【異動の季節に:学術大会の国際化と神経内科への入局勧誘の狭間で思う(平成26年3月28日)】


 

 ソメイヨシノが福岡では3月27日にもう満開となりました。4月3日の新人歓迎のお花見会までには散ってしまうかもしれません。

 ところで第55回日本神経学会学術大会の準備は予想以上に大変です。一般演題には、全体として1672題と過去最多の応募をいただきました。これまでより約200題も多い数です(福岡での開催なので、10数年ぶりに発表しますとかいう声を聞くと、人のつながりが本当にありがたいと感じます)。このうち英語セッションには186題の応募がありました。海外からの一般演題応募も、表に示すように10の国・地域に及び、111題の応募がありました。これまでに100題を越える海外からの一般演題応募があったことはありません。実は10題未満というのが過去の実績なのです。したがって、これは画期的なことといえます。不採用・取り下げ演題を除いても、最終的に一般演題は1656題が発表される予定で、うち一般演題英語セッションは177題と、全体の10.7%を占めます。おかげで、学術大会の4日間を通じて、2ないし3会場で終日英語セッションを設けることができます。2017年には、World Congress of Neurology (WCN)が京都で開催されますから、それに向けて日本神経学会学術大会のグローバル化が進むのは望ましいトレンドといえます。

 しかし、国内学会の国際化は言うは易く行うは難しいというのが本当のところです。国内学会に海外の方に来ていただくには、大きな壁があり、国際学会を日本で開いて海外の方に来ていただくよりも、まだ難しいと思います。これには言葉の壁が大きいと思います(国内学会は基本的に日本語でやりますから)。また日本はアジアの他の国々に比べて物価が高いということも障壁になっていると思われます。神経学会学術大会は、実務を担うPCO(Professional Congress Organizer、いわゆるコンベンション業者のこと)の選定は、第54回大会から2年ごとに一括して学会本体として選定・契約するということになり、第54回大会と第55回大会はコングレ社に決まっています。私もその選定委員会に委員として加わりました。コングレ社のプレゼンで提示された同社の豊富な海外ネットワークは、大いに期待を抱かせるものでしたが、全く役にたちませんでした。コングレ社の海外ネットワークを通じての宣伝で来てくれるという海外の方は、実質ゼロと思います。100題を越える海外からの応募の大部分は、私個人や九大神経内科のつながりによるものです。というのは、応募者名をみると、どのようなつながりでこの人は応募してくれたかを思い浮かべることができるからです。ただ、そうはいっても企画プログラムも含めて200人を超える海外の方が参加される予定ですから、今回の学術大会の参加を通じて、日本の国内学会であるけれども参加して有意義だったという感想を抱いて帰国していただきたいと願っています。それが次の第56回学術大会への参加につながるものと期待しています。

表.海外からの一般演題への国別応募状況

国・地域

一般演題応募件数

台湾

38

中国

38

フィリッピン

14

ブラジル

9

USA

4

タイ

3

インドネシア

2

英国

1

マレーシア

1

香港

1

合計

123

 ここで一点感想を述べますと、表を見ていただくと一目でわかりますが、福岡に最も近い韓国からの一般演題応募はゼロです。福岡・釜山は飛行機でわずか30分ほどです。これは私の個人的なつながりを通じての働きかけがなかったわけではありません。また中国、台湾、フィリッピンの神経学会同様に韓国の神経学会にも、貴学会からの推薦者には必ずトラベルグラント(これは福岡までの航空運賃により8万円から10万円です)を出しますので、ぜひ一般演題に応募してほしいとのお願いのお手紙も送りましたが、それも全く無視されて応募はありませんでした。これはいささかショックでした。韓国神経学会としての方針が決まっているのかもしれませんね。WCNの開催を日本、韓国で争って日本が勝ったということもあるでしょう。それにしてもなんでこの演題登録の時期に安部首相が靖国神社に参拝するのかという思いはありました。

 もっとも今回初めて学会会場を他のアジア諸国とインターネットで結んで実施するtelemedicineセッションでは、韓国のソウル大学神経内科が参加してくれますし、韓国からの招待講演者、座長、若手医師の学会参加もありますので、全く参加がないというわけではありません。この点はよかったと思っています。中国や台湾からは多数の一般演題応募があり、特に台湾からの演題は質的にもレベルが高いのに驚きました。はるばるブラジルからも多くの一般演題応募があったのは、大変うれしいことです。会員が対象の最優秀口演賞、最優秀ポスター賞とは別に、英語セッションでは海外の方も含めて最優秀英語口演賞、最優秀英語ポスター賞を選定・表彰する予定です。その候補演題は既に学会ホームページ上に掲載されています。国際政治の状況は、オリンピック同様に学術大会に影響がないとはいえませんが、このような時期だからこそ学術を通した民間レベルの国際交流は意義があるといえましょう。会期中に予定されている、Kyushu Night(オープニングセレモニー)、Asian Night(全員懇親会)、マリエラクルーズなどの社交行事を通じて、顔の見える国際交流が進むことを期待しています。

 ただ私は行き過ぎた国際化はいましめるべきと考えています。全ての一般演題や企画プログラムを英語化する必要は全くないと思います。国内学会ですから、日本語の方が発表しやすいとか、日本語で発表を聞きたいという会員の方も多いと思います。また、ある部分は日本語のスライドやポスターの方が理解しやすいということもあると思います。そのあたりは適切な日本語・英語セッションのバランスを保つことが大切でしょう。全体の1〜2割程度を英語にするというのが、現時点では現実的ではないかと私は感じております。

 一方、本学術大会では、若手のアクティブな大会参加を期待しています。レジデントセッションには50題の演題応募がありましたし、レジデントクリニカルトーナメントにも33チームの参加応募がありました。レジデントクリニカルトーナメントは3段階選抜で行いますが、ユニークなチーム名のグループが多いので、どの参加チームにも勝ち残って壇上に上がってほしい気持ちです。さらに医学生・初期研修医の方に神経内科への関心をもってもらうために、医学生・初期研修医セッションを設け、23題の応募がありました。医学生は学術大会参加無料としていますから、5月23日(金曜)夜のAsian Nightや、5月24日(土曜日)の教育的なセッションには、多くの方が参加してほしいものです。なお事前に学術大会事務局に連絡していただければ、医学生の方には100名程度トラベルグラント(最大5万円まで)を出す予定にしています。全国の医学生、初期研修医の方が、本学術大会を通じて神経内科に関心を持ち、少しでも入局につながればいいですね。

 ところで、私は平成26年度の入局予定者(中途入局の2名を含む8名)で、教授になってからの入局者が100名を越えます。正確には平成26年度の入局予定者は、私にとって96人目から103人目の入局者になります。もともと九大神経内科は、年平均3名程度の入局者しかありませんでしたから、教授になった時に100人の入局者を目標にしました。紆余曲折はあったものの、それを達成できてよかったと感じています。特に初期研修必修化のあおりを受けて2年間入局がなく、その後も入局者数の回復に時間がかかったのは、本当に痛かったです(したがって103人は、17年間、実質15年間の入局者ということになります)。15年のうち12年は6人以上入りましたので、だいたいコンスタントに適切な数の方が入ってくれていると感じています。私たちの教室も関連病院が増えて充実したばかりでなく、この数年は大規模な神経疾患のヒトコホートの遺伝・環境因子研究と動物モデルでの分子レベルの研究がつながるようになって、研究が本当におもしろくなってきたと感じています。教室では、臨床と研究のバランスを大切にしていますので、ぜひ多くの若い人に神経内科の領域に入ってきてほしいものです。

 2015年の医学部卒業生からは新しい専門医制度が適応されます。そうなるとまた神経内科入局者数への大きな影響が出ることが懸念されます。本学術大会では、最終日に専門医制度をめぐるフォーラムが企画されていますから、ぜひ多くの会員の方にご参加いただいて、ご意見を述べていただきたいと思っています。日本神経学会教育委員会(私が委員長)が実施した、我が国の神経内科教育の実態調査結果報告3部作(医学生教育、研修医教育、大学院生教育)が臨床神経学誌に掲載されますので、会員の皆さんにはぜひ読んでいただきたいと思います。これを見ると我が国の神経内科教育の実態と課題がよくわかります。全体としてみると、全国の大学神経内科の入局者数は漸減傾向にあり、ついに年平均2名を切ったというのが実情です。特に地方大学での入局者数が少ないのが大きな問題です。学会全体として危機感をもって神経内科入局者数の増加に取り組む必要があると考えます。本学術大会がそのような一助になれば幸いです。学会の事前参加登録は、東京で開催された第54回大会より2週間早く始めましたが、福岡での開催ということもあって、今のところ参加登録数は同時期の第54回大会を下回っております。ぜひ福岡まで多くの方に足をお運びいただければと願っています。

平成26年3月28日
吉良潤一