第9回 九州電子顕微鏡技術研究会 特別講演

イメージング・プレートを用いたアンチゴライトの電顕観察

九州大学理学部 理学博士  上原誠一郎

1.序

 従来、電子顕微鏡像の記録媒体としては一般に写真フィルムが使用されてきた。写真フィルムの現像,定着の処理過程は完成されており、また、分解能が良い特徴を持つ。しかしながら,感度が低い,動作範囲が狭い、入力信号と出力(黒化度)の関係が直線的では無いなどの欠点を持っている。そのために微弱な信号の検出やデジタル信号化による画像処理や定量的解析には不都合であり、電子顕微鏡像の定量化は遅れていた。最近、これらの欠点を克服した新しい放射線画像記録方式であるイメージング・プレート(IP:imaging  plate)が開発された。電子線損傷を受けやすい層状珪酸塩鉱物の高分解能電顕像観察においてIPは有効であると考えられるが、初期に開発された電顕用のIPシステムは画素サイズ50μmであり、写真フィルムに比べ分解能が悪く高倍率の観察が必要であった。昨年、富士写真フィルム(株)から画素サイズ25μmの新しいIPシステムが市販され、九大超高圧電頭室に設置された。今回、この画素サイズ25μmのIPを用いた基礎実験とアンチゴライトの高分解能観察を行った結果について概略を報告する。

2.試料および実験

 九州大学超高圧電頭室のJEOL JEM-4000EXを用いて加速電圧400kVで福岡県篠栗産アンチゴライトの構造像の検討を行った。IPシステムは富士写真フィルム製 FDL5000を使用した。また、電顕フィルムは高感度フィルムの三菱MEMを用いた。

3.結果

<電顕フィルムとlPの比較>
 IPは電子線に対して高い感度、広い動作範囲(ダイナミックレンジ)、出力濃度の直線性などの優れた特性を持つといわれている(Hayakawa et al.,1987)。
 このことを確認するために、フィルムとIPの特性曲線を比較検討した。制限視野絞りを挿入して、一定の電子線量(3.1pA/cm2)で露光時間を0.1秒から64(32)秒まで変化さ
せ撮影した(Fig.1)。
 フィルムの場合はフォトデンシトメータで黒化度を測定し、IPの場合はFDL5000の出力強度の対数値を露光秒数の対数に対してプロットし、特性曲線を得た(Fig.2)。これから出力濃度の直線性は、フィルムの場合は約1桁程度であり、IPは今回の露光量の範囲でほぼ直線形であることがわかった。また、この電子線量の時のフィルムヘの適正露光量は約5秒程度であり、特性曲線の立ち上がり(黒化度1.5〜2.0)のところである。

<アンチゴライトの高分解能像観察>
 上記の実験からIPは低い電子線量においても出力濃度の直線性が保たれることがわかった。それで、フィルムヘの適正露光量の1/50〜1/10 程度の条件でアンチゴライトの高分解能像の観察を行った。その結果、原子の配列を直視できる高倍率50万〜100万程度でもthrough focus像を得ることができ、高分解能観察に非常に有効であった(Fig.3 大きいFigまたは小さいFig)。しかしながら、フィルムヘの適正露光量の1/50 以下の低電子線量で撮影した場合、像コントラストが量子ノイズのレベルとなり解析が困難であり、また、バックグラウンド強度に不均質がみられた。
 IPのデータを通常のレザープリンターで出力すると情報の欠落が大きく、高性能のプリンターが必要である。また、IP一枚のデータサイズが23メガバイトで非常に大きく、FDL5000の標準システムで使用している現在のパーソナルコンピュータでは多数枚のIPを処理するにはやや時間がかかるのが難点である。しかしながら、IPの出力はデジタルデータで得られるために画像処理が容易であり高分解能像の定量化が進むものと予想される。

参考文献
Hayakawa, S., Ichihara, S., Hoshino, M., Yamaguchi, H., Sakuma, S., Hanaichi, T., Kamiya, Y. and Arai, T.: Jour. Electron Microscopy, 36, 1-8, 1987