基礎科学の成果に基づく臨床医学のパラダイムシフト:神経内科も診断から治療の時代に

------神経内科や脳に関心がある研修医・医学生の皆さんへ(平成21年6月6日)】

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スライド32
スライド32

 九大病院ブレインセンターには、脳磁図をはじめとして様々な最先端の臨床神経生理学的検査機器が備えられています。脳磁図、多極脳波、各種の大脳誘発電位、神経伝導検査、筋電図が常時行なわれ、日常臨床に大きく貢献しています。

スライド33
スライド33

 加えて、9月の外来棟開設にあわせて、神経超音波室に循環や発汗などの自律神経に関する機能検査装置(連続血圧・血行動態測定装置Finapresおよび定量的発汗軸索反射測定装置)が導入され、一層の充実が図られる予定です。このブレインセンターは神経内科臨床のコアであるのみならず、基礎脳科学と臨床神経学を結ぶトランスレーショナルリサーチのセンターとしても大きく期待されています。(スライド32、33)

スライド34
スライド34

 

 このブレインセンターの脳磁図を用いて、てんかん発作波焦点の解析が進められています。てんかんの焦点からの発作波の拡がりは、外科手術時に脳の表面に多数の電極を置いて測定されていましたが、教室の金森、重藤らにより脳磁図を用いて安全に体外からてんかん発作波の脳の伝播がミリセカンド単位でとらえられるようになってきています。(スライド34)

スライド35
  スライド35

 このように、九大病院のブレインセンターや九大医学部の脳神経病研究施設をコアに基礎脳科学の成果を臨床神経学へ橋渡しするトランスレーショナルリサーチが強力に進められつつあります。神経生理学、神経放射線学、工学、蛋白化学、遺伝学、神経生物学、免疫学などの専門家と連携した研究が展開されています。(スライド35)

スライド36
スライド36

 

脳の機能や神経の病気に関心のある若い人は、ぜひ九大神経内科の門を叩いて、神経内科の専門医をめざすとともに、明日の医学を拓く大学院での研究にチャレンジしてほしいものです。(スライド36)

スライド37
スライド37

 神経内科で扱う病気は、よくあるありふれた病気からまれな病気まで多岐にわたっています。多いものでは、頭痛、脳卒中、認知症、てんかんなど。稀れだけれども根治療法がなく重い後遺症を残す神経難病、筋ジストロフィー、遺伝性の神経病も神経内科医がもっぱら診る疾患です。(スライド37)

スライド38
スライド38

 ここで、本稿でまだ触れていない神経内科における脳卒中診療について述べたいと思います。昨年4月から頚動脈ステント留置が医療保険で認められるようになり、我が国でも頚動脈内膜剥離術に代わって広く行われるようになりました。これまでは脳外科医や神経放射線科医が脳血管内外科専門医資格をとって、頚動脈ステント留置などの脳血管内治療をもっぱら行っていました。まだ少数ですが、神経内科医のなかに、脳外科などで修行してこの脳血管内外科専門医資格を取る人が出てきました。当医局でも昨年に一人取得し、来年、さ来年と受験者が続きます。神経内科専門医をとって、脳卒中専門医をとって、さらに脳血管内外科専門医をとるわけですから、丸10年かかります。脳血管内外科は、血行再建と塞栓術に大別されます。神経内科医が主として関わるのは、血行再建の方です。スライドには狭窄した頚動脈にステントを入れて拡張しているところを示しています。(スライド38)

スライド39
スライド39

 このスライドでは、急性期脳梗塞患者さんで、静脈から投与するtPAという血栓溶解剤の適応がなかった例で、脳血管内外科手術により血行を首尾よく再建できた例を示しています。いずれも済生会福岡総合病院脳卒中センター神経内科の症例です。ここには当医局から神経内科専門医4名とレジデント2名の合計6名を派遣していて、脳外科と協力して脳卒中ケアユニット(SCU)を運用し、高度の脳卒中急性期医療を行い、また高い収益をあげてもいます。当医局の関連病院では、福岡市民病院脳卒中センター神経内科や飯塚病院脳卒中センター神経内科などに人材を集約して高度の急性期脳卒中診療に取り組み、大きな成果をあげています。今年から脳卒中が専門の神経内科医が2名、当教室の大学教員になりましたので、大学病院神経内科とこれらの救急病院神経内科とで連携した脳卒中の共同研究を始めたところです。これからは、神経難病、認知症、脳卒中、てんかんを当教室の4本柱として、臨床と研究を強力に進めていきたいと考えています。(スライド39)

スライド40
 スライド40

 九大神経内科の基本的な診療方針は、どんな麻痺でも診ますということ。脳卒中だけしか診ないというところもありますが、麻痺をえり好みするのがいいとは思いません。脳卒中から神経難病まで幅広くどんな麻痺、運動のみならず、感覚、自律神経、高次脳機能の麻痺まで、どんな原因の麻痺にも対応することが大切です。そのような神経内科医を地域の病院では求めていると思います。そのためには、神経内科を志す人は若いうちにタイプの異なる専門病院、たとえば、救急病院、市中病院、慢性期病院、筋ジス病棟など、いくつかをローテートして、神経内科の異なる専門分野の指導者について幅広く勉強する機会を持つことが大事です。卒後なんとなく居心地がいいので一つの市中病院で後期研修を続けても、神経内科の様々な領域を幅広く学ぶことはできません。 (スライド40)

スライド41
 スライド41

 

 そして、どんな患者さんでも見捨てないということが大切です。このスライドは、人工呼吸管理下の全身の全ての筋肉が麻痺した筋萎縮性側索硬化症の患者さんの自宅療養生活を示しています。このような看護・介護の手間がかかり、医療看護報酬も低い患者さんはどこの病院でも長期入院を受けてくれません。自宅での療養生活も介護者の高齢化や病気により介護破綻に陥ることがしばしばです。そのようになった場合、自宅の近くの病院で長期入院を受け入れてくれるところはほとんどないのが、我が国の現状です。(スライド41)

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