学術と交流:学術大会のあり方について(平成25年12月16日)】


 自転車を漕ぎながら大学に通っていると、花柊の香りがします。同じモクセイ科の金木犀よりはまろやかで馥郁とした香りです。今年も師走となりました。

 第55回日本神経学会学術大会の一般演題締切も今週いっぱいです。まだ293題の登録しかないので、福岡の開催で十分な演題数が集まるか、さすがに僕も心配しています。参加者が少ないと参加料がそれだけ減るので、主催者としては収支バランスが気になるところです。第55回大会の準備は開催の1年前から事実上スタートしますが、その準備資金はというと、その前の第54回大会の余剰金で賄われています。したがって、第55回大会が赤字だと、第56回大会の準備にこと欠くことになり、次の西澤大会長(新潟大学神経内科教授)に申し訳ないことになってしまいます。

 今回は、Keep Pioneeringという当教室の初代教授の黒岩義五郎先生の第一のモットーをテーマに掲げ、日本語で「神経内科創設の志の継承と飛躍」との副題を付けました。九大神経内科も設立以来、丁度半世紀を迎えました。このテーマは創設の熱気を再体験し、次の半世紀に向けた新たな歩みを刻み始めましょうという趣旨です。そこで、本大会では名誉教授の先生方に「私の○○○○学」という形で、ご自身の神経内科医・神経学者としての人生を語っていただくセッションを設けました。名誉教授の世代は、神経内科創設に関わった方々でもあるので、当時から今日につながる軌跡を語っていただきたいと考えています。その一方で、神経内科に入局するか決めていない若い人たちにも神経内科を体験してもらいたいという思いから、医学生・初期研修医セッションを設けました。若い方から名誉教授の方まで幅広く参加いただいて交流するチャンスが生まれることを期待しています。今回は名誉教授の方にもしっかり働いていただき、半世紀ほども離れた世代間で何がしかが継承されるといいですね。(ぜひ先生方の施設に来ている医学生や初期研修医を学術大会に誘ってください。これらの方の参加は無料としています。)

 学術大会は、一般演題が命です。一般演題の目標は、1400題としています。特に今回は2017年に世界神経学会を京都に招致することが決定しましたので、アジアを中心に海外の方を多くお呼びするということが、学会方針として決まっています。1400題のうち15%程度を英語セッションにすることを目指しています。したがって、210題程の一般演題が口演、ポスターを含めて英語セッションに応募されることを期待しています。しかし、実のところは一般演題への外国人の応募は、招待者を除くと第53回大会で10題、第54回大会で9題に過ぎず、全て日本に留学中の外国人学生によるものです。海外からの参加者が日本の学会へ参加することをためらうのは、言葉の壁と物価の壁によります。そこで、海外からの参加者のことも考えて、4日間終日英語セッションを同じ2会場で設けることにし、大会長講演や特別講演には英語の同時通訳を付けることにしました。僕の大会長講演は、まあどうでもいいようなものですが、特別講演のペシャワール会の中村哲先生のは、ぜひ英語の通訳で海外の方にも聴いていただきたいと考えています。ただ、福岡には医学英語の同時通訳ができる最上級クラスの方がおられないということで、関西からの呼び寄せで、しかも通訳2人で1チーム、1日3時間までとなっており、料金も高額で頭が痛いところです。もう一つの壁に関しては、海外からの一般演題応募者100人(一人10万円)、日本に留学中の外国人応募者50人(一人5万円)にトラベルグラントを出すことを学術大会運営委員会で認めていただきました。この点は、細かい点まで支出に厳しい財務委員長の辻省次東大教授がよく認めてくれたものだと思います。たぶん世界神経学会が京都に来ることが決まったノリで認められたんでしょう。(ぜひ先生方がご存知の海外の方や自施設に来ている海外留学生に、一般演題に応募してトラベルグラントをとるよう誘ってください。高い確率で当たります。海外からの留学生は参加は無料ですし、海外からの一般演題応募者もトラベルグラントに採用になると学会登録料も3000円と格安になります。)

 一般的にいうと、演題発表での討論はサイエンティフィックで厳しいものであった方がよいと僕は思います。これは基礎医学であれ臨床医学であれ、医学者として発表しているのだから当然といえます。しかし、議論の後は所属施設の枠を越えて親しく交流するのに、僕は賛成。特に海外からの方も多く呼びたいので、いくつか交流のセッションも企画しました。わざわざ海外から物価の高い日本のドメスティックな神経学会に初参加することになるわけですから、言語の壁のある外国人にとっても充実したいい会だったと感じられるものにしたいと願っています。それは神経学会の財産になると思います。学術大会の余剰金を有形の財産としてたくさん学会本部に入れるのがエライ大会長だという考え方もある一方で、いい学術大会だったという感想を多くの海外の方に持ってもらうのは無形の財産と言っていいでしょう。

 ただ、神経学会の多数を占める一般病院勤務の神経内科医や、開業しておられる神経内科医にとっては、英語セッションなんて関係がないという思いもあるでしょう。もちろん、英語セッション以外は、英語での発表も英語でのスライドやポスターも強制はしていません。全て日本語でOKです。教育講演ベーシックや治療ガイドラインシリーズ、異分野との融合セッション、Progress of the Year 2014など、日常臨床に役立つところから神経関連科学の最新の進歩までコンパクトに学べるよう企画しています。生涯教育セミナーはレクチャーもハンズオンも、参加者の利便性を考えて、第1日目と第4日目(土曜日)に分割するようにしました。将来は開業の先生方のことも考えて日曜日に生涯教育セミナーを開催することも必要でしょう(今回は日曜日は会場を取っていないので、そこまではできませんが)。英語セッションに応募した人も、英語ばかりでは疲れるし、日本語で自分のあまり専門でない分野はコンパクトに進歩を吸収したいという気持ちはあると思いますので、教育セッションを日本語でわかりやすくすることは大事と考えています。また教育セッションの多くは演者の了解が得られれば、スライドと音声を収録し、学会会場内でも30台のパソコンでオンデマンドで講演収録1時間後から視聴できるサービスも実施する予定です。もちろん、第55回学術大会後にはUMINを利用したオンデマンド配信で、第53回および第54回大会収録分と同様に教育コンテンツとして無料で視聴できるようになります(このあたりは神経学会教育委員長として整備してきた点です)。学術大会全体としてみると日本語と英語のバランスをうまくとっていくことが大切で、現時点では全プログラムの15~20%を英語とするのが適切なラインではないかと考えてプランニングしています。

 ここで、いくつか交流的な企画を紹介しますと、まず初日のレジデントクリニカルトーナメント。これは第1日目に専門医試験を目指す若手のための専門医育成教育セミナーが従来通り組まれていますので、レジデントの方にレジデントチームを作ってもらい、レジデントセッションでの口演発表(ポスター発表も別途あり)後に、大学医局・一般病院対抗でクイズ大会をやろうという趣向です。一番広い会場を使って、予選をできれば100チームくらいでレスポンスアナライザーを使ってやって本選10チームを選び、最終戦は壇上でやってもらおうかと計画しています。American Academy of Neurologyではこの手のレジデントトーナメントを盛大にやっていますし、日本でも外科学会などはもっと華々しくやっています。日本の神経内科もこれくらいやって、日ごろ病棟勤務で忙しいレジデントクラスを盛り上げてはどうかと僕は思います。優勝チームにはThe Strongest Neurology Resident Team 2014 Awardを進呈します(一人一人への賞とチーム全体への豪華副賞を贈る予定)。外科学会は、外科手術関係の問題以外にも芸能関係も一部入れて優勝チームを絞っているようですが、神経学会では神経内科に関わるクイズオンリーでないとクレームが出そうな気もします。クイズ問題は今から学術大会事務局で作成しますが、正解の判定は外部の教授に委託する予定で、専門医試験を作るよりも大変かもしれません。なお、このセッションはワイン・チーズ付きなので、教授、部長クラスの方々は、自分のところのレジデントチームの活躍あるいは不甲斐なさをワイン片手に高見の見物といきましょう。トーナメント後は、ウェルカムレセプション(Kyushu Night)で、海外の方ともいっしょに九州の地元の焼酎でも飲んで大いに盛り上がりましょう。エントリーチーム名と所属は、ホームページ上で見ることができます。既に2チーム応募があっています。チームは3人が基本ですが、入局者やレジデントが少ないところもあると思いまして、1チーム2人でも応募できるようにしています。一人が複数のチームに属することはできませんが、同じ施設から何チーム応募してもかまいません。まあ気軽に応募してください。レジデント(会員)は学会参加料は必要ですが、レジデントクリニカルトーナメントのエントリー自体は無料です。

 学会2日目の昼から3時間の予定で、博多湾のマリエラクルーズを企画しています。5月の博多はとてもさわやかで、学術大会は一番降水確率が少ない週を選んで設定していますので、昼食を兼ねて海外の方と交流しましょう。僕はこの8月にクルーズに行きましたが、昼食も含めて3時間くらいがリフレッシュできて丁度いい感じでした。デッキ1(こちらが下の階)は100名、デッキ2(上の階)は50名の予定。これは、Female Neurologists in the World Session Part 2と、Meet the Expert Session Part 1にあたります。Femaleの方は前日(第1日目)夕方にPart 1として英語シンポジウムで、日本、台湾、タイ、フィリッピン、インドネシア、ナイジェリアの若手から学会理事長クラスまでの女性神経内科医に、各国の女性神経内科医の環境やキャリアーでの苦労などを話していただく予定です。その翌日に交流会をマリエラクルーズで少しワインでも飲みながらもちましょうというところですね。フィリッピン以外はそんなに英語が達者なわけではありませんから、日本人女性も気後れしないで、むしろリーダーシップをとって交流を進めてほしいと思います。レディーファーストで眺めのよいデッキ2をこちらに振っています。なお、Femaleのセッションは、関心のある男性の方ももちろん参加できます。外国人の方は無料です(座席に限りがありますから事前登録は必要です。ポスターセッションの発表と時間帯が一部重なりますので、こちらへの参加者はポスター発表とかぶらないよう配慮する予定です)。日本人の方は、一律2000円いただきます(女性は大幅に値引きすることを提案しましたが、荻野さんにあっさり結構ですと言われました。先着順になります。)。デッキ1でのMeet the Expert Part 1では、チリ出身で九州大学神経内科の大学院で学ばれた米国のLüders教授(クリーブランドクリニック)が自身の神経内科医としての人生を語ってくれることになっています。その夜のMeet the Expert Part 2では、英語セッションで、園生教授(帝京大)、藤原教授(東北大)、古谷教授(高知大)に、それぞれの領域でCase Presentationをしていただき、海外のプロフェッサーやレジデントにアンサーを求めることを企画しています。

 学会3日目には、神経学会学術大会史上初めて、telemedicineをやります。九州大学にはアジア遠隔医療センターがあり、世界の32ヵ国207医療機関と光ファイバーや高速インターネット回線を結んでおり、リアルタイムで外科手術などの遠隔医療や遠隔教育が実施されています。内科ではほとんど行われていないのですが、神経内科はてんかんや不随意運動などビジュアルかつ治療可能なものがありますので、遠隔医療、遠隔教育に向いていると思います。日本、台湾、韓国、タイを結んで、てんかん、不随意運動のtelemedicineを実施します。米国クリーブランドクリニックのLüders教授、九大臨床神経生理の飛松教授、徳島大神経内科の梶教授、九大神経内科の重藤診療准教授にオーガナイザーになっていただいています。アジアでは神経内科診療がまだ不十分な地域が少なくなく、telemedicine、tele-educationが貢献できることも多いと思われます。なお学会最終日(第4日目)には英語セッションで、Education of Neurology in Asiaと題して、アジアの神経内科教育をtelemedicineも活用して協力してやっていこうというシンポジウムをもちます。

 学会第3日目のtelemedicineに続いて、Asian and Oceanian Association of Neurology (AOAN)現会長のMan Mohan Mehndiratta教授にお話しいただいた後に、特別講演としてアフガンで活躍しておられるペシャワール会の中村哲先生にご講演いただきます。僕は中村先生には33年前に大牟田労災病院神経内科で1年間臨床神経学を教えていただきました。当時、中村先生は、「大学なんか早く辞めろ」が口癖でした。図らずも僕はいまだに大学にいますので、相手にしてもらえませんね。講演で盛り上がった後は、Asian Nightと称して博多ベイサイドエリアでの全員懇親会をもちます。港に屋台も出しますから、楽しんでいただいて海外の方とも交流していただければと思います。

 学会最終日には、Hachinski先生にclosing lectureとして、World Neurology: its Horizon and Beyondとのタイトルでご講演いただきます。その後の閉会式で、英語セッションの優秀演題表彰と医学生・初期研修医セッションの優秀演題表彰を行います。神経学会会員の方は、一般演題に英語セッションで応募されると、もちろん神経学会の優秀口演・ポスター賞の対象にもなりますし、英語セッションでの優秀口演賞・ポスター賞の対象にもなりますので、倍のチャンスがあります。会員の方で英語セッションを経験したいという方はぜひこちらに一般演題を出されてください。

 学会場のすぐ隣ベイサイドには天然温泉、波葉の湯があります。僕はまだ入ったことはありませんが、会場での頭の疲れを癒すにはいいかもしれませんね。ぜひ大勢の方にお越しいただいて、学術と交流をともに楽しんでいただければと願っています。

平成25年12月16日
吉良潤一