【入局の風景雑感(2005年6月30日)】

  つい先日の新聞に九州厚生局の主催で後期臨床研修(専門医研修)のための病院説明会が開かれるとの記事が出ていました。2年前までは、私たちが四半世紀以上前に入局を決めたときと同様な入局勧誘が行われていたことを思うと、時代の急激な変化を感じないわけにはいきません。私の理解していたところでは、医局に入局するということと専門医研修を受けるということは同義語でしたが(医局に入って専門医教育を受ける)、これからは、初期臨床研修はこの病院、専門医研修は別の病院、研究はどこそこの大学院、博士号をとったら自分で就職先か留学先を探すとなるのでしょうか。これは若い人もハードな時代になったなあと思います。

  私は大学に入学したときから将来は脳をやろうと思っていましたので、この方面に進むということについては、迷いはありませんでした。ただ神経内科にするか精神科にするかは迷いました。精神科に入局の説明を聞きにいったところ、当時の医局長の先生から精神科には向いていないように言われました(入局の説明を聞きに行って向いていないと言われるのもひどい話ですが)。研究としては脳と心の領域には興味がありましたが、臨床としては神経内科の方に向いていると私も感じておりましたので、神経内科に入局しました。結局、脳が好きというのと臨床がなんとなく自分に向いていそうというので、入局を決めたわけです。今どきの医学生はどういう理由で入局、専門医研修先(?)を決めているのでしょうか。

  大学の同窓生を卒後四半世紀たって見渡してみますと、私たち九大医学部昭和54年卒は、教授の当たり年で、母校をはじめ東北大学など有力大を含め多数が医学部の教授(10数名)になっていることに驚きます。特に臨床の教授が多いですね。トップで卒業しても教授になれないこともあるし、国試に落ちても教授になっていたりするので、卒業してからの人生はわからない。大雑把に言って、卒業成績はあまり関係ないですね。僕は6年間ほとんど雀荘から講義室に通って遊びほうけていましたから、教授になって自分のことは棚にあげて学生に勉強のことをいうのもおこがましい気がしますが、他の教授になった輩は学生にどんな顔をして教訓を垂れているんだろうか。

  一生のことだから、どの専門分野にするか迷うのはいつの時代であっても当然といえます。このため、後期研修もいくつかの科を6ヶ月ごとに回って最終的に専門分野を決めるというコースも用意されているようです。ただ今どきの研修医は、すでに医学部の5年と6年の2年間はベッドサイドやクリニカルクラークシップで臨床の現場に触れており、さらに2年間の臨床研修を経ているので、都合4年間は臨床で過ごしていることになります。ですから、このうえモラトリアムを決め込んでいくか回ってから決めるというのはあんまり遅いのではという気がします。付言すると、医学部を卒業する時点で、この分野に将来行こうということがはっきりしている人や、アカデミズムに関心がある人は、初期研修から大学病院でやって研修2年目の後半6ヶ月は希望する専門診療科で専門医としてのトレーニングを始めるのが効率的。鉄は熱いうちに打てというのは本当。

  自分の25年前を振り返ってみても、今日のここまでの医学の進歩、神経内科学の進歩は夢にも想像できませんでした。変化の激しい現代にあっては、今後、20年くらい先に世の中がどうなっているかを予想することは不可能なので、まあ雑音は気にせず自分が一番好きそうな分野をさっと選ぶのが賢明と思います。入局して合わなければ、専攻なり教室なりを替えるというのでいいと思います。医局によっては確かに転局が大変なところもありますが、うちは来るものは拒まず去るものは追わず(一応退局を思いとどまるよう説得はしますが)の精神でやっています。

  分野にもよると思いますが、大学での研修のいい点は、ある専門分野に限ってみても、その専門分野の様々な領域の専門家がいて広く学べる点と、学識の深さに触れることができる点(深く物事の考え方を学べる)と思います。具体的なことでは、都市部のいい関連病院をたくさんキープしていることや大学院が直結していることですね。臨床でずっとやっていく人でも一度は研究の経験を持ってみるのはとてもいいことで、その後の臨床が豊かにかつ深くなります。当科では、基本的に入局者全員に大学なり国立のセンターなりで研究するか専門的な分野を学ぶ機会を作っています。もちろん当教室で研究してくれるのが一番ですが、どうしてもよそで研究してみたいというのは仕方がないので行かせています。今年は、院生、研究生では学外は東京大学大学院生理学教室(脳生理学研究)に1名、長崎大学大学院ウイルス学教室(プリオン病研究)に1名、国立精神・神経センター神経研究所(筋肉病の分子生物学)に2名、国立循環器病センター(内科脳血管部門)に1名が国内留学しています。学内の基礎の教室には5人が行っています。教室には海外からの留学生5名、教室の院生6名、研究生1名しかいないので、教室の院生、研究生の半分以上は外にいっている計算ですね。