【大学病院で学ぶことのよい点について(2004年8月4日)】

  今、全国の医学部6年生は来年度の臨床研修をどこでするかを決定する採用試験の真最中と思います。臨床研修が必修化される前は、卒後は大学で研修するものが7割、市中病院で研修するものが3割と言われていましたが臨床研修必修化の1年目には大学での研修を選んだものが55%、市中病院での研修を選んだものが45%とのことです。来年度はこの傾向に一層拍車がかかるものと思われます。初期研修は本人のやる気次第でどうにでもなる面がありますので、私自身は初期研修は大学病院でも市中病院でもかまわないのではないかと感じております。母校を離れて他流試合をするのもよいことだと思います。新しい環境で異なるバックグラウンドの人と切磋琢磨して自分を磨くのは大きなプラスになることと思います。これからもますます流動性が高まることは確実でしょう。
  ただ、今後の大きな問題は、2年間の初期研修を終わった後、どうするかということでしょう。大学に戻るのか、そのまま市中病院に勤めるのか、はたまた他の市中病院で専門医研修を受けるのか、様々な選択枝があると思われます。私は大学人として大学で専門的な研修を積むことのメリットについてここではいくつか述べたいと思います。

  大学のよい点として、専門医教育システムがしっかりしていることがまずあげられると思います。ただしこれは分野にもよります。神経内科のような比較的歴史の新しい分野では一般病院の神経内科のポスト、そして人材は不十分なところが圧倒的であり、そこだけで神経内科全般の幅広い専門医教育を受けることはまず不可能と考えられます。大学は専門医の人材が豊富で様々な立場から指導、助言を受けられます。耳学問ということもとても大事で、最新の情報が絶えず入ってきます。神経内科の分野は脳卒中の急性期診療から、神経変性疾患、神経免疫疾患、筋肉疾患、神経難病のケア、てんかんなど極めて幅広く若い時期に様々な疾患を診て現場で学ぶとともに、システマティックに神経症候学、臨床神経生理学、神経病理学・筋肉病理学、神経放射線学、神経治療学などを学んでいくことが大切です。このような幅広い体系的な専門医教育システムを構築しているのは、伝統のある大学教室のみだと思います。大学は専門分野の人材が豊富ですから、個々の疾患に対してもより深い指導・教育が可能です。

  また、大学は様々な関連病院を持っていますから、たとえば、大学で基礎的な神経症候学を体系的に学び、次いで急性期病院で脳卒中を中心として神経救急を学び、さらに神経難病や筋ジスロトフィー症を国立病院機構の病院(かっての国立療養所)で学ぶなどのローテーションが可能です。市中病院に最初から就職してしまいますと、そこだけしか知らないということになりますが、大学の場合は、各種の特徴を備えた関連病院を複数経験することが可能で、これにより診療の幅が拡がるのはとてもよいことだと思います。同時に様々な病院でいろいろな人と知り合いになる機会をもつのもすばらしいことです。このような出会いが貴重な財産になるともいえましょう。特に九大神経内科は日本で最初に設立され長い歴史がありますので、西日本各地の多数の公的な総合病院で教室出身医師が神経内科の責任者をつとめていますので、多種多様な希望に応じることが可能です。

  さらに大学では、最先端の研究を行っています。人生の一時期、自分の興味のある領域の研究に携わってみるのは、臨床家として生きていく場合でも大変貴重な経験となります。特に神経内科の領域は進歩が著しいことから、研究データをまとめあげた経験は、後に臨床的な研究論文を読んで最新の医学知識を咀嚼して自分のものとしていく場合にとても役立つと思います(この臨床研究にはどこに問題があり、どのくらい信用できるか、考察、判断できる)。また人間には誰しも抗いがたい知への興味があると思います。大学では医学研究の最先端の経験を積むことが可能です。九大神経内科は九大脳研の一員であり、神経内科の幅広い領域で研究の機会があります。またコンスタントに留学の機会があり、研究者としての道も開けています。このような研究の面白さを知ることができるのも大学ならではのよい点と思います。

  九大神経内科には全国各地の大学卒業者の入局があります。異なったバックグラウンドの仲間と切磋琢磨しての専門医研修と最先端の医学研究の両者を提供できるのは大学だけだと思います。2年の初期研修が終わってすぐでもよいですし、しばらくよそをまわっての中途入局でもまったく問題はありません。神経内科に関心のある方が大学に多く集うことを期待しています。