【英文症例報告と国際化(2004年7月)】

  九州大学神経内科には現在、中国から4名、台湾から1名、フィリピンから1名の計6名の留学生がいます。 この他にも中国人医師1名が日本の医師国家試験に合格して神経内科に入局しトレーニング中です。あと、この秋から冬にかけて2名新たに受け入れの予定です。 国際化というより日中はほとんどチャイナタウン化のような感もありますが、目指すところは国際化です。 台湾とフィリピンからの留学生は英語でのコミュニケーションになりますので、私も含めて英会話の勉強と他のアジアの国々のことを知るよい機会になります。 先月、釧路に呼ばれたときは東京乗継で4時間半かかりましたが、福岡から上海までは2時間、マニラまでは3時間に過ぎません。 このように九大はアジア、中国大陸に近く、歴史的、地理的に密接な関係があり、本学自体の目標にもアジアに深く根ざした研究の展開が掲げられています。


  今、大学病院は、独立行政法人化と臨床研修必修化が同時に来ましたから、無茶苦茶忙しい状況にあります。 平均在院日数の短縮と病床稼働率の向上が叫ばれ、神経難病を抱える神経内科は本当に苦しい状況にあります(当科では入院患者の5割が、いわゆる神経難病)。 当科(31床)の現在の病床稼働率は年間を通じて大体106から107%(100%を越えているのは、共通病床を利用しているため)と高く、一方、平均在院日数は27日前後で、さらなる短縮が求められています。 このようななかで、臨床研修必修化がスタートし新卒入局がなくなりました。したがって、どこの医局でも事情は同じと思いますが、関連病院への医師派遣のためレジデントクラスから中堅クラスの医局員が大学病院で著しく不足する状況に陥りました。 しかも、当院の新システムでは研修医は2ヶ月ごとにローテートしますから、病棟で指導する立場にいる医師の仕事量はさらに増大します。 このように教員(以前の教官)の業務は著しく増えていますから、もともと教員数の少ない医局(神経内科はもっとも少ない)ほど大変です。 年間入院患者数一つをとってみても、10年前(1994年)の225人から昨年(2003年)は393人(1.75倍)に増えています(今年は昨年以上のペースですが、それでも常時入院待ちが40人ほどです)。

  ここ数年での急激な入院患者数の増加と病棟業務の増大を考えると、今いる患者さんの診療がおろそかになってもいけませんので、 なかなか病棟関係者に九大の病棟にいる間に症例報告を書くようにやかましくは言いにくい面があります。 というようなわけで症例報告をうるさくいうのは控えておりましたら、2003年の症例報告は激減しました。 症例報告を書くという文化は、書け、書け、書けと言い続けないと、すぐなくなってしまうことを痛感した次第です。

  概ねいい症例報告を書く人は優れた研究をするようであります。いい臨床医はいい研究者になり得ることが多いように感じます(ただ逆は真でない)。 今の専門医の研修システムでは、大学病院で1年、その後に教育(関連)施設で2年の神経内科の専門的なトレーニングを積んでから大学院に進学するか、研究生になるか、ナショナルセンターに行くかして研究を始めることになります。 計3年間の専門医の修練中にただの一編も症例報告を書かないで、大学院に進学して最先端の脳科学研究をしたいなどというのは、おこがましいという他はないでしょう。 専門医資格をとって大学院に進むころになると、神経内科医としての実力には明らかな差が出てきます。これは出身大学によりません。 卒業してから勉強を続けた人は伸びていますし、そうでない人は伸びていません。その差は明らかで、こういう評価は、だいたい教員、関連病院の部長の見方が驚くほど一致します。 指導医から疑問点、問題点を指摘されて、すぐ調べる人は伸びますが、放ったらかしにしている人はまず伸びないと思って間違いないですね。


  日本神経学会の機関誌である臨床神経学が英文の投稿を受け付けるようになりました。今後の学会英文誌の発刊には英文投稿の数も考慮されるやに聞きおよんでおります。 臨床神経学の表紙には学術的な品格を私は感じます。ただ英語論文に引用するときは、Rinsho Shinkeigakuという表記になります。 これでは日本人以外にとっては、どこの国の雑誌かということになると思います。 せっかく高いレベルの症例報告が発表されているのに、英文でないため広く読まれていない、あるいは引用されないのは、本当に残念です。 日本神経学会より小規模の学会で英文誌をもっているところを眼にするにつけ、常々うらやましい気持ちにさせられているところです。 Clinical Neurology (Tokyo)として、impact factorが付いて、掲載論文が広く引用されることを期待しておられる方は少なくないのではないかと思います。 最近、アジアの国々から欧米学術誌に出された臨床教室の英語論文を眼にする機会が増えています。 このことを考えますと、アジアに位置するわが国からneurologyの領域でいち早く英文誌を出すことが、極めて大切に思われます。 英語で症例報告を書くのは大方の日本人にとっては楽な作業ではありませんが、これは国際化を目指してぜひやっていきたいことです。 教室では2004年は既に4編の英文症例報告が英文誌に出版ないしはin pressですが、毎月誰かが英文症例報告を投稿するくらいを目標にしたいと思います。 今のうちの教員は若手によく教える気持ちを持ったスタッフがそろっていると感じています。ただ、やはり厳しく指導するという点で甘いようであります。 いつの時代でも鬼軍曹は必要です。関連病院の部長先生もほぼ新しい世代に一新されましたが、ぜひ厳しい指導をお願いしたいと思います。 若い教室員の奮起を期待するとともに中堅クラスも初心に立ち帰って頑張りましょう。