【台南行 (平成22年5月5日)】


写真20
写真20。台湾大学講演会終了後に、記念撮影。
左から、楊先生、私、呉先生、蘇さん。

 主任教授(Chairman)は医学部と病院にそれぞれいて、完全な二本立てである。蘇さんの病院のChairmanは女性でWu(呉)先生(神経部主任・医学院教授)という(台湾では女性医師が活躍しておりChairmanになっている人も多い)(写真20)。台大病院では講演とカンファレンスで2時間も時間がとってあった。講堂には、ベテランから若手まで多くの方が来てくれた。ただ、どういうわけかプロジェクターはあるがパソコンがない。どうするのかと思っていると、開始時間の数分前になってパソコンを貸してくれという。USBだけでなくて、万が一のときのためにパソコンを抱えてきてよかった。ケーブルも運よくつながって無事に講演スタート。(学会の方でもパソコンを持参してプロジェクターに繋いだが、心配していたように変なウイルスが感染するはめに。)


 学会での講演は専門家の集まりなので、むしろ楽チンだが、大学での講演は専門家以外も多くてレベルが一定でないため、わかる人にはわかるという感じになりがちで難しい。講演自体よりは、その後のケースカンファレンスの方が病院の講演ではやはり盛り上がる。3症例ほど、スライドをつかって病棟医が呈示し、疑問点もスライドにまとめてあり手際がいい。患者さんの診察があるときは大変だけれど、今回はスライド呈示だけなので、僕も言いたいことを言う。外国に呼ばれていったときは、学会では講演、大学病院では症例カンファレンスというのがいい。こっちの実力も試されているわけだが、僕自身にとっても身になり、お互い勉強できる。プレゼンした病棟医のレベルは高く英語も上手。台湾大学はさすがにあなどれない。

写真21
写真21。学会会場入り口で。

  学会自体は、南台科技大学で開かれた(写真21)。僕の講演も、502号教室という大学の普通の教室が会場である(写真22)。 いたって質素。40分の講演時間であるが、立ち見も出て講演後の質問が続き、こちらもゴールデンウィークをつぶして来た甲斐があったというもの。台湾神経学会の会員は、1400人ほどであるという。専門医は600人くらいで、学会の出席者は400人余りであると聞いた。台湾の人口2300万人からすると、人口あたりの神経内科医は日本よりはやや少なめの計算になる(台湾では1人の専門医で3.8万人をカバーすることになるが、日本では1人の専門医が2.4万人をカバー)。台湾では数年前から、病院の先生の外来予約は全てインターネット制になった。

写真22
写真22。講演の模様。大学の普通の教室で。

 たとえば、楊先生や黄先生クラスでは、一日50枠をインターネットで予約を受け付け、1ヶ月半くらい先まで埋まっているという。大学病院の先生に診てもらうのは1000円くらい高いだけというから、インターネットで予約できれば、大学病院の人気のある先生に集中するのは当たり前といえる。台南あたりからでもMS患者さんは台北の楊先生に診てもらいにくるという。まあ2時間もあれば高速鉄路で、台湾の南端からでも台北に着くというから無理からぬことである。その一方で、評判の悪い先生には閑古鳥が鳴くことになる。(まあ、厳しいといえば厳しい社会ですね。)また、学会の理事も会員全員の投票という。理事長は理事の投票で決まる。(いたって民主的ですね。)


写真24
写真24。庭園はとても日本式とは思えないが、
気持ちよく夕涼み。

写真23
写真23。ディナー会場は日本庭園晩餐と書かれている。


 日本の学会の会長招宴にあたる学会ディナーは、別の大きなホテルで開かれ(写真23、24)、だれでも登録すれば参加できるという。テーブルに参列者名も書かれていないので、どこに座っていいかわからずに入り口近くの席に座っていると、一番前のテーブルに連れて行かれた。なんと僕の席は、台湾の元厚生大臣の隣である。確かにそこだけは主賓と書かれた札が一つだけ置いてある。でも学会プログラム集によれば、欧米からの招待講演者も含め顔写真入りで紹介されていたのは5人くらいいたはずだが、ウゥーーン、だれも出てきていない。大臣と何を話したものかと悩みつつ挨拶すると、元大臣は日本語がペラペラである(写真25)。

写真25
写真25。元厚生大臣の施先生を中央にして。

88歳の元大臣は台湾で最初の脳外科医で、九大脳研の初代脳外科教授故北村勝俊先生のご友人であった。僕は台湾の神経学会は、台湾大学神経科の洪(Hung)教授が初代の設立者かと思っていたら、実はこの施純仁(シジュンジン)先生が、脳外科医でありながら台湾神経学会の初代理事長で、その創設者であった。施先生は、壇上でのご挨拶の後にドイツ語と日本語の歌をそれぞれ大きな声量で歌われた(日本語のは、てんてんてんまり、てんてまりーというやつである)(写真26)。

写真26
写真26。施先生は、てんてんてんまりーと豊かな声量で歌われる。
とても88歳にはみえない。

 洪先生は日本の黒岩先生に相当する人であるが、その上の世代の人が元気でいるとは驚いた。Neurologistとしては台湾の第1世代になる洪先生にしてからが、いまだに台大病院に出てきて若い医師を教えていると聞く。台湾の人は年を取っても元気がいい。正面にすわっている台湾脳外科学会のChiu(邱)理事長先生は、九大脳外科の池崎先生(元講師、国際医療福祉大学教授)の親しい友人という。私を公式に呼んでくれた台湾臨床神経生理学会の黄理事長とその先輩の前理事長のChu(朱)先生(ChangGung Memorial Hospital栄誉副院長、台湾神経医学雑誌主編Editor-in-Chief)は、九大神経内科出身の柴崎浩先生、辻貞俊先生、柿木隆介先生、九大脳外科出身の田中達也日本てんかん学会理事長などと旧知の間柄であった。台湾の古い世代の神経内科の方々が、故黒岩義五郎先生のことをよくご存知であることはいうまでもないが、九大脳研と台湾神経学会とは脳外科や神経生理関係で付き合いが長かったのね(写真27)。


写真27
写真27。左より、蔡先生、私、朱先生、林先生(台湾臨床神経生理学会
新理事長)

 九大脳研は臨床神経生理の分野で多くの人材を輩出し大きな山脈となっている。ぜひ九大脳研の若い世代の人には頑張ってほしい。九大も病院にブレインセンターが開設されて臨床神経生理研究のハード面は日本でもトップレベルによくなった。ソフト面でも、最近、萩原君の脳磁図(MEG)の仕事がNeuroimage誌(IF6.884)に掲載された。上原君の機能的MRIや金森君のMEGの研究も具体的な方法や中身は、僕には全く理解できないが、教室のリサーチセミナーで聞いた研究結果はとてもおもしろい。東大生理でヒトの脳の機能的MRIを研究した論文がJ Neurosci誌(IF8.122)に採用された山下君も神経内科の教員でもどってくるから、ぜひみんなで力を合わせて第2の山脈を築いてほしいものである。




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