研究TOPICS

2024.03.06

病的ひきこもりと健康なひきこもりを区別する評価法(HiDE)開発  〜ゲーム障害・うつ病などを併存しやすい「病的ひきこもり」の早期⽀援実現へ期待~(精神病態医学分野・加藤隆弘准教授)

病的ひきこもりと健康なひきこもりを区別する評価法(HiDE)開発
~ゲーム障害・うつ病などを併存しやすい「病的ひきこもり」の早期⽀援実現へ期待〜
ポイント
① コロナ禍を経て、オンライン授業・在宅ワークの普及により、病的ではない「健康なひきこもり」の存在が⽰唆され、「病的なひきこもり」と区別できる指標が求められている。 
② 「病的ひきこもり」および「⾮病的(健康な)ひきこもり」を評価するためのツール HiDE(Hikikomori Diagnostic Evaluation)[構造化⾯接法および⾃記式スクリーニング票]を開発。
③HiDEによるオンライン調査で、物理的にひきこもりはじめて3ヶ⽉未満の「病的ひきこもり」の⼈がゲーム障害になりやすく、コロナ禍での縦断調査では意外にも外交的で社会的役割を希求する傾向が「病的ひきこもり」のリスク因⼦として同定された。 
④HiDEの活⽤により「病的ひきこもり」の早期発⾒・早期⽀援を実現することで、うつ病やゲーム障害など精神疾患の予防に繋がることが期待される。 

概要

「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は、⼀般的に6ヶ⽉以上にわたり就労・学業など社会参加を回避し、⾃宅に留まっている現象を指しています。最近では国外でもひきこもりに類する現象が報告され、国際的に通⽤するひきこもりの評価基準が求められています。ひきこもり研究ラボ@九州⼤学(代表:九州⼤学⼤学院医学研究院精神病態医学 准教授 加藤隆弘)では、2020年に国際的に通⽤する「病的ひきこもり(pathological social withdrawal: pathological hikikomori)」の診断評価基準を⽇⽶共同研究で開発し、「病的ひきこもり」の必要条件を「社会的回避または社会的孤⽴の状態であり、⼤前提として⾃宅にとどまり、物理的に孤⽴している状況」かつ「こうした物理的ひきこもり状況に対して本⼈が苦悩しているか、機能障害があるか、あるいは、家族・周囲が苦悩していること」としました。他⽅、コロナ禍を経て在宅ワークやオンライン授業が新しいライフスタイルになりつつある現在、物理的にひきこもっていても、病的でない「健康なひきこもり」の存在も⽰唆されています。
 今回、ひきこもり研究ラボでは、「病的ひきこもり」と「⾮病的(健康な)ひきこもり」とを区別できるツール「HiDE(Hikikomori Diagnostic Evaluation)」(構造化⾯接法および⾃記式スクリーニング票)を開発しました。HiDE では期間に関わらず両者を評価することを可能としました。 
 ひきこもり診断評価スクリーニング票 HiDE-S を⽤いて⼀般住⺠向けのオンライン調査を実施したところ、「病的ひきこもり」期間が 3 ヶ⽉未満の⼈の⽅が、「病的ひきこもり」期間が6ヶ⽉以上続いている⼈よりもゲーム障害傾向が⾼いことを⾒出しました。さらに、コロナ禍における「病的ひきこもり」の危険因⼦を明らかにするため、2019年6⽉時点でひきこもり状況になかった社会⼈を対象にオンライン縦断調査を実施しました。3割以上が「物理的ひきこもり」を経験していました。意外なことに、社交的で、社会的達成動機が⾼く、社会的役割を希求し、外交的で協調性が⾼い⼈こそが、コロナ禍における「病的ひきこもり」の潜在的な危険因⼦でした。 
 今回開発したひきこもり評価ツール HiDE により、⽀援が必要なひきこもり状態にあるかどうかをスムーズに判断できます。さらに、HiDE の活⽤により、ひきこもりに関連する様々な精神疾患の予防や早期⽀援につながることが期待されます。今回の HiDE を⽤いた調査結果は、ポストコロナ時代の新しい⽣活様式におけるひきこもり対策の難しさを⽰唆しており、新しい価値観に基づく抜本的なひきこもり⽀援体制の整備が求められます。 
 今回の⼀連の成果は、世界精神医学会(WPA)が発⾏する国際学術誌「World Psychiatry」2023年10⽉号、⽇本精神神経学会が発⾏する国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences (PCN)」2024年1⽉号に掲載され、最新成果は PCN誌オンライン版に2024年2⽉29⽇午前10時(⽇本時間)に掲載されました。

【研究の背景と経緯】 
 「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は、⼀般的に社会参加せずに6ヶ⽉以上⾃宅にとどまり続ける状態であり、2023年3⽉の調査では、ひきこもり状況にある⼈は国内140万⼈を越えると推定されています。ひきこもりは⽇本固有の現象と考えられてきましたが、近年、様々な国で、ひきこもり的状況にある⼈の存在が報告され、2022年には国際的な精神疾患診断バイプルとして知られる⽶国精神医学会発⾏のDSM-5改訂版に「hikikomori」として掲載されました。 
 他⽅、コロナ禍を契機として、ICTの活⽤が急速に進み、オンライン授業・在宅ワークの普及によって、直接的な社会参加や対⼈交流がなくとも健康的に⽣活できるようになりました。物理的に外出が少ないからといって、すべての⼈が病的とは⾔えず、病的ではない「健康なひきこもり」の存在が⽰唆されつつあり、「病的なひきこもり」と「健康なひきこもり」を区別する指標が求められています。 
 ひきこもり研究ラボ@九州⼤学では、ひきこもりの⽣物・⼼理・社会的理解に基づく⽀援法開発を進めています。2020年には、国際的に通⽤する「病的ひきこもり(pathological social withdrawal: pathological hikikomori)」の診断評価基準を⽇⽶共同研究で開発し、「病的ひきこもり」の必要条件を「社会的回避または社会的孤⽴の状態であり、⼤前提として⾃宅にとどまり、物理的に孤⽴している状況」かつ「こうした物理的ひきこもり状況に対して本⼈が苦悩しているか、機能障害があるか、あるいは、家族・周囲が苦悩していること」としました。 

【研究の内容と成果】 
(研究①) 
 今回「病的ひきこもり」および「⾮病的(健康な)ひきこもり」を簡便に評価するためのツール HiDE(Hikikomori Diagnostic Evaluation)の独⾃開発に成功しました。HiDEは、専⾨家が実施する構造化⾯接(インタビュー)HiDE-Iと、当事者がアンケート形式で答える⾃記式スクリーニング票 HiDE-S(表1)があります。 
HiDE-S の使⽤⽅法(図 1): 
[質問1,2,3 で「物理的ひきこもり」の程度とその期間を評価] まず、質問1で短時間の外出の頻度を把握し、質問2で質問1以外の外出の頻度を評価します。質問1で週4回以上の短時間外出があっても、質問 2 で週3⽇以下の外出頻度であれば「物理的ひきこもり」と評価します。質問2の外出頻度に応じて、週4回以上は「ひきこもりなし」、週2-3回は「軽度」、週1回以下は「中等度以上」とします。質問3でその期間を評価します。3ヶ⽉以上6ヶ⽉未満は「プレひきこもり」、6ヶ⽉以上は「ひきこもり」とします。3ヶ⽉未満であっても、「苦悩の存在や機能障害」があれば、なんらかの⽀援を推奨します。質問4は、⾃⾝の外出に関する主観です。⽀援では重要な項⽬であるが、診断には直接関係しません。 
[質問5〜質問11の7つの質問で「苦悩の存在および機能障害」を評価] ⼀つでも「はい」があれば「病的ひきこもり」の可能性あり、と評価します。すべて「いいえ」であれば「⾮病的ひきこもり」の可能性あり、と評価します。たとえば、質問2で「物理的ひきこもり」の基準を満たしても、質問5〜質問11のすべてが「いいえ」であれば「⾮病的ひきこもり」の可能性あり、と評価します。 
[質問12で現在の社会的状況を評価] 在宅ワーカーやリタイア(定年後)の⽅々の中には「物理的ひきこもり」に該当することが稀ではありませんが、多くは「⾮病的ひきこもり」と想定されます。こうした⽅々の中で万が⼀、「病的ひきこもり」に該当する際は、なんらかの⽀援を推奨します。なお、HiDE-Sはあくまでスクリーニングを⽬的としていますので、厳密な評価のためには専⾨家による構造化⾯接(HiDE-I)の実施を推奨します。 
( World Psychiatry2023年10⽉号および「ひきこもり研究ラボ@九州⼤学のHP(https://www.hikikomori-lab.com)」より引⽤) 
(研究②) 
 また、オンラインゲームの普及により、世界的にゲーム障害への注⽬が集まっていますが、ひきこもりとゲーム障害の関連を⽰した研究はいまだ少ない状況です。そこで両者の関連を調べるために、HiDEを活⽤したオンライン調査を全国の20〜59歳の未就労者500名を対象として実施しました。外出状況と機能障害の有無をもとに「⾮ひきこもり」と「病的ひきこもり」「⾮病的ひきこもり」に分類し、さらにひきこもり継続期間をもとに7つのグループに分けました(図2)。GAS7−J・PHQ-9・TACS-22といった⾃記式スケールにより、ゲーム障害傾向・うつ傾向・新型/現代型うつ傾向の強さを数値化し、U検定でグループ間の差の⽐較を⾏いました。 
 「⾮病的ひきこもり」群よりも「病的ひきこもり」群の⽅が、抑うつ傾向が有意に⾼値でした(図2左)。「病的ひきこもり(3ヵ⽉未満)」群が最もゲーム障害傾向が⾼く、「病的ひきこもり(6ヵ⽉以上)」群と⽐べ、有意に⾼値でした(図2右)。 
 「病的ひきこもり(3ヵ⽉未満)」群のゲーム障害傾向が有意に⾼かったことから、ゲーム障害傾向の有無に対するロジスティック回帰分析を⾏い、判別に関する予測因⼦を探索しました。その結果、PHQ-9「抑うつ傾向」⾼値、TACS-22「社会的役割の回避」低値、「物理的ひきこもりによる機能障害」有の3因⼦がゲーム障害傾向の有無を予測する因⼦として同定されました。 
 興味深いことに、最も利⽤されていたゲームはロールプレイングゲームでした。「社会的役割の回避」傾向の低さがゲーム障害傾向を有意に上げる予測因⼦であったという結果に鑑みると、ひきこもり状態に陥った際、社会的役割(ソーシャルロール)の喪失を補うために、ゲーム世界で⾃分の役割を獲得することを⽬的にロールプレイングゲームなどのゲームを過剰に使⽤することがゲーム障害に陥る誘因かもしれないことを⽰唆しています。
(研究③) 

さらに、コロナ禍における病的ひきこもりの危険因⼦を明らかにするため、2019年6⽉時点でひきこもり状況になかった全国の社会⼈561名を対象に、オンラインによる縦断調査を2020年6⽉から2022年4⽉まで複数回実施しました。コロナ禍になり、3割以上の⼈が⼀度は「物理的ひきこもり」状況に陥っていました(図3)。「物理的ひきこもり」と評価された⼈々の中の6割以上は「⾮病的ひきこもり」と判断されましたが「病的ひきこもり」に陥っている⼈も数割存在していました(図4)。意外なことに、社交的で、社会的達成動機が⾼く、社会的役割を希求し、外交的で協調性が⾼い⼈こそが、コロナ禍における「病的ひきこもり」の潜在的な危険因⼦として同定されました。こうした因⼦は⼀般的にひきこもりとは関係ない因⼦と想定されていましたが、コロナ禍では逆説的に「病的ひきこもり」の潜在的な危険因⼦になることが⽰唆されました。この結果は、ポストコロナ時代の新しい⽣活様式におけるひきこもり予防や対策を考える上で重要な資料になると思われます。 

【今後の展開】 
 今回開発したひきこもり評価ツール HiDE により、「病的ひきこもり」と「⾮病的(健康な)ひきこもり」の評価を簡便に⾏うことができ、⽀援が必要なひきこもり状態にあるかどうかをスムーズに判断できるようになります。さらに、HiDE-Sの健診などでの活⽤により、ひきこもりの予防やひきこもりに関連する様々な精神疾患の予防・早期⽀援につながることが期待されます。今回のHiDEを⽤いたオンライン調査の結果は、ポストコロナ時代の新しい⽣活様式におけるひきこもり対策の難しさを⽰唆しており、新しい価値観に基づく抜本的なひきこもり⽀援体制の整備が求められます。

【謝辞】
 本研究の⼀部は、JSPS 科研費 (JP16H06403, JP18H04042, JP19K21591, JP20H01773 and JP22H00494)、AMED(JP21wm0425010)、JST-CREST(JPMJCR22N5)の助成を受けて実施しました。 
【論⽂情報】(責任著者*) 
①掲載誌:World Psychiatry 
タイトル:The Hikikomori Diagnostic Evaluation (HiDE): a proposal for a structured assessment of 
pathological social withdrawal. 
著者名:Alan R. Teo, Kazumasa Horie, Keita Kurahara, Takahiro A. Kato* 
DO I:10.1002/wps.21123 

②掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences 
タイトル:Hikikomori and gaming disorder tendency: A case-control online survey for non-working 
adults. 
著者名:Taisei Kubo, Kazumasa Horie, Toshio Matsushima, Masaru Tateno, Toshihide Kuroki, 
Tomohiro Nakao, Takahiro A Kato* 
DO I :10.1111/pcn.13614 

③掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences 
タイトル:Unexpected risk factors of pathological hikikomori during the COVID-19 pandemic among 
working adults initially without social isolation: A longitudinal online survey. 
著者名:Kuan-Lun Huang, Ryoko Katsuki, Taisei Kubo, Jiun-Yi Wang, Shinji Sakamoto, Tomohiro 
Nakao, Takahiro A Kato* 
D O I :10.1111/pcn.13647 
【参考資料】
表 1. ひきこもり診断評価スクリーニング票(HiDE-S)


【お問合わせ先】
九州⼤学⼤学院医学研究院精神病態医学 准教授 加藤 隆弘(カトウ タカヒロ) 
TEL:092-642-4521 FAX:092-642-4521 
Mail:kato.takahiro.015(a)m.kyushu-u.ac.jp 
※(a)を@に置き換えてメールを送信してください
HP:https://www.hikikomori-lab.com(ひきこもり研究ラボ@九州⼤学)
ページのトップへ