【アトピー性脊髄炎調査研究班の発足とTh2からTh9へのパラダイムシフト(平成21年4月11日)】

  この度、奇跡的にアトピー性脊髄炎の班会議ができることになりました。これは、今年度から厚生労働省科学研究費のうち難治性疾患克服研究事業において、国指定の難病とはいまだ認定されていない希少な、いわゆる「難病」の患者さんの実態把握のために、従来の国指定の難病以外で研究班を作って調査しようというものに該当します。これは厚労科研費の新たな募集項目です。この動きは、これまで光のあたってこなかった希少な難病患者の救済につながるものとして私は評価したいと思います。もちろん、ただのばら撒きになってはいけませんが。私は、現在の免疫性神経疾患調査研究班の楠進班長(近畿大学神経内科教授)にお願いして、同班と連携する形でアトピー性脊髄炎の研究班を申請しました。それが今回採用になったというわけで、大変にありがたいことです。まさか通るとは思っていませんでした。これは本疾患が、わが国においても広く一疾患単位として認められているわけではないため、行政サイドがこの病名での申請を認めてくれるか懸念されたことによります。この意味からも今回採用になったのは、患者さんのために本当によかったと私は喜んでいます。もっとも、予算も班員も最少のミニ研究班です。

  今日はそのアトピー性脊髄炎の患者さんの交流会に出てきました。東京で開催されている内科学会総会に出席し、その合間に近くで開かれた同会に伺いました。7名の方がお集まりで、車椅子の方もお二人おられました。この病気は異常感覚を主体にすることが多いのですが、約1割の方では重い運動障害が残ります。車椅子の方のお一人はパラリンピックの水泳の代表の方でした。パラリンピックに日本代表選手として出ると、病名がアトピー性脊髄炎では外国の方にわかってもらえないので、困っているということでした。これはもっともなことですね。現在、3年前に実施したアトピー性脊髄炎の第2回目の全国臨床調査の論文が、Neurology誌という米国でも一流のジャーナルにre-revision(再々投稿)の準備中です。なかなかすんなりとは通してくれませんが、今回はminor revisionで戻ってきたので、なんとか採用になるんではと期待しています。これが欧米一流誌に出版されると少しは外国の方にもわかってもらえるかもしれませんね。

  ところで、以前から、アトピー性疾患(アレルギー性疾患)の患者さんは多いのに、なぜ一部の人だけに脊髄炎を生じるのかが、大きな謎でした。これは喘息が先行して、その後に末梢神経炎(多発単神経炎)を起こしてくるChurg-Strauss syndrome(チャーグ・ストラウス症候群)でも同じで、喘息患者のごく一部にしか起こりません。アトピー性疾患の発症には、免疫細胞(Tリンパ球)のなかでもTh2細胞といって、IL-4、IL-5、IL-13などの、アレルギーを起こすIgEの産生を促したり好酸球を増やしたりするサイトカイン(ホルモンみたいなものですね)を分泌するものが重要と考えられていました。普段は、このTh2細胞は寄生虫をやっつけるといういい働きをしているのですが、アトピー体質の方では寄生虫もいなのにこれが働きすぎて病気を起こすように作用しているのです。これに対して、多発性硬化症などの臓器特異的な自己免疫疾患の発症には、Th1細胞といって、IFNγ(インターフェロンガンマ)を産生してマクロファージを活性化させるサイトカインを作るものが主要な役割を演じると思われていました。通常は、このTh1細胞も細胞内に寄生する細菌を排除するという大事な役割を担っていますが、これが働きすぎて細菌と間違えて自分の体の成分を壊してしまうようになると自己免疫病が起こることになります。これらTh1やTh2細胞は、エフェクターT細胞と総称され、炎症性の病気を起こす実行部隊です。このTh1とTh2のバランスが、Th2側に傾くとアレルギー疾患を発症しやすくなり、他方、Th1側に偏ると臓器特異的な自己免疫疾患を起こしやすくなるというわけです(Th1/Th2バランスといいます)。それで、10年前にアトピー性脊髄炎を報告したときに、MSはTh1病、アトピー性脊髄炎はTh2病で対照的という説を提唱しました。でも、それなら、アトピーの人は大変多いのに、アトピー性脊髄炎がごく一部にしか起きないのは奇妙です。このことに関して、ようやくある回答がみつかりそうです。

昨年、10月にNeurology誌に私たちは、アトピー性脊髄炎患者さんの髄液では、IL-9とeotaxin(エオタキシン)が有意に増加していることを報告しました。これは視神経脊髄型多発性硬化症で抗AQP4(アクアポリン4)抗体の有無に関わらずIL-17やIFNγが上昇することと対照的です。eotaxinは好酸球を呼び込むサイトカインで、アトピー性脊髄炎の病巣では好酸球がたくさん入り込んで傷害物質を分泌していますから、納得できる結果です。ただ、eotaxinはアトピー性脊髄炎でもっとも高値であるものの、視神経脊髄型多発性硬化症などでもある程度は高くなります。これに対して、IL-9は様々な脊髄炎を調べましたが、アトピー性脊髄炎でだけ特異的に上昇します。私たちは、IL-4やIL-5、IL-13といったTh2細胞の分泌するサイトカインがアトピー性脊髄炎患者さんの髄液では上昇しているに違いないと思っていたわけです。しかし、実際はそうではなく、このようなTh2細胞が作るサイトカインではなく、IL-9という全く予想してなかったサイトカインが特異的に上昇し、しかも髄液中のIL-9の値と患者さんの最終的な総合障害度(病気の重さ)が正の相関を示していました。このことは、IL-9そのもの、およびそれを分泌する細胞が脊髄障害に重要な役割を担っていることを意味しています。IL-9は喘息など一部のアレルギー性疾患で上昇することは知られているものの、他のTh2サイトカインほどには注目されていません。いったいIL-9だけ産生し、他のTh2サイトカインは産生しないリンパ球があるのでしょうか、この点が大きな疑問でした。

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