【大学における後期研修と次世代の人材育成(2006年2月11日)】

  来年度に向けてそれぞれの進路が最終的に固まりつつある時期です。先日2月3日は九州大学大学院医学府の入学試験でした。面接で動機を尋ねると、医学部卒業後3から6年の臨床経験を経た医師が、さらに医学を奥深く勉強したい、それを将来の臨床に役立てたいという動機で大学院に進む場合が多いようです。医師の人生には、いくつかの岐路になる時点がありますが、卒後、5~6年はその時期の一つといえます。一通り専門医としての研修が終わり、臨床一本、専門医だけで同じ病院でやり続けるか、もう一度大学に戻ってアカデミックな雰囲気のなかで医学を学びなおすか、岐路に立つ時期です。当神経内科医局員は、今年は2名が大学院を受験しました。また1名が国立循環器病センターのレジデントに合格し、内科脳血管部門で3年間の脳卒中専門医研修の予定です。それぞれ自分の希望する専門分野での充実した生活がスタートできるよう祈っています。

  ところで、初期臨床研修必修化後、初めての専門医研修(卒後3年目以降の研修なので後期研修という言葉が使われているが、九大病院では専門医研修と呼ぶことになっている)の応募状況が全国各大学病院で明らかになってきています。当九大病院では130名余りの後期研修医への応募があっています。これは九州各地の大学病院での20~50人という応募状況に比べれば、多いほうです。全国でも後期研修への応募が100名を越えた国立大学病院は、今のところ東大、京大、阪大、九大の4大学病院のみと聞いています。その意味では、九大病院は善戦しているようですが、臨床研修必修化以前は約200名であったことに比べますと、約2/3に減っています。減っている部分は一般病院での専門医研修に流れたものとみられています。また、130名余といっても、このうち3年目の研修を九大病院でスタートできる(あるいはする)のは、今のところその1/6くらいのようです(各医局の関連病院への派遣の都合や大学病院での医員のポスト数に限りがあるため)。
  なかには、後期研修医への応募が一桁という深刻な事態の大学病院も四国のほうではあるやに聞いています。厚生労働省は、大学医局から地方医療機関への医師派遣を強くいう一方で、国立病院機構独自で後期研修医を大々的に募集しています。また多くの市中病院では独自に後期研修医を募集しており、なかには大学病院の約2倍の給料を出すところもあるようです。大学病院の研修システムの改善を図り続けていくことはもちろんですが、従来大学医局に来ていた若手が戻らなくなるのも、むべなるかなの感があります。

  大学医局(臨床教室)には、一般病院と同様な診療機能に加えて、人材の育成機能、臨床研究や高度先進医療の開発などの研究機能、そして医師派遣機能があったわけですが、このうち大学医局の医師派遣機能は早晩失われざるを得ない情勢です。派遣しようにも若手の人材が大学に戻ってこないのだから、もはや大学医局から地方の医療機関へ恒常的な医師派遣を続けられるわけがありません。地方医療における人材の確保という重要な機能を大学医局が担っていたわけですが、研修医の来なくなった地方大学の医局で医師派遣をとりやめざるを得なくなったのは、初期臨床研修必修化により広く一般病院で初期研修が行われるようになった必然の結果といえましょう。(大学医局だけがへき地を含む地方医療機関に医師派遣を続けることは不可能で、この問題は地域の医療機関と行政、医師会など医療関係者全体で対応せざるを得ないと思います)。

  人材の育成も、今後は大学病院だけではなくて関連病院と連携した専門医研修プログラムでということになります。神経内科の場合は、大学病院での基本的な神経学トレーニングと関連病院での救急を含む全般的な神経内科臨床の両者が不可欠です。九大神経内科では、卒後3年目(専門医研修の1年目)の大学での神経学の基礎的研修と4~5年目の関連総合病院神経内科での救急を含む一般神経内科診療とシステム化して行っています。若手医師の中には、引っ越しを嫌って1病院でのみ研修をすることを好む向きもあるようですが、神経内科は極めて幅が広いので若い時期に様々な特色を持つ病院で研修を重ねた方がよいのは明らかです。
  ただ大変残念なことに後期研修を九大神経内科でという応募者は、今のところ1名です。仮入局して初期研修・内科研修を経て神経内科に戻ってくる1名とあわせて来年度当科で神経内科医の修練のスタートを切るのは2名ということになります(まだ応募は受け付けていますが)。専門医研修者が少ないのは残念ですが、入った人を大切にしっかり育てていきたいと思っています(数も少ないので従来通り大学病院で研修をスタートする体制でいけますし)。

  大学の医局の機能として今後残るのは、次世代の人材の育成と大学でしかできない研究でしょう。神経内科に関して述べますと、卒後5~6年でだいたい神経内科専門医としての一般的な研修は終わります。もちろん、そのまま、一般病院神経内科で臨床どっぷりで続ける生き方もありますが、神経内科は幅が広いので、そのなかでやはり自分はこれというサブスペシャリティーをもつのも大事です。Research Neurologist(これはPhysician Scientist)、Stroke Neurologist(脳卒中専門医)、てんかん専門医、神経難病専門医、筋肉病専門医、臨床神経生理学や高次脳機能・認知症の専門医、頭痛専門医、自律神経の専門家(Autonomic Neurologist)、など他にも様々あります。
  神経内科専門医のなかで、さらにサブスペシャリティーの専門家を目指すとなると時間がかかります。たとえば脳卒中の場合だと、神経内科の方針としては幅広く神経内科全般を診ることができて、そのうえで脳卒中専門医になることを目指しています。来年度から、1名が脳血管内外科の専門医を目指して小倉記念病院の脳神経外科で研修を始めます。この場合、一般内科1~2年(今は初期研修の2年)、一般神経内科2~3年(大学と関連病院)、国立循環器病センター内科脳血管部門3年、関連病院脳卒中センター神経内科1~2年、そのうえで脳血管内手術を脳外科で2年学ぶことになります。この間、10~12年かけて、内科認定医、神経内科専門医、脳卒中専門医、脳血管内外科専門医の資格を取ることになります。こういう人材に将来、関連総合病院の脳卒中センター神経内科でリーダーになってほしいと思っています。大学医局のよい点は、こうしたローテートをしながら、専門を学んでいくのをサポートできることでしょう(勤務先の病院を離れてよそに勉強に行っている間は、支障が出ないよう大学医局から交替で関連病院へ人材を派遣したり、脳卒中も専門医一人ではできませんから、専門医希望者を計画的に派遣、育成しチームで診療できるよう体制作りをしたりできるという意味です)。

写真1
写真1:北海道大学神経内科佐々木秀直教授 (写真中央)
病棟の回診風景

  Research Neurologistの場合でも、一般内科・神経内科臨床を5年やって神経内科専門医に(今は初期研修の2年と後期研修の3年が目安)、さらに大学院での研究を4年、神経内科臨床に戻って1~2年、留学を2年で、だいたいリサーチの専門家になれますから、12年くらいかかりますね。教授になって9年目を迎えますが、人材の育成には本当に時間がかかるという思いが強いです。研究に関していうと、私は、神経内科医なら誰でもが診たことのある神経疾患で、誰もが思いつかないようなアイデアで病態解明や治療法の開発にチャレンジするのが、臨床研究の醍醐味と思っています。今の教室の状況は、私が教授になって入局してくれた若い人たちがようやく大学院や国立のセンターでの勉強を終わって医局に戻り始めたというところでしょうか。このような人材を迎えて、これから教室・医局、および関連病院での、研究、専門診療が大きく発展するときを向かえつつあると感じています。

写真2
写真2:福井大学第3内科栗山勝教授
病棟の回診風景

  九大神経内科病棟では、毎年全国各地の神経内科教授をお招きして、病棟を回診していただいて、診察手技・態度、学識、考え方を学ぶ機会を設けています。平成17年度は、下記の著名な神経内科教授の方々に病棟の回診をしていただきました。北海道大学神経内科佐々木秀直教授(写真1)、東北大学神経内科糸山泰人教授、福井大学第3内科栗山勝教授(写真2)、産業医科大学神経内科辻貞俊教授です。心から感謝の意を表したいと思います。