Increase in p53 protein levels by presenilin 1 gene mutations and its inhibitors. (2009年7月23日)】


Ma L, Ohyagi Y, Miyoshi K, Sakae N, Motomura K, Taniwaki T, Furuya H, Takeda K, Tabira T, Kira J.
Journal of Alzheimer’s disease, 16: 565-575, 2009 (Impact Factor= 5.101)
(アンダーラインは教室関係者)

 

 

解説 (吉良潤一):

 筆頭著者の馬臨慶さんは、中国からの国費留学生です。4年間当教室に大学院生として在籍し、今春、中国に帰国しました。とても真面目で研究熱心な方で、4年間の間に2編のレベルの高いfull paperを書き上げました。これはそのうちの1編で、論文はImpact Factorが5を超える一流誌に掲載されました。教室の大八木准教授がアルツハイマー病の神経細胞内にアミロイドベータが蓄積することを世界で初めて報告し、細胞内に蓄積するアミロイドベータが神経細胞障害にもっとも初期から重要であることを提唱しています。馬さんの研究はそのライン上にあるもので、遺伝性アルツハイマー病の原因遺伝子に関する細胞生物学的研究から本理論をさらに押し進めたものといえます。
 プレセニリン1遺伝子変異は若年性家族性アルツハイマー病の主要な原因の一つです。その病的機序として、アルツハイマー病の脳内にたまるアミロイド蛋白の産生増加やアポトーシス死の促進現象が知られています。馬さんは、これら二つの主要な機序のつながりを解明するために、変異プレセニリン1遺伝子(G384AとI143T変異)を導入した2種類のトランスフェクト細胞を作成し、大八木准教授が以前に見出した細胞内アミロイドβ蛋白蓄積で誘導されるp53発現増加が上記細胞で促進されているかを調べました。I143T、G384A細胞ともp53蛋白の増加が見られ、さらに薬剤によるアポトーシス誘導でp53蛋白増加の著明な促進が見られました。一方、p53 mRNA発現は特に上昇していませんでした。大八木准教授が以前報告したのは細胞内アミロイドβ蛋白によるp53 mRNA発現増加作用でしたが、上記細胞におけるp53蛋白増加はp53蛋白のプロテアソーム分解の低下による作用と考えられました。βおよびγセクレターゼ阻害剤により細胞内アミロイドβ蛋白産生を抑制するとp53蛋白レベルが低下したことから、その病的作用が細胞質におけるアミロイドβ蛋白蓄積を介したものであると判明しました。したがって、プレセニリン1遺伝子変異が関わる若年性家族性アルツハイマー病では、細胞内アミロイドβ蛋白蓄積を抑制することが治療戦略になると期待されます。

(平成21年7月23日)