【臨床研修必修化後の専門医教育について (2004年8月24日)】

  今は、臨床研修が必修化されて2年目にあたる医学部6年生のマッチングのための採用試験が全国的に行われている時期にあたります。臨床研修必修化後1年目の研修医の方は、実際の臨床研修について様々な感想を持たれていることでしょう。当初の予想通りの充実した研修が出来ている人もいるでしょうし、必ずしも期待通りではなかった方もおられることと思います。労働者ではありますが、同時に教育を受ける身でもありますから、どのような環境にあっても自ら学ぶという積極的な姿勢が大切であることはいうまでもありません。このような姿勢があれば、大学病院で研修を受けても、市中病院で研修を受けてもどちらでもよいと私は思っています。問題は、その後のことです。

  専門医資格の有無は現在広告できるようになりましたが、今後、さらにドクターフィーが実現される可能性があり、そうなると専門医資格の有無により待遇が大きく変わることにつながると思います。ですから、臨床研修後の専門医教育のありようは、これから真剣に取り組んでいかねばならない重要なポイントになります。特に専門性の高い臨床各科では大きな問題です。一つにはどのようなポストで専門医教育を受けたいという人を受け入れるかということがありますし、またどのようなプログラムを組んだらよいかということも極めて重要です。大学病院では専門医教育は医員のポストでということになりますが、現今の厳しい医療経営環境では医員の数は制限されており増加は見込めない状況です。

  臨床研修をしているうちに、循環器や消化器、呼吸器などよく治療できる科で臨床医としての醍醐味を味わうと、なかなか治療の難しい神経の領域を専門にしようという人は増えない、むしろ減るであろうと予想されます。しかし、これから医者をやろうという人は、あと40年くらいは現役をするわけですから、たとえば神経の領域でいうと、これから40年の間にどのくらいめざましく発展するかはちょっと予想もつかないですね。我々の予想をはるかに越えるスピードで医学、医療は進歩を続けることは確実といえるでしょう。これは、たとえば、私たちが卒業したとき(昭和54年)に頭部CTがようやく九大病院に入ったくらいだったのに、今は高磁場のMRIで形態はいうにおよばず、その機能まで詳細に調べられるようになった(functional MRI)、あるいは当時は遺伝子性神経難病の原因遺伝子はほとんどまったくわかっていなかったのに、今はメジャーな遺伝子性神経・筋疾患ではほとんどすべて原因遺伝子が解明され、一部では遺伝子治療も始まったことなど、神経内科領域でのこの四半世紀の驚異的な進歩をみれば明らかです。また、神経内科の領域では、私の卒業当時は本当に治療法は限られていましたが、今は様々な治療法が臨床の現場で使われるようになりましたし、今後も新しい治療法が開発されていくのは間違いありません。したがって、未開の領域の極めて大きい神経内科は今後の進歩がもっとも望める分野ですし、若い人たちがもっとも活躍できる領域といえます。ですから、私は奥の深い脳の領域を専門として選ぶことを強く勧めます。

  現在、神経内科専門医は内科認定医をとったうえでとりますから、受験資格ができるまでに6年間の臨床研修を積むことが不可欠です。臨床研修(初期研修) 2年の後の最初の神経内科研修は内科の3年目としても認定されますので、卒後3年を経れば、日本内科学会認定医の受験資格ができます。神経内科の臨床は学会が認定する教育施設で3年以上、教育関連施設で4年以上の研修を積むことが必要とされています。6年は長いように思えますが、これは他の臨床各科でも同様で外科系では10年などもっと長いところがあります。最初の臨床研修必修化後の医師(現在1年目の研修中)が入局することになる平成18年度までには、きちんとした専門医教育システムの再構築が必要です。九大神経内科では、現在の関連病院神経内科や脳研の臨床神経生理学教室、神経病理学教室と連携した研修プログラムをさらに充実させていくことを考えています。大学病院では神経内科の基本的な考え方、診療・治療の手技、関連する脳・神経領域(神経生理、神経病理、神経放射線など)を学び、さらに関連の救急病院や総合病院の神経内科で脳卒中などの急性期神経内科診療、国立病院機構(かっての国立療養所)で慢性期神経内科診療を研鑽するといった一連のシステム作りが不可欠です。現在もこれに近いシステムになっており、九大神経内科は教育はしっかりしていると考えていますが、より充実したコース作りをする必要があると考えています。九大神経内科の医員の席は6ですので、この範囲内であれば受け入れは可能です。今はできませんが、今後は、若い人で早く神経内科の研究にチャレンジしたい方には直接神経内科の臨床大学院に進学できるようなコースを作りたいと思います。この場合は臨床研修修了後に大学院に進学し(このとき同時に入局)、1年間神経内科の病棟で担当医として神経内科の修練を積んで大学院での研究は2年次から3年間ということになります。ただし専門医試験を受けるためには、その後に神経内科臨床を大学病院ないしは関連病院で研鑽する必要があります。

  九大神経内科では脳研の基礎教室と連携して幅広い領域での研究活動を展開しています。教授就任後は関連病院の充実に力を注ぎましたので、これからは大学として研究にもっと力を入れたいところです。大学の臨床教室のよいところは、臨床も研究も深くやるところだと思います。特に神経内科のような奥が極めて深いところは大学での臨床と教育がとても大事と思っています。若い方の参加を期待しています。