研究TOPICS

2024.04.10

顔面発症感覚運動ニューロノパチー(FOSMN)の臨床像を解明 ~早期診断・治療・社会資源導⼊につながることが期待される~ (神経内科学分野・⼭﨑 亮准教授)

顔面発症感覚運動ニューロノパチー(FOSMN)の臨床像を解明
~早期診断・治療・社会資源導⼊につながることが期待される~
ポイント
① 顔面発症感覚運動ニューロノパチー(FOSMN)は徐々に全身の感覚・運動障害が進行する神経疾患ですが、認知度が低く国内
 における患者数や症状の特徴などが⼗分にわかっていません。

② 本研究では全国のFOSMN患者さんの臨床情報を収集・解析し、日本におけるFOSMNの患者数や臨床像を明らかにしました。
③ これにより、FOSMNの特徴や経過をふまえ、より早期の診断、適切なタイミングでの治療や社会資源の導入に役立つことが
 期待されます。 


 
【概要】
 顔面発症感覚運動ニューロノパチー(Facial Onset Sensory and Motor Neuronopathy、FOSMN)は、顔面もしくは⼝腔内の感覚障害から発症し、感覚障害が嚥下・構音障害などの運動症状とともに次第に下肢に向かって広がっていく症候群です。非常に稀な症候群と考えられていますが、症状が複雑で多くの診療科にまたがって受診している場合があり、確定診断に⾄りにくく、未診断例も多いことが予想されます。世界でも100例程度の報告しかないため、FOSMNの有病率や臨床像はまだ十分に明らかになっていませんでした。⼀方、症状は重篤で、筋萎縮性側索硬化症(※1)に近い症候群であると考えられており、病気の進行とともに体が不⾃由になりますが、病気が十分に認知されておらず、社会福祉サービスなどが整っていません。
 九州大学大学院医学研究院神経内科学分野の⼭﨑亮准教授、医学系学府博士課程4年の江千里らの研究グループは、国内初のFOSMN症候群の全国臨床疫学調査(※2)を実施し、国内における推計患者数、FOSMNの詳細な患者像免疫治療への反応性などを明らかにしました。更に、世界で初めてFOSMNの病型分類を行い、FOSMNの中でも特に進行の早い⼀群があることを発見しました。国内におけるFOSMNの臨床像が明らかになったことで、疾患の周知、早期診断や適切なタイミングでの治療介入、社会福祉サービスの導入が可能となることが期待されます。
 本研究成果は、世界神経学会の公式な国際学術誌「Journal of the Neurological Sciences」に 2024年3月23日(土)に掲載されました。

 
↑FOSMNの病型毎の発症からの期間の比較
 FOSMN患者さんの主体となる症状が感覚症状か運動症状かで分類しました。運動症状が主体となる病型(赤)では、より短い期間で障害が強くなっていることが分かります。


 


【研究の背景と経緯】 
 FOSMNは、顔面もしくは口腔内の感覚障害から発症し、感覚障害が嚥下・構音障害などの運動症状とともに次第に下肢に向かって広がっていく症候群です。世界でも 100例程度の報告しかないため、FOSMNの有病率や臨床像はまだ明らかになっていません。診断基準もはっきりとは定まっておらず、治療方法も見つかっていない病気です。
 しかしながら、症状が多彩で歯科、脳神経内科、脳神経外科、整形外科、耳鼻咽喉科など多くの診療科にまたがって患者さんが受診している可能性があり、未診断例も多く存在することが予想されます。筋萎縮性側索硬化症(※1)に近い症候群であると考えられており、病気の進行とともに体が不自由になり、呼吸不全もきたしますが、病気が十分に認知されておらず、社会福祉サービスも整っていません。本研究では、日本におけるFOSMNの患者数や臨床像を調査しました。 

 

【研究の内容と成果】 
 私たちは、FOSMNの全国臨床疫学調査(※2)を行い、国内における FOSMNの推計患者数を 35.8人と算出しました。
また、全国から集めた21例のFOSMN患者の臨床情報を解析した結果、「角膜反射(※3)や咽頭反射(※4)の障害、瞬目反射検査(※5)の異常がFOSMNの早期診断に有用なこと(図 A)」、「発症早期で免疫療法が症状を和らげる可能性があること」などが分かり、FOSMNの臨床像を明らかにしました。
 更に、21例のFOSMN患者を運動症状が強い群、運動症状と感覚症状が同程度である群、感覚症状が強い群の3群に分けたところ、より症状が重く日常生活への支障が大きい運動症状が強い群で最も発症からの期間が短いことが分かりました。すなわち、「運動症状が強い患者さんは進行が早いこと」を発見しました(表 B、図 C)。
 


【今後の展開】
 FOSMNの臨床像が明らかになったことで、FOSMNの患者さんをより早期に診断し、病型によって適切なタイミングで治療や社会福祉サービスの手配を行っていくことができるようになります。また、本症候群が世に広く知られることで本症候群の知見がさらに集まり、診断される患者さんが増え、今後、病気の原因の解明や治療法の開発につながることが期待されます。

【用語解説】
(※1) 筋萎縮性側索硬化症…大脳及び脊髄運動神経の進行性の変性により全身の筋力低下、嚥下・構音障害、呼吸不全をきたす神経難病の1つ。
(※2) 全国臨床疫学調査…ある疾患の国内における患者数や分布、病気の実態などを理解するために、日本全国を対象として行われる調査。
(※3) 角膜反射…角膜を刺激すると瞼が閉じる反射。
(※4) 咽頭反射…喉を刺激すると嗚咽が出る反射。
(※5) 瞬目反射検査…瞬目反射は三叉神経(顔の感覚を司る神経)と顔面神経(表情筋を司る神経)をつなぐ神経回路によっておこる反射。この神経回路のつながりに異常がないかを調べることができる電気生理学的検査(電気刺激等によって神経のつながりに異常がないかを調べる検査)の手法。
【謝辞】
 本研究は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「Facial onset sensory and motorneuronopathy (FOSMN)に関する全国臨床疫学調査とそれに基づいた診断治療指針の策定と患者レジストリの構築」(19FC1001)、「神経変性疾患領域の基盤的調査研究」(20FC1049)、「神経変性疾患領域における難病の医療水準の向上や患者の QOL 向上に資する研究」(23FC1008)の助成を受けて行われました。
【論⽂情報】
掲載誌:Journal of the Neurological Sciences
タイトル:A nationwide survey of facial onset sensory and motor neuronopathy in Japan
著者名:Senri Ko, Ryo Yamasaki, Tasuku Okui, Wataru Shiraishi, Mitsuru Watanabe, Yu Hashimoto,
    Yuko Kobayakawa, Susumu Kusunoki, Jun-ichi Kira, Noriko Isobe.
D O I :10.1016/j.jns.2024.122957
【お問合わせ先】
九州大学大学院医学研究院 神経内科学分野 准教授 山﨑 亮(ヤマサキ リョウ)
TEL:092-642-5340 FAX:092-642-5352
Mail:shinkein(a)neuro.med.kyushu-u.ac.jp
※(a)を@に置き換えてメールを送信してください
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