【アトピー性脊髄炎調査研究班の発足とTh2からTh9へのパラダイムシフト(平成21年4月11日)】

← 前の頁へ

   ところが、私たちが論文を発表した後すぐ、昨年12月にNature Immunology誌という世界でもっとも権威のある免疫学のジャーナルに相次いで2報、Th9細胞という全く新しいエフェクターT細胞が発見されたという報告が掲載されました。このTh9細胞は、IL-4やIL-5、IL-13を産生せずに、もっぱらIL-9やIL-10を産生します。このTh9細胞は、ナイーブなT細胞(まだどれかのエフェクターT細胞に分化していない段階のT細胞)からも、またTh2細胞からも、IL-4とTGFβの存在下で分化してきます。しかも、掲載論文によれば、Th9細胞は末梢神経炎を起こすということです。私たちが発見したアトピー性脊髄炎でのIL-9の特異的な上昇には、このTh9細胞が関係しているのではないか。つまり、アトピー性疾患の患者さんではTh2細胞が働きすぎないわけですが、そのうち一部の人でTh9細胞が分化してでてきたときに脊髄炎(アトピー性脊髄炎)や末梢神経炎(Churg-Strauss症候群)が起きるのではないかという仮説が立てられます。このため、アトピー性疾患のごく一部の人でしか、脊髄炎や末梢神経炎が生じないのではないかと考えることができます。この点を今度のアトピー性脊髄炎調査研究班では明らかにして、髄液中のIL-9が疾患の診断マーカーや活動性マーカーとして使えないかを検証したいと考えています。

  以前に、教室の石津君(現講師)が、大学院生のときに視神経脊髄型多発性硬化症で初めて髄液中のIL-17が上昇し、この値が脊髄障害の長さと正の相関を示すという報告を2005年にBrain誌にしています。これはIL-17が多発性硬化症で上昇していることを蛋白レベルで証明した初めての報告で、障害と直接的に関係していることを指摘した大変意義のある仕事です。そのときもTh1細胞の産生するIFNγでなくて、なぜIL-17が特異的に上昇するか、とても不思議に思いました。が、すぐ後にTh17細胞が臓器特異的な自己免疫を起こす新たなエフェクターT細胞ということがわかってきました。その後、このTh17細胞は自己免疫の主役として大きくクローズアップされています。Th9細胞もこれから、炎症性の病気の新たな実行部隊として人の病気との関わりが明らかになっていくことが期待されます。10年前は、Th1/Th2バランスが重要で、視神経脊髄型多発性硬化症はTh1病、アトピー性脊髄炎はTh2病と提唱しましたが、実は前者はTh17病、後者はTh9病ではないかと思われます。つまり、臓器特異的な自己免疫病でTh1病からTh17病へのパラダイムシフト(概念の変化)が起こったように、アレルギーに関係した神経障害でもTh2病からTh9病へのパラダイムシフトが起こる可能性があります。

 一方、この3月にアレルギー疾患の夢の治療薬といわれる抗IgE抗体製剤「オマリズマブ(ゾレア)」が我が国でも薬価収載されています(医療保険では難治性喘息だけが使用を認められました)。オマリズマブはモノクローナル抗体でIgEに結合することで、アレルゲン特異的IgEが肥満細胞に結合してアレルギーを起こす炎症性メディエーターが放出されるのを防ぎます。理由はよくわかりませんが、喘息患者さんの方がアトピー性脊髄炎の症状は重くなります。また、典型的なChurg-Strauss症候群は喘息後に起こります(アレルギー性鼻炎などの後にもアトピー関連末梢神経炎が起こることを私たちは今回Neurology誌に再々投稿予定の論文で提唱していますが、喘息後のものの方が末梢神経障害もより重症です)。喘息があればオマリズマブが使用できると思いますので、これでアトピー性脊髄炎や末梢神経炎の進行が止まるか、関心がもたれるところです。様々なモノクローナル抗体が難治性疾患の治療のパラダイムシフトを起こさせています。これは神経内科領域の疾患でも同様で、難治性疾患の多い神経内科の患者さんにとっては、大きな福音になると思います。ただ、モノクローナル抗体は薬価が高く、オマリズマブも1バイアル70503円で月1~2回皮下注射です(もっと高いのは酵素補充療法で、Pompe病などでは成人では月に100万円ほどもかかると聞きました)。日本の医療保険制度が破綻せず、かつ難治性疾患の患者さんの根治療法が可能になるよう祈っているところです

  今回の研究班では、アトピー性脊髄炎の末梢血や髄液における疾患マーカーや、電気生理検査とMRI検査の診断指標を明らかにして、より確実性の高い診断基準を作成する方針です。アトピー性脊髄炎は、多発性硬化症と異なって、MRIなどの画像検査で異常がでにくいという特徴があります。したがって、手足の不快なジンジン感や耐え難い痛みを訴えても検査で異常が出にくいので、「気持ちの問題ですね、精神科を受診してください」で終わってしまいがちです。MRIで異常が検出されなくても電気生理検査(体性感覚誘発電位検査や運動誘発電位検査)で異常がみつかることはよくありますが、これはどこの病院でも高い信頼性で検査できるわけではありません。したがって、診断がついていないで潜在している患者さんは多数おられるのではないかと考えています。また、新たな診断基準は、それを英訳して諸外国でも調査してもらうプランを厚労科研の申請書には書いています。特に、韓国ではアトピー性脊髄炎の患者さんが多いことが昨年のPACTRIMS(アジアの多発性硬化症の学会)の総会でポスター発表されていましたので、韓国の神経内科医と共同調査できるといいがなあと期待しています。なんとかして英語の診断基準を欧米のジャーナルに載せ、本疾患が欧米でももっと広く認めてもらえるようになることを願っています。次のパラリンピックは3年後なので、それまでになんとかしたいですね。