【回診と夢のレンズ (平成21年10月31日)】

 今年は外国人Neurologist(神経内科医)の回診に、米国から2人の方に来ていただいた。8月にCleveland ClinicのRansohoffさん(Professor, Department of Neurology)と10月にUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のCreeさん(Assistant Professor, Department of Neurology、Creeというとアメリカインディアンのような姓だけれど、オリジンはスコットランドということ。元々Creeというのはスコットランドでは以前からある姓で、むしろアメリカインディアンがCreeという姓を後で採用したのだと彼は言う)に、病棟回診ということで患者さんをそれぞれ二人ほど診てもらった。ふたりとも研究はすばらしいのは前から知っていたが、それだけではなくて臨床もしっかりしたものだった。CreeさんはGeneticsでPhD(博士号)をもっているphysician scientistであり、American Academy of Neurology(AAN)の教育委員も務めている。これまでにも毎年2人くらい外国人教授に病棟回診していただいているが、たいがいの人は言葉の壁があるので、患者さんへ直接質問することはあまりしない。ところが、Creeさんは、実に詳しく質問をした。その点にまず感心した。それを翻訳して患者さんに伝える病棟医長や主治医は大変だったと思うけれど。診察も系統的でもれがなかった。温度感覚をみるときには、アルコール綿で音叉を湿らせてサット振って乾かしてあてていたが、こうすると確かに温度が下がって簡便に冷覚をみるにはいいかもしれない。Creeさんはまだ若いassistant professorにすぎないが、MSの遺伝学の第一線で研究を続けながらAANでの教育も担当していて、米国の一流大学で教員をやっている若いNeurologistはあなどれないね。

 回診者にとって年をとってきて困ることは、腰痛と老眼。うちでは最初にその週の新入院患者さん9人くらいを続けて診ますが、診察用のベッドの高さが低いので、立ったままで7、8人もフルに神経学的所見をとり続けると腰にこたえる。患者さんのベッドは概ね高さが低いので、回診の際には前かがみにならざるをえません。31歳のときに病棟副医長になり病棟回診に関わるようになって以来、もう20年以上病棟回診をやっているせいか、僕は腰痛もちになった。午後1時45分から主治医による新入院患者紹介を1時間ほどやってもらい、新入院患者さんを診察して、さらに病室を回って入院患者さんを全て診ていくと、午後7時は過ぎてしまう。回診後に1時間ほど症例検討や医局会、説明会があるので、午後8時前には診察を終了しないと午後9時の消灯前に終わらない羽目になる。5時間ほども立ったまま診察し続けると結構な運動である。腰も痛くなるはずだなあ。

 老眼で困るのは、瞳孔の対光反射がよく見えないこと。5年ばかり前に初めて老眼鏡を作ったのも回診のときに瞳孔反応が見にくくなったためである。普通の近視の眼鏡に加えて老眼鏡を持ち歩かないといけないのはとても不便。回診のときに一々瞳孔をみるときだけ老眼鏡に変えるのも面倒なので、回診の際には最初から老眼鏡をするようにしている。ところが、電子カルテになってからフィルムレスなので、新入院の患者さんのMRIなどはスクリーンに映してみんなで見るようになった。そうすると今度は老眼鏡ではよほど前にはり付かないとスクリーン上のMRI写真の細部がよく見えない。
以前、遠近両用の眼鏡をためしたことがあるが、左右に視線を振ったりすると像がゆらゆらゆれてめまい状態になり、とてもじゃないけどしておれない。それで遠近両用は敬遠していたが、最近、愛眼グループが遠近の境目が滑らかで視線を動かしてもゆれない夢のレンズというのを作って宣伝しているので、それを試してみることにした。この夢のレンズというのをしてみると、確かに遠くはよく見えるうえに近くもよく見えて視線を動かしたときのめまい感もない。これはすごいと感じたので、通常の倍の値段を出して購入した。11万円くらいかかったか。これでもう回診の時に老眼鏡を持ち歩く必要はないと喜ぶ。

 ところが、数日するうちにまず遠くが見えにくくなった。さらに近くを見ているととても疲れる。終いには、近くも見えなくなった。これはレンズの厚みを調節している眼の筋肉が怠けものになったためかと思って、眼科のイシバシ教授に眼の筋肉を鍛えると少しは老眼にもいいということはないでしょうかと尋ねると、全く意味がないというつれない返事。で、書類仕事やパソコンなどは前の老眼鏡を使う。外出するときは前に使っていた近視の眼鏡を使う。回診のときだけはこの遠近両用を使う。結局、持ち歩く眼鏡の数が一個増えただけという結末に。なかなかうまくいかないね、全国各地の教授の方はどうしているのかしらん。

 僕は回診のときは、システマティックにみて漏れがないかという点と、できれば主治医と異なる見方を提示するという点に留意している。回診のときにちょっとの時間みただけでは、なかなか全体像を深いところまで掘り下げることはできないので、問題点を指摘しておけば、あとは主治医と病棟医長・副医長が解決してくれるものと信じている。

 来年度は10月にブラジルの神経内科の若手教授にきていただく予定である。もう一人くらい来てもらえるといいんだが。もちろん外国人以外にも日本の他大学の教授にも毎年どなたか回診をお願いしているので、よそではこんなふうに患者さんを診ているんだなあと勉強にはなる。ついでに老眼にはどういう対策をしているか聞いてみよう。

 

平成21年10月31日
吉良潤一