺伝情報を利用した解析が盛んに報告されています。そういった一連の研究の中で、ワクチンの標的となる分子の原虫内での存在部位や動態を知ることはとても重要な課題です。この目的には形態学的な証明、すなわち電子顕微鏡を用いた免疫細胞学的手法が最も有効な手段となります。また、マラリア原虫の複雑なライフサイクルを反映して、第一宿主となるカの中腸からの感染機構の解析なども積極的に研究されていますが、ここでも電子顕微鏡は説得力のある手段となります。
 私はオハイオ州クリーブランド市にあるCase Western Reserve University  相川研究室において研究に従事する機会を得ました。この研究室はWHOのマラリア形態学研究センターにも指定されており、電顕を用いたマラリアの形態学的研究の中心機関として機能しております。そこでの経験をもとにマラリア研究における電顕の役割およびその現状について報告し、あわせて、同大学の他の研究室での電子顕微鏡利用の様子を紹介させていただきます。