第6回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

分析電子顕微鏡で何が分析できるか?

九州大学工学部材料工学科  堀田 善治

要旨: 組織観察、元素分析、結晶構造解析とすべて一度にやってしまおうとするのが分析電子顕微鏡の特徴である。また、ビーム径を小さく絞れるので元素分析は極微小領域で可能である。本研究会では、このような特徴を備える分析電子顕微鏡でいったい何が分析でき、どのようにして材料解析に利用できるのか、分析の空間分解能、分析可能な元素、分析の定量性というそれぞれの観点から概説する。
 

1.分析の空間分解能

 現在市販されている最新の分析電顕は直径約1nmまでビームが絞れる状態にある。分析電顕では透過電顕用の薄膜試料を使うため、バルク試料を用いた走査電顕での分析法(EPMA法)と比較して散乱によるビームの広がりは小さく、空間分解能は高く保持される。しかし、分析領域が原子番号の大きい重元素からなる場合は軽元素からなる場合に比べてかなり大きくなる。例えば、アルミニウム(原子番号13)と金(原子番号79)の対照的な試料におけるビーム広がりをGoldsteinらの式(1)より推定すると、直径1nmのビームは膜厚50nmでそれぞれ、2.5nmと9.7nmになる。
 九州大学超高圧電子顕微鏡室の分析電顕(JEM-2000FX)は約10nmまでビームを絞ることができる。現在到達可能なビーム径に比べれば一桁大きいが、このような分析電顕を使って微細粒子を同定した一例を紹介する。
 図1は、Ni-17.6at%Al-16.7at%Mo合金を一方向に凝固し、凝固方向から分析電顕で観察した組織写真である。この合金はタービン翼などの高温材料として注目されたものである。図1(a)の正方形や長方形の部分は金属組織学的にα相と呼ばれ、凝固方向に連続した繊維状となっている。図2(a)はこのようなα相から得たX線スペクトルで、ほとんどMoからできていることが分かる。図1(b)はα相を拡大したものであるが、円、楕円、針状の微細粒子が観察される。Aの横にある針状粒子にできるだけビームを絞り込んで得られたスペクトルを図2(b)に示す。図2(a)と比べNiやAlの特性X線が著しく増えていることが分かる。開設パターンと併せて解析すると、この微細粒子はα相周辺の相と同一のものであることが分かった。
 

2.分析可能な元素

 どのような元素が分析できるかは、電子顕微鏡本体よりもX線検出器の性能に依存する。分析電顕に取り付けられたX線検出器は多数の元素が同時に検出できるエネルギー分散型がほとんどである。X線は検出器の外枠に設けられた窓を通して器内に取り込まれ、半導体で電気的信号に変換されて検出される。このとき窓の厚さと材質で検出可能な元素が決まる。厚さ7.5μmのBe窓の検出器(Be型)ではNaまでの軽元素が検出可能で、厚さ0.3μmの有機膜を窓にした超薄窓型検出器(UTW型)ではCまでの軽元素が検出できる。窓を完全に取り払った窓なし型の検出器(WL型)ではBまでの軽元素が検出可能である。なお、Be型検出器とUTW型検出器の特徴と違いについては「九州大学超高圧電顕室研究報告(1993年)」(2)で解説したので参照されたい。
 図3にCaCO3(カルサイト)から得たX線スペクトルを示す。(a)はBe型検出器を用いた場合、(b)はUTW型検出器を用いた場合である。UTW型ではC元素とO元素のピークが明瞭に観察されるが、Be型ではCa元素以外にピークは見られない。なお、両検出器で得たスペクトルともにCu元素のピークが検出されるが、これはCaCO3の粉末試料を保持するためにCuメッシュを使ったことによる。
 ところで、原子番号が大きい重元素のX線は透過性が良いため検出器の窓による吸収は全く無視できる。しかし、半導体中にも吸収なしで透過するようになり、電気的信号への変換効率が低下し、逆に検出されにくくなる。目下、U(原子番号92)までの重元素は検出可能である。
 

3.定性分析

 分析領域にどのような元素が含まれているかは、検出される特性X線のピークから容易に知られる。ただし、微量しか含まれていない場合や、軽元素からの特性X線のような試料中での吸収が大きい場合は、ノイズ信号に埋もれてしまい検出不能になることがある。また、特性X線のピークが極めて接近している場合は、お互いにピークが重なり合って含有元素の区別ができなくなることがある。たとえば、図3のスペクトルでは、C元素のKα線とCa元素のLα線のピークが重なり合って区別がつかなくなっている。
 

4.定量分析

 分析領域にどのくらい元素が含まれているか定量的に知るには、特性X線の発生量を正しく濃度に変換するすることが必要となる。通常は比例法(3)とよばれる方法で特性X線の強度比を濃度比に換算する。このときの比例定数(k因子)は理論式(1)に従って容易に計算できるが、精度を上げるには濃度既知の標準試料を準備し、特性X線強度を測定してk因子を決める(3)。分析箇所には多数の元素が含まれていたり、元素数がわずかでも元素の組合せによっては標準試料の入手が困難なことがある。k因子をいかなる元素に対しても精度よく迅速に決定できるようにすることは今後の重要課題となる。
 定量分析を行う上でもう一つ重要なことは試料による特性X線の吸収を補正することである。特に軽元素からの特性X線は吸収されやすいので吸収補正が重要となる。吸収補正はGolgsteinらの補正式(1)に分析箇所の膜厚、密度、質量吸収係数などを代入して行う。このときに問題になるのは、分析箇所の膜厚をどうやって求めるかである。いくつか測定方法はあるが、精度良くかつ迅速に求めようとすると分析以上の大仕事になる。著者らは膜厚を測定せずに吸収補正ができる外挿法(4)やX線吸収差法(5)を提案してきた。一部は昨年の第5回技術者研究会で京セラ(株)の渡会氏によって紹介された(6)。著者らも別の箇所で解説したので(7)、その説明は省略することにする。ここでは、このような吸収補正法を適用した一例を紹介する。
 図4(a)はNi/Ni3Al拡散対接合界面近傍の濃度勾配を測定したもである(8)。試料中ではAl・Kα線の吸収が大きいので補正が必要となる。分析箇所の膜厚測定と吸収補正はX線吸収差法で、k因子決定時の吸収補正は外挿法で行った。図4(a)中の○は吸収補正しなかった場合で、●は吸収補正を行ったときの濃度勾配である。吸収補正をしないと正しい濃度レベルが得られず、正確な拡散係数は求まらない。図4(b)にはX線吸収差法で求めた角分析箇所の膜厚を示す。このように分析電顕を利用することによりわずか約7μmの距離で全濃度勾配が測定可能になっている。このような濃度勾配は空間分解能約1μmのEPMA法ではほとんど測定不可能に近い範囲にある。さらに低温度で濃度勾配を決定するには分析電顕が不可欠であることが明らかとなる。
 

参考文献

1. J.I.Goldstein, J.L.Costley, G.W.Lorimer and S.J.B.Reed, Scanning Electron Microscopy/1977 (edited by O.Johari), Vol.1, p.315. IIT Res. Inst., Chicago, I11 (1977).
2. 堀田善治、九州大学超高圧電顕室研究報告、No.17、p.3 (1993).
3. G.Cliff and G.W.Lorimer, J.Microsc., 103; 203 (1975).
4. Z.Horita, T.Sano and M.Nemoto, Ultramicroscopy, 21; 271 (1987).
5. Z.Horita, K.Ichitani, T.Sano and M.Nemoto, Phil.Mag.A, 59; 939 (1989).
6. 渡会素彦、第5回九州電子顕微鏡技術者研究会報告書、p.4 (1992).
7. 堀田善治、佐野毅、根本実、日本金属学会会報 Vol.28 No.9, p.742 (1989).
8. M.Watanabe, Z.Horita, D.J.Smith, M.R.MaCartney, T.Sano and M.Nemoto, Defect and Diffusion Forum Vol.95-98, p.587 (1993).