【第18回世界神経学会紀行: よく見、よく聞き、よく学ぶ(2005年11月22日)】

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1. よく見。

  2005年11月7日から11日までシドニーで開催された第18回世界神経学会(World Congress of Neurology, WCN)に出席してきました。それに先行して開かれた第3回Pan Asian MS ForumでChairmanを務めましたので、11月2日からの長旅となりました。
  最初に副題についてふれておきますと、「よく見、よく聞き、よく学ぶ」とは、いうまでもなく神経学の基本的精神です。本稿に掲載の写真(1・2・3)は、MSフォーラムでCo-Chairmanを務めたAllan Kermode教授(オーストラリア、Perth、今年ヘリコバクターピロリでノーベル賞をとった方と同じ病院)からもらったもので、彼はこのスライドを使って多発性硬化症(MS)の診断の秘訣についてユーモアを交えて説明しました(たぶん彼の著作権の侵害にはならないと思いますので、ここに紹介します)。なお、これはAllanの膨大なブッシュコレクションの一部です。英国人、オーストラリア人はよくブッシュ大統領のことを笑いの題材にしますが、これもその一例です。

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2. よく聞き。

  今回、WCNに関連して様々なシンポジウムが開かれましたので、早くから現地に入った方、またサテライトシンポジウムのみに出た方も多かったようです。これはWCNの登録料が約15万円と極めて高額であったことも関係していると思います。今回は、日本から200名を越える世界最多の登録がありました。このような世界的な学会では日本人が多数行かないと、会が財政的にもたないようになっています。もっとも日本人の登録者が多かったわりに、会場では教授を除いてほとんど日本人には会いませんでした(街中ではよく見かけましたが。村井講師も行っていたと思いますが、会期中全く姿を見なかったですね)。

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3. よく学ぶ。

  先行して開かれた第3回Pan Asian MS Forumは会の企画段階からかかわり、二日間に渡って座長を続けないといけませんでしたので、大変でした。Allanのオジーイングリッシュ(オーストラリア英語)がさっぱり聞き取れないので、本当に弱りました(向こうも困ったと思いますが)。東アジアからタイ、イラン、トルコまでの様々な国の神経内科医の発表があり、今回はレベルが以前に比べて格段に高くなったと思います。従来、アジアのMSの臨床研究レベルは低く、第1回Pan Asian MS Forumでのアジアからの発表は一部を除きおそまつであったと思います。このため、第1回以降はイスラエルの人は来なくなったという話があります(イスラエルは研究レベルが高く、サッカーのワールドカップでもヨーロッパに入っている)。しかし、毎年アジアの人と顔を会わせているとさすがにお互い誰が誰かわかってきて自然と親しくなるのはとてもよいことです(人間の脳は繰り返し見ていると親しみを覚えるように生物学的に造られている)。

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4. Forum前日のレセプションのディナーで。 テヘラン大学(イラン)のJamshid Lotfi教授ご夫妻と。妖艶な奥様はクルド人画家。日本人はsophisticatedでexcellentな仕事をするが、唯一の難点は英語が下手なことだと言われる(あたっているから言い返せない)。イランのMSは欧米白人のMSと同じ。

  Forumのcase discussionで、Kwang Ho Lee教授(Samsung Medical Center、韓国ソウル、韓国脳卒中協会会長)が、脊髄炎・視神経炎を反復しMSと最初考えたが、後にシェーグレン症候群の存在が明らかになり、シェーグレン症候群でMSのような病像を呈する例があると発表したすぐ後に、今度は台湾のChing-Piao Tsai教授(Taiwan Neurological Society前会長、台北)がシェーグレン症候群でMSを合併した例(これはLeeさんの例と本質的に同じ)を提示し、この例を、@シェーグレン症候群の中枢神経症状の現われとみなすか、Aシェーグレン症候群とMSとの合併とみるかで投票することになりました。会場の票は、@が55%、Aが45%と分かれました。これはどちらが正しいかは確かめようがないので?マークのままですが、これはLeeさんの見解よりTsaiさんの意見の方があたっていると思います(LeeさんもTsaiさんもいい方で臨床をよく診ておられますが、MSはTsaiさんの方がよく診ているという感じ)。このような例は中枢神経白質障害に基づく症状だけを反復し、シェーグレン症候群で通常よく見られる末梢神経障害を示さず、シェーグレン症候群の神経症状とは明らかに異なっています。

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5. MS Forumの開始直前にchairman 二人で記念写真。
英会話の不安のため、笑いも緊張気味。

  トルコのAksel Siva教授(Istanbul大、MSと頭痛の専門家)が、やはり同様なニュアンスでベェーチェット病とMSの合併例を経験していると発言(ベェーチェット病でも中枢神経症状がよくみられるので、ベェーチェット病の現われかMSの合併かは区別がより一層難しいと考えられますが、これは神経ベェーチェット病をたくさん診ているSivaさんならではの言葉か)。この点は後で聞くとAllanも同意見でMSとシェーグレン症候群の合併と言う。MSをたくさん診ているプロは、おそらく皆Aに投票したと思います。ただAに反することとして、2004年の日本の全国MS臨床疫学調査結果によれば、シェーグレン症候群を合併したMS例はベタフェロンの投与で増悪することが多いという成績があり、通常のMSとは反応が異なっていることがわかっています。おそらく、MSの脱髄機序は複数あり、そのうちのある一つがシェーグレン症候群とMSの合併例では優勢であり、それはベタフェロンに抵抗性といったあたりかと私は思っています。英語力がないので、このあたりの微妙な臨床のニュアンスを伝えられないのは残念でした(次回までに英会話をもっと勉強しておこうと思いました)。

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6. MS Forumのディナーで。信州大学の高教授、Kermode教授、韓国のKim先生(本文中のKim先生とは別人)と。次回は済州島でやろうと意見が一致。

  一点、私にとってありがたかった発表は、韓国のKwang-Kuk Kim教授(Asan Medical Center)が韓国の視神経脊髄型MSはやはりHLA-DPB1*0501と相関する(これは九大神経内科からの日本人MSの報告と同じ)と述べてくれたことです(Kimさんは一人でコツコツとMSや脊髄炎の症例を集めて研究を続けている)。九州のMSは北海道のMSより韓国のMSに近い感じ。来年は韓国でやることになったので、ぜひ済州島でやってほしいとLeeさんとMS forumの事務局の人に強く依頼。
  二日間に及んだForumを終えた翌日は、ほっとして、wharf factory(以前の港の工場)を改装したレジデンスにあるイタリアンレストランで、Allan夫妻(奥さんは中国系オーストラリア人)、Alan Thompson教授(英国、National Hospital for Neurology and Neurosurgery)と食事(写真)。Barramundi(バラマンディ、オーストラリアの川魚、これはおいしかった)とオーストラリアワインを楽しむ。Thompson教授はMSのMRIでは世界の第一人者で、会えたのはよかった。こんなまともな英国紳士が、あの遊び好きのAllanの友達とは知らなかった。第一回目のPan Asian MS Forumで初めてAllan Kermode博士と会って話したときは、わけのわからない英語で話す変な奴だと思いましたが、実際にいっしょに仕事をするとAllanはとてもいい男でありました。

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7. いつもの日本人メンバーとMS Forum終了後のディナーで。
今回は、私は企画・座長で苦労しましたが、鹿大の梅原先生
(右端。HAM の立派な講演をされ、とても好評)以外の皆は気楽な参加。次回は楽をしたい。
東海大吉井教授、宇多野病院田中先生、名大錫村教授、順天堂大横山先生、東京女子医大清水先生ほか。

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8. MS Forum終了後のディナーで東京理科大学太田教授と談笑。

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