【シバタさんの開業 (平成22年5月15日)】

  飯塚市は、福岡市から東に約30Km、車で40〜50分ほどの距離にあります。福岡県の約1/4を占める筑豊地方の中核都市で、麻生太郎前首相のお膝元です。筑豊地方はかっては炭鉱で栄え、その名残のボタ山もあちこちにみられます。炭鉱は今では全て閉山し、福岡県下では過疎化・高齢化に悩む地域といえましょう。また、遠賀川の川筋の気性の荒い土地柄でもあります。この飯塚市(人口13万人)に初めて神経内科クリニックが誕生しました。柴田みえこ内科・神経内科クリニックです。飯塚市で初めてであるばかりか、飯塚市、嘉麻市、嘉穂郡桂川町をあわせた嘉飯山(かはんざん)地区(人口20万人)で初めての神経内科クリニックです。筑豊地方には、田川市に1軒、直方市に1軒しか神経内科のクリニックはなく、3軒目ということになります。まことにおめでたいことです。飯塚市で唯一の総合病院神経内科である麻生飯塚病院神経内科の支部ができたような感じです。

 この5月8日に飯塚市で開業のお祝いの会があり、招かれて行ってきました。驚いたことに、柴田さんの出身大学である金沢医大の前医学部長の大原義朗先生(微生物学教授)も遠路お見えになっていました。柴田さんの学生時代の部活の部長であった縁でみえられたということです。大原さんは同じ神経免疫の領域で20年来の酒飲み友達です。その大原さんから、「今度うちを卒業するシバタというのが九大神経内科を見学に行きたいと言っているのでよろしく」との電話がかかったのは、もう8年ほど前になるでしょうか。お会いしてみると、とても前向きな明るい方ですが、新卒のわりには少し年をくっているような印象(失礼)。実は、彼女は看護師になり、助産師になり、保健師になり、そして結婚して、それから医学部に入ったという異色の経歴の方でした。

 他大学から九大神経内科を見学に来たいという方はよくおられます。そんなときには医局長が気を利かして、木曜の回診日に見学を設定します。午前中は外来や病院のブレインセンターを見学し、午後は1時半からの回診に付いてもらいます。帰りの交通の便もありますので、途中で帰る方が多いのですが、なかには最後まで付き合う人もいます。シバタさんはこちらが地元なので後者の口ですが、回診があまりにも長いので途中で気分が悪くなって吐いてしまいました。たいがいこんな事態になると気が引けてしまって入局しないことが多いのですが、幸いこのときは誰にでもやさしい人格者の村井君(前講師、現飯塚病院神経内科主任部長)が看病にあたってくれたおかけで入局になり、今日に至ったわけです(つい先日も佐賀大から女子学生さんが2人見学に来ていましたが、回診が午後9時ちかくまでかかったので、最後に一言見学のあいさつをされた時には疲れきっていたような感じでした。うちに入ってくれるかなあ)。

 ところで神経内科の専門医試験に合格するためには、覚えないといけないことが無数にあります。試験の前1ヶ月でメチャクチャ詰め込んで、試験が済むとすぐ忘れてしまうといった類の知識も少なからずあります。これは、神経内科はコモンな病気もたくさん診る一方で、生涯に1回も遭遇しないような稀な病気が腐るほど神経内科領域にはあることによります(これは試験のときだけ覚えていて、あとで忘れても別に支障はありません。日常診療上不可欠な知識というわけではなく、必要になったら調べることで十分対処可能だからです)。でも試験の前には大量の知識を覚えこまないといけません。だいたい人間は30歳を過ぎると新しい知識を記憶する力は大幅に落ちてきます。40歳を過ぎての専門医試験は大丈夫かなと心配していましたが、福岡県でも1、2を争う急性期病院である飯塚病院神経内科の激務の傍ら受験し、見事合格したときは、関係者一同大喜びしたものです。これには本人の努力と周囲の理解(ご主人と勤務先の飯塚病院神経内科スタッフのサポート)が大きかったものと思います(まあ、九大神経内科の研修システムにのって同期の人たちといっしょに切磋琢磨すれば、たいがいの人は通ります)。臨床であれ研究であれ、仕事はどんなことでも手抜きせずに全力を尽くすことが大事。そうすれば自分の夢に向かっての道も拓けるというものです。

 開業祝いには麻生前首相は都合があえば来られたのかもしれませんがみえず、このときは県議の方がお祝いの言葉を述べられました。ところが、どういうわけか、この人は飯塚市で初めての心療内科と3回も言われました(最後まで神経内科とは一言も言わなかったなあ)。その前に私と大原さんが挨拶して何度も神経内科と話したにもかかわらずです。本当にガックリきますが、日本では大都会を別にすれば、一般の人にとっては神経内科と心療内科の区別は、まあどっちがどっちという感じでしょう。柴田さんも開業に際して、「うつ」の方からよく電話がかかってくると言っていました。

 病院らしくないエステティックサロンのような雰囲気にしたかったということで、院内に足を踏み入れると、とても明るく温かみがあります。シバタ、よくやったという感じ。クリニックにはリハビリやデイケアも併設されています。柴田さんは、これまでに看護師、助産師、保健師と様々な経験を積んできていますから、これから地域でますます必要とされる医療・介護・福祉の連携に最適な人といえましょう。神経内科の守備範囲は、認知症、脳卒中、神経・筋難病から頭痛・めまい・てんかんまでまことに幅広く、高齢地域社会でのニーズは極めて高いものがあります。神経内科は、これから病・診連携、診・診連携のコアになるものと期待されます。医局から開業する人もだんだんに増えてきました。大学病院、関連の急性期病院・慢性期病院で幅広く経験を積んで地域で開業されるのは、大変喜ばしいことです。関連病院との連携、医師会との橋渡しを大いに期待したいものです。

 患者さんは医師を選べますが、医者は患者さんを選ぶことはできません。モンスターペイシャントだなあとわかっても診ざるをえないこともあります。医学の進歩や権利意識の高まりとともに医業は難しくなるばかりです。ですが、逃げずに続けることが大切。なにごとも誠意をもってあたれば、なんとかなるものと思っています。神経内科医としての充実は、診療のなかにしかありません。柴田さんなら患者さんにやさしい診療を実践してくれるでしょう。まあ、あと10年もすれば、飯塚市で神経内科と心療内科を間違えるような人はいなくなるものと信じています。

写真1
写真1。柴田さんのクリニックの全景。スーパーの跡地ということでクリニックも駐車場もとても広々としている。

 

写真2
写真2。受付。壁の時計は神経内科からのお祝い(といっても本当はその一部くらいですが)。

 

写真3
写真3。開院式当日。明るい室内。病院のような白い色は避けたということ。

 

写真4
写真4。4. リハビリ室。後ろに入浴室があり、肢体不自由な方でも通院で入浴できるようになっている。デイケアとも隣接して便利。

 

写真5
写真5。処置室。何に使うのかとても広い。その奥に電気生理検査室がある。CT室もあり。柴田さん自らCTを撮影していると聞いた。

柴田みえこ内科・神経内科クリニック★福岡県飯塚市

 

平成22年5月15日
吉良潤一