【イタリアの女性神経内科医師(2004年10月10日)】

  9 月下旬にベニスで開かれた国際神経免疫学会に出席し、その後にトリノ大学神経内科のDurelli教授に招かれて同大学で多発性硬化症について講演してきました。続いて同大学病院で2名の患者さんを、スタッフ、レジデント注視のなかで診察させていただきました。だいたい外国人プロフェッサーをよんで診察してもらう場合は、どこでも入院患者さんのうちでもっとも難しいケースを診てもらうので、当然といえば当然ですが、2例ともとても複雑なケースでコメントに頭を悩ましました。

  イタリア人はとても食事を重要視しており、前日も延々と夜12時過ぎまでディナーがあり、ホテルに帰りついたのは午前2時近くでした。十分寝る間もなく、午前中に講演、午後診察、カンファレンス、夜は12時までお別れディナーと盛りだくさんでした。イタリアは食事がとてもおいしく、タコ、イカも含め様々な種類の魚介類が食べられますので、日本人向きです。ただ19世紀から続いているという、トリノで一番のレストランでこれは最高だからと、子牛の脳と鶏のとさかが原型のまま煮込んである(イタリア語の名前は忘れました)のが出てきたときは参りました。目の前に座っているDurelli教授がもりもり食べられるので、私も食べました。ワインによく合って料理は確かにおいしかったです。10年後の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD、狂牛病)が気になりましたが(vCJDは英国では今輸血後の感染が問題になっており、どのくらい潜在的な感染が広がっているか、わからない状態です、イタリアでもこれとは独立してvCJDの発生が数件あり、まったく大丈夫というわけではないと思うのですが、Durelli教授によれば心配ないとのこと)。

  ところで、50名ほどの講演会の出席者、10数名の診察・カンファレンスの出席者の多くが女性でした。不思議に思って聞いてみると、イタリアでは医学部生の75%が女性であるとのこと。男子学生は、もっと金になる弁護士やビジネスの方に進むとのことでした。最近、わが国でも女性医師の比率の増加が顕著ですが(わが国では医師全体のなかでは約15%が女性)、これは世界的な傾向でしょうか。帰国後すぐに弘前で開かれた日本神経感染症学会でお会いしたニュージーランドの額田教授にお聞きしたところ、ニュージーランドでも今年初めて女子学生の率が50%を越えたとのこと。

  イタリアの女性医師は、とてもチャーミングで愛想よく明るい方が多く、カンファレンスのプレゼンテーションも立派でした。夜12時、1時までディナーに付き合い、よく食べ、よく飲み、よく働きます。4日間のトリノ滞在中、夜遅くまで一番付き合ってくれたエリザベートさんは、家庭をお持ちですが、よく仕事もされ、このあとすぐウイーンで開かれたECTRIMS (欧州でもっともアクティブなMSの研究会) の研究発表で受賞(価値大)されました。レジデントのアンジェルさんは、バロロワインで有名なレンゲの出身で、ワイン用の葡萄の土壌に詳しいお兄さんとともに半日かけて同地のワイナリー(たくさん試飲して酔っ払った)を案内してくれましたが、今度サンフランシスコに留学するといっていました。二人ともとても忙しいといっていましたが、家庭と両立させて、人生を楽しみつつ本当によく仕事をしておられます。

  日本でも女子医学生の増加が著しく、今後、女性医師の働く環境をどう整えていくかが大きな問題となっています。全国国立大学病院長会議のなかに地域医療に関する小委員会が設置され、今後の地域医療のあり方について提言をまとめているところですが、そのなかの重要な項目として女性医師の働く環境の整備があがっています(九大病院の水田病院長が小委員会委員長なので、私は素案をつくるワーキンググループの座長をしています)。今後、わが国でも女性医師が生涯続けて医師として働いていける環境整備が不可欠です。結婚、出産、子育てに際してのサポートを医療界全体で考えていくことが望まれます。これには、@出産で休暇をとる場合の代替医師の確保、A出産、育児後に復帰する際に、研修が受けられるシステムの構築、Bワークシェアリング、夜勤免除、週1-2日の勤務免除、C延長保育が可能な施設の充実、女性専用の当直室、休憩室、更衣室の整備などが考えられます。

  九大神経内科は女性医師の割合が以前から高く、最近の入局者の大体4割は女性です。すでに子育て中の医員では当直をはずしたり、出張先に配慮したりしています。臨床研修が必修化されて入局のないこの2年間はどこの医局も人手不足で大変ですが、今後は、女性医師の出産、子育て中の代替医の派遣、ワークシェアリングの促進などを関連病院とともに推進していきたいと考えています。神経内科は、急性期から慢性期疾患まで幅が広く、女性医師にも体力的に適した専門領域があり、生涯に渡って十分専門医として働けますから、女性に適した分野と思います。事実、神経内科の領域では以前から女性の教授が何人かおられます。その中の一人である藤田学園大神経内科の山本廣子教授は、女子学生には「神経内科に入って子供を産もう」と言っていると聞きました。諸外国でも、イタリアに限らず神経内科領域では女性教授が多く、世界的に活躍している研究者も多々おられます(たとえば国際神経免疫学会の理事長は英国の女性医師)。日本の女子学生のレベルから考えると、もっと世界に比肩する活躍が望まれるところです。そのための環境整備をわが国でも真剣に考えていくべき時期と思われます。