【米国神経学会年次総会に参加して (2005年4月16日)】

  2005年4月9日から17日まで米国マイアミビーチで開かれた第57回米国神経学会年次総会(American Academy of Neurology, AAN)に参加してきました。この原稿は帰りの飛行機のなかで書いているところです。

  米国神経学会(AAN)は会員数2万人を要する大学会です。ちなみに日本の神経学会は会員数が約8000人です。1400題ほどの演題が発表されますが、演題として採択される率は約40%と聞いています(特に海外からの演題採択率は低い)。九大神経内科からは今年は3題が採用され、大学院生の石津君、田中君、助手の小副川君といっしょに行ってきました。特に石津君の分はplatform(口演)に採用され好評でした(このような学会では圧倒的多数はポスター発表になり、口演発表に回されるのはそれだけ評価されているということで、とても名誉なことといえます)。

  海外の学会で困るのは、英語の質問が聞き取れないことです。一般に講演部分はスライドも同時に提示されますから内容の予想もつくし聞き取りやすいのですが、質問は何を聞かれるかわからないし、いろんな人が様々な訛りの英語で質問してきますので、特に日本人には聞き取れないことがよくあります(発表の主旨とほとんど関係ないことを質問してくる人もいて困ることもあります)。石津君も質問には全く返事ができていませんでしたが、英語の口演は立派なものでした。口演発表のすぐあとにモントリオールのJack Antel教授(多発性硬化症(MS)の研究で著名、今回もAANでNational MS Society のJohn Dystel Prizeを授与されていた)が石津君のところに来ていましたので、たぶん励ましてくれているのだろうと思いましたが、後で彼に聞くと、「プレゼンテーションはとてもよかった。質問がわからなかったことは気にするな。がんばれ」と言ってくれたとのことで、とてもよかったと思います。他にも今回は私たちの発表に対して好意的な人が多いように感じました。

ポスター発表の様子
「AANでのポスター発表の様子」:田中

  またポスターのところにも多くの人が内容を聞きに来ますから、それらの人の質問に英語で答える必要があります。今回出席した他の二人もポスターを訪れた研究者への質問には答えていたように遠目には見えました(実際はどうであったかは、わかりませんが)。このようにして自身の発表を訪れてくれた人はその領域の研究に関心がある方が多く、そのような人と顔見知りになれるのは、楽しいことです。(写真:ポスター発表の様子)
  若い時期から海外の国際学会に参加して発表する経験を積むことはとても大事です。海外での学会発表は、もともと気質の豪胆な人にとっては取り立ててたいしたことではないかもしれませんが、普通の日本人にとってはかなりな緊張を強いられます。これを克服するには若い時期から場数を踏んで慣れることと、普段から日本への留学生などと英語で話す機会を持つことが大切です。おとなしいタイプの人でも若い時期からいい仕事をして海外の国際学会での経験を積めば、十分海外で通用します。このため、九大神経内科では、海外での学会発表については、筆頭著者(実際に発表する人)の分は教室で旅費を負担するようにしています。また現在も6人の海外からの留学生が在籍しております。

  私はAmerican Neurological Association (ANA)というより権威の高いといわれている(それだけに年取った方が多い)学会の会員で、そちらに出ていました。しかし、AANの方が会員になるのに制限がないため若手の発表が多く最先端の研究状況がよりよくわかる(ANAは総説的な話が多い)といわれていますので、今回、AANの年次総会に初めて参加しました。以前、イタリアの神経内科の教授に、AANは4月の開催とその年のトップを切って開かれ、各分野のその年の一番先端の発表を早く聞けるので必ず参加するようにしていると伺ったことがあります。そのことはやはり本当で、AANはよりinternationalで、世界中から神経内科とその関連する神経科学領域の様々な研究者が集まって発表しており、私自身も各分野での最先端の研究の動向を肌で感じ取ることができました。

  欧米では、MSの研究はメインストリームで、今回も最も広い会場があてられており、発表演題数も最多で、MSのポスターのところはどこも人の山でした。意外であったのは、再発型Devic病(relapsing neuromyelitis optica、これはアジアでいっている視神経脊髄型MSとほぼ同じ)のポスター発表のところが大きな人だかりになっていることです。これは従来の欧米の学会では考えられないことで、欧米の研究者からも視神経脊髄型MSが注目されていることがよくわかりました。欧米ではMSの患者数が極めて多いことから、 MSの研究は盛んで、それだけ競争が厳しく、なかなか私たちの研究は認められてこなかったわけですが、日本からの研究がよく認知されるようになってきたと実感することができました。また、今回の学会ではMSについては、接着因子?4-integrinを阻害するモノクローナル抗体(タイサブリ)の治験成績が多数報告されていました。本剤は、MSの再発率を約60%減少させ、病気の進行も著明に遅らせる作用を持つことがデータとして示されました。ただ致命的な病気である進行性多巣性白質脳症が3例に副作用として発生したため、急遽、治験は中止になったとのことで、極めて残念なことです。

  このように世界中から神経学者(neurologist)が集まるアクティブな学会ならではのことは、やはり米国以外の様々な国の人と話しができることでしょう。昨年、面識のない英国の視神経脊髄型MS(欧米での再発型Devic病)の研究者から急にe-mailでいろいろと研究上の質問を受けたことがありましたが、今回、演題を出しており初めて会うことができました。また、会期中に、今年の8月に福岡で主催するMSワークショップに招待したいと思っているサルジニア島(イタリア領、地中海の島)のneurologistであるマローズ先生のところの若い人(この方は最近AANの機関誌である Neurology誌にサルジニア島のMSの発症年齢が若年化していることを発見して報告した)とワークショップについて話すことができました。マローズ先生は女性としてはイタリアで初めてのneurologyの教授(full professorship)です。前にも書いたことがありますが、イタリアは女性のneurologistが多く(最近は新しくneurologist になる医師の95%が女性と言っていました)、今回話しをした人も仲介してくれた人も女性のneurologistです。実はマローズ先生だけを呼ぶ予定でしたが、小副川君がこの若い人から私も日本に行きたいと言われて安請け合いしたので、結局二人呼ぶことになりそうです。イタリアの女性 neurologistは、向こうはどう思っているか知りませんが、明るく日本人の相手をしてくれるので私は好きです。8月に来ていただいたら病棟の回診をしてもらおうと思っています。

マイアミビーチのキューバ料理専門店Yukaでの学会打ち上げ
「マイアミビーチのキューバ料理専門店Yukaでの学会打ち上げ」田中、石津、小副川、吉良

  マイアミビーチは、ココヤシの並木道と白い砂浜、コバルトブルーの海が美しく、とてもよいところでした。ビーチの4月初めはまだ朝夕は風が涼しく、砂浜をジョギングしている人も大勢いました。週に3日ほど家の回りをジョギングしていますが、ここで走れば本当に気持ちいいだろうなと思われたことでした。最後の日にはエバーグレーヅ国立公園を訪れ、大湿原のairboatに乗りパークではワニと握手してきました。写真は、石津君の口演発表の後、キューバ料理で打ち上げをしているところです。シュレスコ(肉料理)をはじめ、ロブスター、マヒマヒ(魚)などとてもおいしかったです。