【仮入局と神経内科専門医 (2005年9月4日)】

  先月、先々月と入局説明会があり数名の方が来てくれました。1年次研修医、来年度卒業予定者の中で仮入局してくれる人が出てきてくれたのは、とてもうれしいことです。従来、仮入局というようなことは、当科ではしていませんでしたが、神経内科専門医試験のこともあり、今後このような形を進めていきたいと思っています。初期臨床研修必修化が始まったあとの研修医を対象にした意識調査では、学位より専門医資格を重要視するとの結果が発表されています。そこで、今回は神経内科における専門医について少し述べてみたいと思います。

  来年度から、神経学的診察には医療保険で新患に限り1回500点(5000円)が加算される方向で調整が進んでいます。このような専門医による診察に手技料を設けるようなことは従来なされていませんでしたが、神経学的診察に要する時間の長さと、そしておそらくはその専門性の高さを配慮してのことと思われます。神経学的診察には時間がかかります。これは各科の診察時間の調査でも証明されており、新患、再来とも診察時間が他科に比べて長いという結果が出されています。従来のように、神経疾患を全く知らない一般内科の医師が膝蓋腱反射を叩いても、神経内科医がフルに診察しても診察手技料が同じというのは、おかしな話です。この点を是正する神経学的診察の手技料の設置は、神経内科にとって大きな追い風となることは間違いありません。
  ただこのような神経学的診察の手技料がとれるのは、神経学会認定教育施設(日本神経学会認定神経内科専門医が3名以上常勤で働いており、学会で決められた一定の施設基準を満たすと学会が承認したもの)での神経内科専門医の診察に限られる見通しです。わが国の学会認定神経内科専門医は現在4006名いますが、この点は全ての神経内科専門医に早い時期に拡大してほしいものです。しかし、当面は今の医療保険の厳しい時代にあっては施設制限はあるものの神経学的診察手技料の新設をとるべきでしょう。

  神経学的診察の手技料が周知されるようになると、神経内科では神経内科専門医であることが医師派遣・採用においても強く求められるようになると思います(レジデントを除き神経内科専門医でないと話しにならない)。神経内科専門医になるには、まず内科学会認定内科医になる必要があります。認定内科医には2年間の内科研修が、神経内科専門医には学会認定教育施設等で最低4年間の神経内科研修が必要とされています(受験資格ができるまでに都合6年かかります)。ここで注意しておきたいのは、認定医や専門医はあくまでも学会認定という点です。つまり学会に加入して各々2年、4年の期間、研修してはじめて受験資格ができるということです(認定後も所定の学会認定の生涯教育等の単位を更新していかないといけません)。したがって、今は医学部卒業後2年間の初期臨床研修が課せられていますが、この間、内科学会に加入していなければ、それだけ受験資格の獲得が遅れます。また神経学会についても同様に加入していなければ、その間受験は後れますので、人によっては下手をすると2年なり4年なり受験は遅れます。従来は、学部卒業後すぐに入局していましたので、このようなことに無頓着な人でも医局のなかにいるだけで学会入会をどうすべきか、いつ受験資格ができるか、どのように研修を卒後進めていったらよいか、専門医試験にはどのような勉強をしたらよいか、あるいはどのような問題が専門医試験には出るのか、面接実技試験にはどう対応したらよいか、など様々な情報がいやでも耳に入っていました。しかし、今は、卒業後すぐに入局するわけではありませんから、このような情報も入らず学会にも加入せずローテートしている人が多いと思います。(神経学会専門医試験は合格率は以前は50%前後であったが、今は75%くらいにあがってきています。しかし、各科の専門医試験のなかではもっとも難しいものの一つでしょう。システマティックに研修を重ねていけば普通は大丈夫です。)

  仮入局は、神経領域に関心がある方にとりあえず医局から様々な情報を提供し専門医研修を始めるまでの進路に関する様々な相談に乗るようにしたいということです。知っておいた方がよい情報の提供、研修に関する様々な相談事は医局が従来してきたことであり、連絡のルートがあれば、有用な情報提供ができると思います。現在、国立大学医学部長・病院長会議の方から、初期臨床研修必修化反対、あるいは初期臨床研修期間を1年に短縮すべしという提案がなされています。初期臨床研修必修化はわが国医師のプライマリーケア能力を向上させようということで出てきていますから、卒前、卒後一貫しての臨床実習教育が充実すれば、専門医を目指そうという人には初期臨床研修は1年で十分と思われます(丸2年は長すぎ)。この点、大学で研修する場合は、2年目の後半半年は希望の研修分野を選択できますから、1年半後には専門医研修を始めることも可能です。また、どこで専門医研修をすべきかについても正確な情報を提供できると思います。医局に属していないと、ちょっと見学しただけではなかなか正確な専門医研修の情報は得られないと思います。

  国立病院機構をはじめ、様々な病院(群)が専門医研修を提案し始めているようですが、神経内科は扱う疾患の幅が広いので、専門医研修期間中に急性期病院と慢性期病院、大学病院と一般病院・神経難病病棟など、特色あるいくつかの施設での研修を積むことが不可欠です。スタートは大学病院で時間をかけて神経学的診察や様々な検査(臨床神経生理学的検査、神経・筋病理、神経画像診断など)を学ぶのがよいと思います。ここで、今ではどの大学もOSCEなどで神経学的診察手技を教えていますが、OSCEは型を教えているだけで心が入っていないとはよく言われることです。腱反射一つをとってみても、なぜこの腱反射をこの人では診る必要があるのか、この人のこの程度の腱反射は病的に高い(あるいは低い)と判断すべきか、この人の腱反射の亢進はどういう意義があるのか、などはOSCEでは教えてくれないでしょう(全ての人に対して同じように所定の腱を叩けばとりあえずよしとするだけでしょう)。この人の腱反射は少し高めだけれど、病的と考えるべきか、それとも正常範囲内と判断すべきかは、現場で適切な指導者のもとで何度も腱反射を叩いてみないとわからないものです。徒手筋力検査でも同じです。この人のこのくらいの筋力は低下しているのか否かの判断はいい指導者のもとで初期研修を受けないと上達しません。またある神経学的所見の異常をどう解釈・考察すべきかも指導者のもとで経験を積まないと考察力、洞察力は向上しません。このような神経学的診察とその解釈を必要な検査所見に結び付けていくプロセスも時間をかけて指導者のもとで学ぶことが不可欠です。このあたりは教育のマンパワーが不可欠で、大学病院でスタートするのが望ましいと私は考えます。

  大学病院での1年間の基本的な研修の後は、2年ほど一般病院神経内科で病棟と外来診療を学ぶことが必要です。大学病院と一般の急性期病院では神経内科病棟入院患者の疾患の構成に違いがありますし、また病棟と外来では神経内科受診患者の疾病が大きく異なります。このあたりの経験を積んで、さらに慢性期病院の神経難病病棟を一定期間受け持ち、最後は大学病院でチーフレジデントを経験すればフルコースといえるでしょう。

  現状では、大学以外の病院(群)単独での後期研修(専門医研修)は来年から始まろうかというところですし、一病院単独型よりは大学病院と関連病院でローテートする方が幅広く研修できる点や教育のマンパワー、これまでの教育経験の蓄積といった点で勝っていると思います。大学医局研修のよい点としては、幅広く学べる点以外には、深く学識を学べる点(研究機能を持っている点)、研修後のポストがある点などが、医学教育学会の学会発表などでは指摘されていました。神経学は奥が深いので、わが国でも欧米のように出身大学はあまり問題ではなく、どこで研修したかが問題になるかもしれませんね。医局によっては一端仮にでも入ると抜けるのが極めて困難なところもあるかもしれませんが、うちは出て行きたければ事前にきちんと連絡してもらえれば出て行ってかまいませんから、とりあえず情報を得るという意味で神経に関心がある人には仮入局を勧めます。